「…………相変わらずね、




 ため息交じりで声をかければ、相手はの方へ視線を向ける。

 そして、友人との再会を喜ぶかのように笑顔をむけた。




「久しぶりだな、

「何が『久しぶり』よ。さっきは会って、本当にびっくりしたんだから。いつからこんなドッキリ仕掛けるのが得意になったのかしら?」

「さあ、それは俺に限ったことじゃないだろう?」




 余裕たっぷりな姿は相変わらずで、呆れて何も言えなくなる。

 これも昔から変わらないことで、少し懐かしくも感じる。




「そっちこそ何時から神職なんてものに鞍替えしたんだ」

「それはこっちの台詞。いつから“外”に? 上司とはどういう関係なの?」

「質問が多いな」

「多くちゃいけないかしら?」

「いや、アンタらしいと思っただけだ。」




 聞きたいことが多いのはお互い様だと、は思う。

 だが彼はそれを口にせず、相手の様子を伺いながら話すことぐらい、はとっくに知っていた。



 がくくっと喉で笑い、手にしている酒を一口運ぶ横で、

 先ほどまで彼と飲み比べをしていた男が、他のテーブルへ移動していた。
 のために席を空けているのだ。




「で、『いつから“外”に?』だったか。 そうだな……“ソール”としては、もう何年も前からだな」

「それは、陛下の命で来ているの?」

「なんでそこで『あの人』が出てくる?」

「そう思っただけ。気に障ったなら、無視してくれて結構よ」

「お前が知らないだけで、俺は昔っからこうだ」

「知ってる」




 と共にすごした時間は、決して長くはない。

 しかし、それでも彼がどんな人物なのかぐらいはすぐに分かる。
 だからこの意外そうな顔もわざとだというのも見抜いていた。



 席が片づけられ、の横に腰掛ける。

 お薦めだというウィスキーをロックで注文し、それを受け取り、
 その横でも、先ほどから飲んでいるものと同じものを注文した。




「……で、上司とはどうやって?」

「そうだな。……普通に“もの”を売る売人と、“もの”を買う客として利害が一致した、とでも言おうか」

「何だか、意味心な回答ね」

「あのなぁ、一応こっちだって商人なんだ。客のプライバシーくらいは護るのが普通だろう」




 はカテリーナの部下なのだが、それとは違う、もう1つの顔を持つ。



 前教皇聖下、グレゴリオ30世の命で、は護衛役を務めていた。

 それは今も同じだが、任務などの関係で、そう毎回出来なくなっていた。



 それにたまにだが、カテリーナはに何か隠し事ををしているような気がしていた。

 追求しようとしても、すぐに口を開くことがなく、それが時にもどかしいと思っていたのだ。
 その1つが、隣にいる青年との密会なのであれば、それを追求する必要がある。




「一応私、上司の護衛係も兼ねてるのよ。知っておいて当然だと思わなくて?」

「そうだな。それも一理あるか」




 いつの間にか飲み終わったグラスのすぐ隣のカウンターをトントンと叩く。

 そのしぐさが何を意味しているのか分かったのか、は少々呆れながら、
 相手の要望を聞く。




「……ご希望の品は?」

「マスター、同じものを」




 はかなりの酒豪だ。

 自身もそうなのだが、彼ほど底なしの者に会ったことがない。
 そしてそれをうまく利用するのも、また彼らしいところだ。




「……、お前は何時からカテリーナの護衛に?」

「いろいろと訳ありで……、と、いうだけじゃダメね、あなたの場合」

「事情があるのは、まあ、お互い様だ。 質問の仕方を変えるか……ヴェニスの稼動堰襲撃事件は知っているか?」




 最後の方は、回りに聞こえないように小声で話す。

 周りに関係者がいるかもしれないからだ。




「当然。私を誰だと思って?」

「じゃあ、その“稼動堰を襲撃した”犯人は?」




 次に飛び出した質問に、の動きが一瞬止まる。

 一方のは、マスターが持ってきた酒を受け取りつつも、
 に視線を向けたままだった。



 ヴェネツィアでの稼動堰襲撃事件。

 その犯人は、が所属するAxにとっての最大の敵。
 いや、“世界の敵”という言葉が正しい集団だ。
 だがそのことを知っているのは、Axのメンバーしかいないはずで、
 思わず目を顰めてしまう。




「……何が言いたいの、?」

「……そいつが俺とカテリーナの最初の商談のきっかけになった。正確には、“ソール”の噂を聞きつけたカテリーナが、

俺に接触を図ってきたのが最初だが」

「なるほど、ね……」




 有名な情報屋なら、自分が知りたい情報を持っているかもしれない。 

 それが、カテリーナが――正確には“ソール”に接触した理由だった。
 この理由に、は納得せざるを得なかった。



 自身、宿敵“薔薇十字騎士団(ローゼンクロイツ・オルデン)”の情報を手に入れるのは、現段階ではかなり困難で、
 幹部メンバーの情報を手に入れるだけで精一杯だった。
 だからカテリーナが、他の情報提供者を探していることに納得がいく。
 自分の力のなさに怒りを覚えるが、それを相手に伝えるわけにはいかない。
 は何とかして、その表情を抑え込むと、再びに話しかける。




「……で、あなたはあいつらの情報を、一体どれぐらい持っているわけ?」

「どうだろうな。……だが、俺が“商品”としてあまり扱いたくない、と言えば分かってくれると思うが」

「十分すぎるぐらいよ。……私も半分は、それが理由で彼女の護衛をやっているようなものだし」

「そうか。まあ、どっちもどっちってところだな」




 が自嘲気味にふと息だけで嗤うと、も小さくため息をつく。

 どうやら、厄介な相手だということは同意見らしい。

















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