それは彼女にとっても、その者は大事な存在だからだ。
「スフォルツァ猊下にお会いする前から、彼と私は知り合いだった。どんなことがあっても、彼は優しく、温かく見守ってくれた」 「……そう、だったんですね。」
当時、彼女の上司でもあったヴァーツラフだった。 その後、何度も意見の食い違いを繰り返してきてたが、彼の心の広さと温かさに、 徐々に心を開き始めていた。
彼と共にいる時間を、大事にしたい。 そして、もっといろいろなことを教えて欲しい。 だがもう、その優しい笑みも、温かな手も、何もない。
きっと穏やかで、安らいでいたに違いない。 きっと満足な死を、迎えたに違いない。 もしそうだとしても、クレアはヴァーツラフを惨劇へと向かわせた相手を許すことが出来なかった。
心の中に、響き渡る。
ルシアが決して、好き好んでこの結果を選んだことなど、 しかし、それでも、ヴァーツラフがいなくなったことには変わりはない。 それも彼女が“騎士団”の1人だったとなると、「裏切られた」という想いはさらに強くなる。
そんな彼女を見て、クレアも思わず呟いてしまう。
「……そう、ですね。だから、ルシアは……完全にとは言いませんが、悪くは無いんです。悪いのは、“騎士団”に抵抗する術も持たなかったのに、Axに……いえ、ルシアと、ハヴェル師匠の優しさに甘えて、何もしなかった私の所為なんです」
追い込めば追い込むほど、全てわが身に跳ね返っていく。 それをよく知っているのは、クレア本人だった。
「……はい。でも、だから、カテリーナ様や、アベル、それから、クレアさん達にも、ルシアを……許して欲しいなんて言いません。けれど……怨まないで、欲しいんです。怨む原因は……私にあるのですから」
全てを自分のせいにしようとしているに、クレア自身が耐えきれなくなったからだ。
「……勘違い?」
「でも、ルシアの事は……」 「ええ、怨んでいるわ。次に会った時には、絶対に許さないと思う」
かといって、すぐに無視出来るほど冷たい人間でもない。 そして、1人で全て背負おうとしている人物を放っておけるほど無責任な人間でもない。
しかし、この目の前にいる少女が止めてくれるのであれば、 だからこそ、なおさら、にこれ以上、苦しんで欲しくなかった。
「私は別に、お礼を言われるようなことは言ってないわよ」 「いえ……その言葉だけでも十分です。 ……分かりました。私、頑張ってルシアを連れ帰ります。それで、クレアさんも、止めて……みせます」 「期待しているわよ……、」 「はい」
その笑顔をずっと見ていたいと、心の底から思う。 そしてその笑顔がある限り、クレア自身も、ずっと笑顔でいたいと思う。
そう思いながら、クレアはゆっくりと立ち上がった。
「私でよろしかったら。 ……クレアさん……改めて、よろしくお願いします」
しかし、その手を取ると、どことなく大きく、そして力強く感じた。
クレアは心の底で、そう誓ったのだった。 |
少しだけ補足を。
今回のこの話は、幸里さんサイトのRAM3後の話になっていて、
クレアはプラーク戦役とは別の任務に就いていることになっています。
ご了承くださいませ。
クレアはあまり仲間意識をしたことがないんだけど、それでも裏切られた衝撃は大きく、
その妹であるちゃんに対して、どう接すればいいのか、
彼女自身の中で葛藤があったんじゃないかと、今考えてみると思います。
相手の気持ちや考えを知った上で、ようやく笑顔を見せたのは、その葛藤が解かれたからでしょう。
そうなってしまえば、クレアは全力でちゃんを大切にすると思います。
ということで、クレア編は以上で。
ちゃん編の感想は、その時にでも。
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