「カテリーナ様、今、ルシアって!」
「キリエさん!?」
「ルシアに……、ルシアに何か、あったのですか!?」
「……彼女が、ルシア・カーライルの妹、キリエ・イシュトーですか、猊下?」
「ええ。……そう言えば、対面するのは初めてでしたね。キリエ、こちらはAx派遣執行官“フローリスト”、
シスター・クレア・キースです」
「初めまして、シスター・キリエ・イシュトー。クレア・キースよ」
「キリエ・イシュトーです。……よろしくお願いします、シスター・クレア」
(このあたりで、2人は握手を交わしている、ということになってます)
「それで、ルシアがどうしたのですか? どこかで会ったのですか?」
「あなたには関係のないことよ。話す必要なんてないわ」
「ルシアは私の姉です。ですから、知る権利があります」
「だったら私ではなく、直接猊下に聞いたらどう? 私が話すことはないわ」
「クレアさん! 何も、そんな冷たい言い方しなくても……」
「私はあまり、彼女のことを考えたくないだけ。考えるだけ、時間の無駄よ」
「……分かりました」
(カテリーナが会話を止めるように声を上げます)
「私が説明しろと言うのであれば、私がします。しかし、今回の件に関しては、シスター・クレア、あなたが直接、
シスター・キリエに話した方がいいでしょう」
「猊下!」
「あなたが彼女のことで、どんなに苦しんでいるのか、どんなに辛いのか、よく知っています。しかしあなたより
も、肉親であるキリエはもっと苦しんでいるのです。それなら、直接対面したあなたが、直接伝えるのが筋という
ものではありませんか?」
「………………………承知いたしました」
(クレア、長く、深いため息をついてます)
「件のことは、私が彼女に報告します。……それでよろしいですか?」
「ええ、結構よ」
「それでは、場所を変えましょう。ここでは、人が多すぎるわ」
「あ、はい。……猊下、失礼いたします」
(クレアが一人、すたすたと扉へ向かって歩いている。そのあとをキリエちゃんが急いでおいかける)
「クレアさん」
(アベル、不安そうな顔でクレアを見つめる。そんな彼に、クレアが小さくため息をつく)
「そんな不安そうな顔をしないで。別に私、彼女をいじめるわけじゃないんだから」
「もしそうだとしたら、その表情をどうにかして下さい」
「努力するわ」
(クレアとキリエちゃん、執務室を後にする)

「申し訳ありません、シスター・キース……でも、詳しくお話を聞かせてください。……よろしくお願いします」
「先日、(場所、どこがいいかなby紫月)ルティウム近郊にいるある司祭を、麻薬密乳容疑で取り押さえるよう
に、スフォルツァ猊下に命じられたの。しかし、私が彼を発見した時には、すでに殺されていたの」
「……殺されて……」
「そう。司祭の胸元は何者かによって抉られた跡があって、彼の右手が赤く染まっていた。……結論を言えば、何者
かによって催眠術――おそらく、後催眠だと思うけど――をかけられ、教皇庁の手が回る前に殺害されたと思われる
わ」
「催眠術……それを、ルシア、が……」
「恐らく。その後、物音が聞こえて、慌てて背後を振り返った。一瞬、周りには何もないように見えたけど、しばら
くして、1羽の黒蝶が姿を現して、まるで私をどこかへ案内するかのように飛び始めた。それにつられるように進む
と、その先に……、……その先に、彼女がいたのよ」
「それで……彼女と会話など、しました? あ、いえ、内容を言いたくないのであれば、深くお聞きはしませんが…
…」
「深い話は特に。私にとって、彼女は『裏切り者』にすぎないし、その裏切り者に対していう言葉なんてないもの。
ただ……、彼女、1つだけ、私に言ったわ」
「……何と、言ったんですか?」
「妹を……」
「私を?」
「妹を……、……キリエのことを、よろしく、と……」
「私の、事を……っ……」
「意味が分からなくて、何度も呼びとめた。けど、その前に、彼女はその場から姿を消してしまった。だから理由ま
では、聞き出せなかった」
「……ごめんなさい。 シスター・クレア、本当に、ごめんなさい……」
「……どうしてあなたが謝るの、キリエ・イシュトー?」
「彼女が……ルシアが、Axを、教皇庁を、去ったのは、……私の、所為なんです。」
「あなたがウィスベル……、アズラエル・カーライルだから?」
「なんで、それを……いえ、貴女も派遣執行官なのですから、カテリーナ様がおっしゃっていても不思議ではないで
すね……」
「でも、それはきっと、要因の一つにしか過ぎないと思います。」
「要因の1つ?」
「はい。“魔術師”が言っていたんです……『約束だ』と」
「……イザーク・フェルナルド・フォン・ケンプファーか……」
「はい。 ルシアと最後に会った時、彼とも会いました。 けれど、あの人は私を連れて行けるのに、連れて行かな
かった。……ルシアと、そう『約束』したからだと言って・・・・・・。」
「そう……」
「ルシアと“魔術師”の『約束』と言うものが、正確にどんなものだったかと言うのは、私も知りません。けれど、
その『約束』を守るためにルシアは去ったんです。……こんな事を言っても、信じてもらえるか分かりませんが、ル
シアは、Axの事を、本当はとても大事にしていました。それこそ、私が羨ましいと思うほどに……」
「なのに、ルシアはイザークとの『約束』の為にその大事なものを守るために、その大事な者を手放してまでここを
去ったんです。 ……本来であれば、私が……“魔女の長”である私が、ここを去らなければ、いけなかったのに…
…!」
「……ヴァーツラフは私にとって、大事な存在だった」
「……師匠が、ですか……?」
「スフォルツァ猊下にお会いする前から、彼と私は知り合いだった。どんなことがあっても、彼は優しく、温かく見
守ってくれた」
「……そう、だったんですね。」
「Axに入ってからも、彼は何かと私を助けてくれた。見守ってくれた。いつしか私は、彼を尊敬の眼差しで見つめ
ようになっていった。彼は、彼だけは守りたいと……、本気で思ったことがあった。だから……、だから彼を、彼を
こんな目に合わせたヤツを許さない。この結果が彼の意志だとしても、私は許さない」
「……クレアさんが ― 」
「そう思うのは、仕方がないと思います」
「それだけのことを“騎士団”はしましたし、彼らの元に行ったルシアの事を、……怨むのも、仕方ないことだと思
います。 でも、だからと言って、私は、クレアさんにルシアを・・・・・・責めたりは、しないで欲しいんです」
「確かにルシアはAxを離反して、“騎士団”に寝返りました。師匠は、新・教皇庁の元へ行かれました。師匠の離を
手伝ったのはルシアだったと、“騎士団”だったと思うのも自然だと思います。けれど、ルシアは……師匠を……ハ
ヴェル師匠を好んで連れて行ったわけじゃないんです!」
「ハヴェル師匠も……私が関わらなければ……」
「……確かに、あなたが関わらなかったら、こんなことにはならなかったでしょうね」
「……そう、ですね。だから、ルシアは……完全にとは言いませんが、悪くは無いんです。悪いのは、“騎士団”に
抵抗する術も持たなかったのに、Axに・・・・・・いえ、ルシアと、ハヴェル師匠の優しさに甘えて、何もしなか
った私の所為なんです」
「……確かに、今回のことはあなたのせいかもしれない。でも、もしそうなら、あなたに後悔している時間なんてな
いはずよ」
「……はい。」
「でも、だから、カテリーナ様や、アベル、それから、クレアさん達にも、ルシアを……許して欲しいなんて言いま
せん。けれど・・・・・・怨まないで、欲しいんです。怨む原因は……私にあるのですから」
「変な勘違いをしているわね」
「……勘違い?」
「私はあなたを怨んでなどいない。私に怨む理由など、ないもの」
「でも、ルシアの事は……」
「ええ、怨んでいるわ。次に会った時には、絶対に許さないと思う。だから……」
「……だから私を、全力で止めてみなさい」
「クレアさん…………ありがとう、ございます……」(再び頭を下げる)
「私は別に、お礼を言われるようなことは言ってないわよ」
「いえ……その言葉だけでも十分です。 ……分かりました。私、頑張ってルシアを連れ帰ります。それで、クレア
さんも、止めて……みせます」
「期待しているわよ……、キリエ」
「はい」
「紅茶が冷めてしまったわね。新しいのを淹れてくるわ。よかったら、手伝ってくれる?」
「私でよろしかったら。 ……クレアさん……改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく、キリエ」
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