の謝罪の言葉に、少しばかり不思議さと訝しさを交えたような声でが問う。



「……どうしてあなたが謝るの、?」



 顔を伏せているから、にはの表情は伺えない。
けれど彼女の言葉から、彼女がどんな顔をしているのか、おおよそ予測は出来た。

いや、彼女の疑問も最もだろう。
きっとを憎む彼女は、ここから先、自分が語る内容を全ては知らないだろうから。

膝の上に乗せている両手を、強く握り締める。
そうでもしなければ、自分は声すら搾り出せそうにない。



「彼女が……が、Axを、教皇庁を、去ったのは、……私の、所為なんです。」



 そう、彼女がここを去ったのは、全て自分の所為だ。

元々自分は“騎士団”の為に『創られた生きた兵器』
 ― “魔女の長”と呼ばれる教皇庁最怖の敵とも言える存在 アズラエル・カーライル

けれどそうだった自分をここに連れ出してくれて人並みに接してくれたのは、母親の違う姉のだった。
彼女はカテリーナを説得し、自分をここに迎え入れてくれた、大事な家族。

そしてその彼女は、自分を護るために、ここを去ったのだ。


 がここを去った本当の、詳しい理由は分からない。

が“騎士団”に戻れば、本人がそれを拒もうが『兵器』として再び教皇庁の脅威となる事を避けるためだったのかもしれない。

けれどの言葉で、少なくとも彼女がここを去った理由がにあった事は確信になった。
やはり彼女が教皇庁を去ったのは 自分の所為だ。


 自分の存在を呪わずにはいられない、だと言うのに、何故自分はここに今も残っているのだろう。
かつて“死すべき闇”と罵られた“魔女の長”であるアズラエル・カーライルではなく、派遣執行官として

そんな彼女の心境を読んだ訳ではないのだろうが、あまりにもちょうどいいタイミングでが口を開いた。



「あなたがウェスペル……、アズラエル・カーライルだから?」



 の言葉に弾かれたように彼女を見上げる。
言葉を発した彼女の表情は、相変らず静かなまま。

彼女の静かな表情に、は逆に肝を冷やした。



「なんで、それを……
 ……いえ、貴女も派遣執行官なのですから、カテリーナ様がおっしゃっていても不思議ではないですね……」



 自嘲するかのような笑みが口元から自然と零れた。
彼女の冷ややかな態度は、きっと自分の正体を知っていたことも含まれていたのだろう。


己は自分の過去を 過去に起こした罪と共に全てを仲間達に告白した。
懺悔と言ってもいいかもしれない。

己の罪を曝け出して   それで終わりだと思っていた自分の浅ましさに眩暈がする。
自分が 自分である限り、己の過去と罪は身に刻まれ、その傷がいくら恥ずかしかろうが消すことは出来ないのだ。

そして恥ずかしいと思っている過去と罪を、自分は知らぬ間に目の前の人に見られたのだ。
これを ― 一度見せれば終わりだと思っていた自分の浅ましさを、嗤わずにはいられないだろう。


けれど、こんなに罪に塗れた自分が彼女と視線を合わせてしまってもいいものかと思うと、自然と視線は落ちてしまっていた。

だと言うのに、唇は微かに震えながらも、己を嘲笑しながらも、言葉を紡ぐ事を辞めない。
まるで 己の罪を全て曝け出す罰のように



「でも、それはきっと、要因の一つにしか過ぎないと思います。」

「要因の1つ?」

「はい。“魔術師”が言っていたんです……『約束だ』と」



 確かにあの時“魔術師”はと『約束』したと言った。

その内容が何なのかはにも分からない。
けれど、きっとそれがが“騎士団”へと行ったきっかけなのだとは思っている。



「……イザーク・フェルナルド・フォン・ケンプファーか……」



 の言葉に、は少しだけ視線を上げる。

やはりこの人も派遣執行官、かのヴェネチアでの稼動堰事件、バルセロナの“沈黙の声”事件、ローマ襲撃予告事件の全ての事件に関わっていると言われる男 ―  “機械仕掛けの魔術師”と呼ばれる男のことを知っているようだ。



「はい。 と最後に会った時、彼とも会いました。 けれど、あの人は私を連れて行けるのに、連れて行かなかった。 ……と、そう『約束』したからだと言って……。」

「そう……」



 の言葉に何かを考え込んでしまったに、は言葉を続ける。
相手が聞いているか分からないが、それでも今言葉を切ってしまうのはなんだか違う気がしたからだ。

いや、本当は自分が言葉を切ってしまえば、それ以上は言えなくなってしまうからかもしれない。

だから言葉を続けた。
言葉で罪を洗い流したいと思うように。



と“魔術師”の『約束』と言うものが、正確にどんなものだったかと言うのは、私も知りません。 けれど、その『約束』を守るためには去ったんです。」



 そう 彼女は望まずにAxを去ったのだ。

それは彼女の口から直接聞いたことではないが、たった唯一の肉親、今までの彼女の姿を見れば、それはには一目瞭然だった。



「……こんな事を言っても、信じてもらえるか分かりませんが、 ― は、Axの事を、本当はとても大事にしていました。それこそ、私が羨ましいと思うほどに……」



 自分が派遣執行官になる以前、どれだけそれが羨ましいと思っただろう。
明確に口にした事はないけれど、確かに彼女はAxの事を想っていた。
彼女は ― あまりそういう事を表に出さないが、本当はとても優しくて、温かい人だから。



「なのに、は“魔術師”との『約束』の為にその大事なものを守るために、その大事な者を手放してまでここを去ったんです。」



 なのに大事なものを 彼女は手放してしまった それは ―



「……本来であれば、私が……“魔女の長”である私が、ここを去らなければ、いけなかったのに……!」



 何も知らない自分を この場所に留める為に


強く握り締めた掌に、手袋をはめているというのに、爪が刺さる。
けれど痛いのは血が滲む掌ではなくて、心だけだった。


 彼女は、優しいから 妹である自分を優先して、己の幸せを顧みなかった。

自分は大事な彼女から大事なものを奪った。
何も知らなかったからなどと言う、甘えた言い訳では通用しないほど、自分は彼女を傷つけ、ヴァーツラフを追い詰め、そしてAxの皆の心に傷を負わせたのだ。


こんな子供が悲しさをぶつけるような事、に向かって言ったところで彼女だって困るだろう。

でも言わずにはいられなかった。
懺悔なんて聞こえのいいものではなくても、目の前の人に、今回の原因が誰であるのか、きちんと分かって欲しかった。

この悲しい出来事が
 ― が望んだものではなく、無知な自分が引き起こしたものだと ―
















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