(リーダーとは、本当はこういうことを言うのかもしれないわね)




 目の前に広がる光景を見て実感していると、満足したように頷いたアベルがそっと部屋を出て行ったのを見て、
 はそっと、扉の方へ向かって歩き出し、音を立てずに開いた。
 すると、そこには――。




「う〜っ、セイゲルさん、おもいっきり殴りすぎです〜!」




 ……セイゲルに殴られた頬をさすりながら、その場に蹲るアベルの姿があった。




「おお、主よ〜。どうして私は、いつもこんな存した役ばかりやらなくてはならないのでしょうか〜?」

「それは自分で選んだからでしょう、このアホ神父!!」

「うげっ!」




 突然襲い掛かったのどっ突きに、アベルはさらに身を小さくしてしまう。
 どうやら、相当痛かったらしい。




さん! あなた、私を殺す気ですか!?」

「アベルを殺したら、私も死ぬの、分かっているくせに……。はい、さっさと立って、頬見せなさい」




 アベルの腕を掴んで立たせると、は腫れている頬にそっと触れた。
 掌から白いオーラが現れ、直に腫れている部分を治していく。




「全く、エストニア伯に平手打ちするなんて、予想もしてなかったわよ。本当はやりたくなかったんじゃないの?」

「……分かって、しまいましたか……」

「当たり前よ。これから、そういう役は私に回しなさい。あなたに無理して、こんなことさせたくないわ」

「しかし、さん……」

「私は大丈夫。こういうことには……、慣れてるから」




 ゆっくり掌を外し、少しだけ俯き加減になったの頭に、アベルはそっと手をおき、慰めるかのように撫で下ろす。
 まるで、昔の思い出を、少しでもなくすかのように。




さん……、あの時誰も、あなたのこと、責めてなんていませんでしたよ」

「けど間違いなく、私はたくさんの人を……」

「傷つけたかもしれません。けどそれは、あなたの意思じゃなかったでしょう」

「そうだけど……」




 知らない間に強く握り締めていた手をそっと取り、強く握り締める。
 そのまま自分の方に寄せて、そっと抱きしめた。




「大丈夫、さんは何も悪くありません。だから、『慣れてる』なんて、言ってはいけません。少なからず私は……、
あなたのこと、責めていませんから」

「うん……。……ありがと、アベル。少しだけ、気が晴れたわ……って、知らない間に立場が逆転している!!」

「それも、いつものことじゃないですか。ね?」

「……ま、そういうことにしておくわ」




 アベルの胸元から離れたの顔は、どこかスッキリしたように見え、
 それを見たアベルが安心したかのように額に唇を当てた。
 それが嬉しくて、はお礼をするかのように、彼に満弁の笑みで返した。




 「少なからず私は、あなたのこと、責めていませんから」。

 の心に、アベルのこの言葉が染み渡っていたのだった。




「……あら、お取りこみ中でしたかしら?」




 部屋の扉が開かれ、そこから顔を出したのは、アンハルト伯爵夫人クリスタだった。
 アベルとが少しあたふたしながら離れると、少し冷汗をかきながら、彼女の方へ向きを変えた。




「どうなされましたか、アンハルト伯爵夫人?」

「ちょっと、喉が渇いてしまいましたの。ここって、キッチンとかあるのでしょうか?」

「なら、私が案内します、クリスタさん。さんは、中の皆さんと一緒に、今夜の予定を組んでおいて下さいね」

「了解」




 アベルがクリスタを連れて階段を下りていくのを確認すると、はもといた屋根裏部屋へ戻ろうとした。
 しかし入ろうとした瞬間、腕時計式リストバンドが緑色に点滅したため、彼女は取っ手から手を離し、
 円盤を「3」にセットして、ボタンを押した。




「プログラム『スクラクト』、何か分かったのですか?」

『重大なことが判明した、わが主よ。例の、アンハルト伯爵夫人クリスタのことだ』

「……もしかして、彼女はやっぱり……」

『汝の思っている通りだ。しかし、それ以外にももう1つ、大変なことが明らかになった』

「大変なこと? 何なの、それは?」

『アンハルト伯爵夫人クリスタの正体。それは……』






 プログラム「スクラクト」が言った事実。

 それは必然的に、最優先事項へと変わっていく瞬間だった。

















頑張ったね、アベル(笑)。
これぐらいの落胆さがあると面白いです。

と、いうことで、最後のこの結果として、の次の行動が決まったわけです。
彼女にとっては、当然の結果なのですがね。





(ブラウザバック推奨)