ピエール・ランシェ評議員がそう言うと、目の前にいる、小刻みに震えている尼僧に優しく声をかけた。
「そんなに怯えなくても大丈夫だ。潜入捜査の最中なため、この格好を解くことが出来ないんだが、こう見えても、 「……潜入、捜査?」 「然り。もうじき、ここに僕の仲間が君を保護するために来る。それまでの間、ゆっくり休みたまえ」 「あ、はい……」
一体、彼は誰なのだろうか?
もとはヴァトー家の屋敷として使われていたこの家は、今ではブリュージュに本拠地を置く製薬会社の最大手、
『“プロフェッサー”、私の声が聞こえますか?』 「君だね? 今、どこにいる?」 『ちょうど今、ブリュージュに入ったところよ。それと先ほど、例の飛行船でそっちに向かっていた連中を、無事に 「ということは、今のところ予定通り、ということだね?」 『ええ。……そろそろ、そっちに行った方がいいかしら?』 「そうだね。場所を開けるよ」
ランシェが部屋の真ん中を開けるように後ろに下がると、目の前で“時空”がずれるように、
茶色に黒のメッシュが入った長い髪を黒いリボンで高い位置で縛り、女性なのだが僧衣を身にまとっている。
「ご苦労だったね、君。ケルンの任務が終わってすぐなのに、大仕事をさせてしまってすまない」 「それは、あなたも同じでしょ、“教授”? ま、とにかく、とっとと済ませちゃいましょ。……あなたが、 「あ、は、はい……」
アグネスがまだ警戒しているように言っているのは仕方ない。
「私は教皇庁国務聖庁特務分室派遣執行官、シスター・・キース。こちらにいる、ウィリアム・ウォルタ・ワーズ 「そう言えば、自己紹介するのを忘れていた。ありがとう、君」 「どういたしまして」
「ま、そういったところね。……とりあえず、私は彼女を連れて、“アイアンメイデン”に戻るわ。その方が安全だ 「彼は今、例のリストを探しに屋敷内を放浪中だ。出来れば、君の助けを借りたいと言っていたが……」 「了解。あとで、連絡してみるわ。……あら“教授”、新しい紅茶でも買ったのかしら?」 「ああ、それはここで買ったものだよ。戻ったら、少しお裾分けするかい?」 「そうしてくれると嬉しいわ」
アグネスの前に置かれている紅茶を見て、すぐに新しいものだと分かってしまうあたり、
「さて、行きましょうか、シスター・アグネス」
はアグネスに言うと、腕時計式リストバンドの円盤を「5」にセットし、ボタンを押した。
「プログラム『ヴォルファイ』、私の声が聞こえますか?」 『大丈夫だよ、わが主よ。どこに行く?』 「“アイアンメイデン”まで戻って欲しいの。あ、1人増えるけど大丈夫?」 『2人なら全然問題なし』 「よし。それじゃ“教授”、あとはよろしく。シスター・アグネス、しっかり捕まって」 「あ、は、はい!」 『座標確認、目的地、“アイアンメイデン”船内。――移動開始』
プログラム「ヴォルファイ」の声と共に、再び2人の姿の姿が歪むように見え始めた。
<畏まりました、カテリーナ様>
からの状況を聞いたカテリーナが、近くにいた立体映像の尼僧に指示を出し、目の前にある紅茶を口に運ぶ。
「あなたには、怖い思いをさせてしまいましたね、シスター・アグネス」 「え、あ、いえ! 私は、大丈夫です。それより、ヴァトー神父の方が心配で」 「彼なら、他の派遣執行官が救い出します。心配しないで。シスター・、ヴァトー神父の繋がれていると思われる 「ええ。シスター・アグネスが牢獄から出たあと、プログラム『ヴォルファイ』によって転送させました。今頃、 「なら、結構。あとは、こちらが動いてからでも大丈夫ですね」 「はい。今、ハヴェル神父の命で、例のリストの居場所を測定中です。見つかり次第、彼に伝える予定でいます」 「分かりました。では、飛行船が到着し次第、あなたにもすぐ屋敷に侵入してもらいます。いいですね?」 「了解しました、スフォルツァ猊下」
カテリーナに報告しながらも、電脳情報機を動かすの手は止まることを知らず、
いくつかの部屋にある引出し、箪笥、本棚などの内蔵を1つ1つチェックしていく。
数分後、ギィの執務室に到着すると、ある1つの像にマークがついた。
玉座に腰をおろした7つの角と7つの目を供えた子羊のような生き物の像には、
「……あった。これだわ!」
はすぐにイヤーカフスを弾くと、探し物をしている相手にすぐ交信をし始めた。
「“ノーフェイス”、聞こえますか?」 『聞こえますよ、。見つかりましたか?』 「ええ、バッチリよ。場所は、ブリュージュ伯の執務室にある怪物像の中。どうやら、音声で暗証管理されているみ 『分かりました。とりあえず、私はそこで待機しています。ウィリアムがきっと、事を運んでくれるでしょう。 「礼には及ばないわよ、ヴァーツラフ。あなたも、くれぐれも気をつけて」 『ええ。何かあったら、すぐに連絡します』 「お願いね。――以上、交信終了」
は再びイヤーカフスを弾くと、1つ大きく伸びをして、目の前にある紅茶を一口飲んだ。
これで、すべて準備万端だ。トレスの飛行艇も、もうじき屋敷に到着する。
「あともうひと踏ん張り……、やるしかないわね」
は電脳情報機の電源を消すと、紅茶を一気に飲み乾し、その場に立ち上がった。
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「BROKEN SWORD」です。
本当はRAM5なのですが、時間軸的にはこの位置になるので、ここでアップです。
今回、彼女はカテリーナの誘導兼“教授”とヴァーツラフの援助、アグネス確保です。
転送能力(じゃないけど)があるので、瞬間移動が簡単に出来ますからね。
これぐらいのことは楽なのかもしれませんね。
(ブラウザバック推奨)