再び目を覚ましたユーグが最初に見たのは、真っ白な天井だった。



 腕には点滴が刺さっており、ざっと数えても3本ぐらいはあった。
 それぐらい、自分の傷と体力が消耗していたのかと、痛感させられるほどだ。




「つっ!」




 起き上がろうとしたが、体が痛くて起き上がれない。
 前までは痛みなど感じていなかったのに、こうも痛いと身動きが取れない。



 何とかして首を下に下げると、そこには誰かがうつ伏せになって、眠っている姿が見える。
 僧衣と長い髪を見て、相手がすぐにだと気づくと、彼は少し驚いたように彼女を見つめていた。




(……ずっとここにいたのか?)




 不思議に思いながらも、何とか左手を動かし、の頬にそっと触れる。
 それに気づくかのように、彼女の瞼が少し動き、ゆっくりと目を覚ました。




「……う、うん……、……ユーグ!?」

「ずっとここにいたのか、? 任務はどうした?」

「スフォルツァ猊下に頼んで、休暇をもらったのよ。それよりユーグ、本当に目が覚めたのよね? 大丈夫? 
痛いところとかない?」

「全身、身動きが取れないぐらいだ。こんな状態で、平気で動いていたんだな」

「そうよ。本当、こっちが呆れるぐらいだったわ」




 がため息混じりで言うと、ユーグは少し苦笑して、再び天井を眺めた。
 その姿を見ながら、は近くにある電動加熱機のスイッチを入れて、
 水の入ったポットに紅茶の茶葉を入れて加熱させた。




「……あれから、どれぐらい眠っていた?」

「今日で10日目よ。お医者様はもっとかかるんじゃないかって言っていたけど、思ったより早くてよかったわ」

「そうか……。……教皇庁(ヴァチカン)の方は……?」

「もうじき、スフォルツァ猊下と聖下のプラーク訪問があって、その支度等でてんてこ舞いよ。実は私も一緒に同行
することになって、それまでに目が覚めなかったらどうしようかと、ちょっとだけハラハラしていたところだったわ」

「そう、だったのか……。……だとしたら、君の休日を俺が奪ってしまったことになる。すまなかった」

「いいのよ。それに、さっきも行ったでしょ? 『休暇をもらった』って。あなたが目を覚ますまで、ここにいよう
と思っていたから」

「……ありがとう、

「どういたしまして」




 の笑顔が、ユーグの心を優しく包み込むように温かくなっていく。
 いつも思うのだが、どうして彼女の笑顔は、こんなにすごい力をもっているのであろうか?




「さ、ユーグ。紅茶が入ったわよ。今、ベッド起こすわね」




 椅子から立ち上がり、ベッドの下にあるボタンを押して、上半身をゆっくり起こす。
 なるべく相手の負担にならないところまで上げると、は椅子に座りなおし、紅茶が入ったティーカップを、
 ユーグの口元に近づかせる。
 ちょっと飲みにくいが、何とか中に入っているものを口に運ぶと、ユーグは1つ、安堵のようなため息をついた。




「……懐かしい味がする。ずっと昔、よく飲んでいた味だ……」

「アムステルダムのアッサムよ。今じゃ、あまりお目にかかれない代物だけど、昔手に入れたのが残っていてね。
ケイトに頼んで持ってきてもらったのよ」

「そうだったのか……。……

「ん?」

「……ありがとう」

「その言葉は、ちゃんと怪我が治ってから、また言って。その時には、剣の稽古のお相手するわ」

「それは助かるな。体が鈍っていては、次の任務に支障が出る」

「そういうこと。さ、もう少しゆっくり休みなさい。腕、動かせれそう?」

「この体制なら、大丈夫だ」

「それじゃ、テーブルの上に、これ、置いておくわね」




 はティーカップを彼の前のテーブルに置くと、その場から立ち上がり、
 病室を出て行き、そのまま出入口に向かって歩き出した。




 外に出て、自動二輪車の前まで行くと、その場で大きく伸びをする。
 太陽が燦々と輝き、愛車が反射し、光っている。
 そんな愛車にまたがり、さっきまで自分がいた病室の方を見つめた。






「よかったわね、ユーグ。……ゆっくり休みなさい」






 彼に聞こえるように、優しく囁く。

 そしてエンジンをかけ、その場からゆっくり離れていったのだった。

















他人に起こされると、不機嫌なはずなのに、
何でこんなに爽やかなんでしょうか、この人は(笑)。
アベルが起こしても怒るのに、どうしてなんでしょう?
「ザ・不幸」だけど、アベルみたいな無茶をしない分、まだ安心出来るのでしょうか。
無茶するけど。(どっちだよ)





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