「このふとどき者が! 聖下を異端どもに誘拐されながら、おめおめと戻って来るとは!!」




 教理聖省長官フランチェスコ・メディチ枢機卿は、
 自分の執務室に帰宅を伝えに来た異母妹に激しく怒鳴りつけていた。
 その姿に、彼女と共に来たが、思わず目を閉じた。




「しかも、! お前もそばにいつつ、何故止めることが出来なかったんだ!?」

「申し訳ございません、メディチ猊下。しかし……」

「この場に及んで、言い訳などするつもりか!?」




 そこまで言われてしまうと、さすがのも何も言えなくなってしまう。
 ここは大人しく、黙っていた方がいいのかもしれない。




「聖下奪回は、異端審問局によって行わせていただく。少しでも手を出したら、お前の椅子はなくなると思え、
カテリーナ」

「そんな、メディチ猊下! 彼女は……」

「もういいわ、。今は兄上の言う通り、任せた方がいい」

「しかし!」

「お願い、。彼に、全てを託しましょう」




 カテリーナにそう言われてしまったら、とてすぐに動くことが出来なくなってしまう。
 ただフランチェスコから視線をそらすように、俯くことしか出来ない。




「兄上、この不始末は、すべて私が責任を持ちます。ですからどうか、Axに負担をかけるようなことはしないで
下さい」

「……よかろう。ただし、派手な行動をした場合は……」

「十分、心得ております」

「よろしい。ならお前に、ミラノでの謹慎を言い渡す。今回の事件が終わるまで、絶対に戻って来るんじゃない」

「承知いたしました、兄上」




 承諾したかのようにカテリーナが一礼すると、そのまま彼に背を向け、出入口に向かって歩き出した。
 も彼に向かって一礼すると、彼女のあとを追うように小走りで近づき、一緒に部屋を出ていった。



 しばらくの間、2人とも何も話さず、“剣の館”へと向かって歩いていた。
 としては、何とかして話すきっかけを作ろうとしていたが、なかなか行動に出ることが出来なかった。



 しかしこのままではいけないと思って口を開いた時、彼らはすでに“剣の館”の前まで来ている時だった。




「……このまま、メディチ猊下に任せていいの、カテリーナ?」




 の声に、カテリーナは足を止め、彼女の方に向きを変える。
 何かを察知しているかのように見えるを見て、カテリーナはすぐに、彼女へ話し掛けた。




「……前聖下がおっしゃっていましたね。――あなたが昔、特警1つを任せたことがあると」




 カテリーナの言葉に、彼女は驚いたように目を見開いた。
 そして、もうこの世に存在しない人物に、思わず苦笑してしまう。




「……相変わらず、おしゃべりだったのね、あの方は」

「そうみたいね」




 しかし、ここまで来ても、にはカテリーナの糸口がはっきり見えてない。
 アレッサンドロとヴァーツラフのことに、そのことがどう関係しているのだろうか。




「で、それが何だって言いたいの? ……まさかあなた、私が指揮を取れというんじゃ……」

「その『まさか』です、シスター・




 カテリーナの言葉に、はさらに目を見開き、信じられないかのように相手の顔を見た。
 自分が思っていたことが当たってしまったとは、想像もつかなかったことだったからだ。




「ちょ、ちょっと待って、カテリーナ!」

「何か、不都合でもあるのですか?」

「あるわ。ありすぎる」




 何かの夢でも見ているかのような顔で、はカテリーナに食いかかる。
 しかし、相手の表情は変わることなく、彼女の顔に意味ありげに微笑むだけだった。



 確かには昔、前聖下であるグレゴリオ30世の命で、特警の小隊を引き連れて、
 密入をしていた海賊船の爆発計画を実行し、成功させた実績がある。
 しかし、今の彼女には、その時以上に自信がない。
 確かに昔の実績が認められたことは嬉しいことだが、それとこれとはまた話が違う。




「私にはAxを動かすことなんて出来ない。あなたみたいに、あの個性の強い集団、どうやって動かせって言うの
よ?」

「あら、あなただって、十分個性が強いじゃない」

「そうだけど……」




 の不安そうな顔を見て、カテリーナがそっと彼女の肩に手を置く。
 そして優しく、そして何かを訴えるように話し始めた。




。私を目標にしてくれるのは嬉しいけど、何もかも完璧にやろうとしなくてもいいのよ。今回のことを言えば、
私もミスしましたし」

「それは私が……」

「ほら、すぐにそうやって自分を責める。……全くあなたは、アベルとそっくりですね」

「な、何であんなアホと一緒に……!」

「だったら、違いを見せなさい、。アベルとの違いを、はっきりとさせなさい」




 カテリーナの言葉は、時に不思議な力を発揮する。
 今がまさにその時だ。彼女の言葉により、徐々に不安が消え去り、
 自信に満ちた表情へと変わっていくのがいい証拠だ。




「……分かったわ、カテリーナ。やってやろうじゃない」

「よろしい。それでは早速、メンバーを揃えて執務室に集めなさい。説明は、私からします」

「分かったわ。……カテリーナ!」

「はい?」

「……ありがとう」

「それは、すべてが終わってから言うことですよ、

「……了解」




 の顔に、いつもの笑顔が戻っている。それを確認したカテリーナは彼女に背を見せ、“剣の館”に戻っていく。
 彼女はそのまま、彼女の後を追って中へ入ろうとしたが、すぐに立ち止まり、考え始めた。


 戻る前に、しなくてはいけないことがある。
 そのためには、行かなくてはいけないところがある。




 再び、来た道を戻るかのように走り出したには、もう「不安」の文字はなかった。

















完全オリジナル「FLY HIGH」です。
タイトルは当時、私がカラオケで歌いまくっていた浜崎あゆみの「FLY HIGH」から取りましたって、
そうじゃないだろう(汗)。

今回のは、カテリーナに慰められてばかりです。
彼女にとって、あまりないことですから、このままいい方向に進んで……くれるよね(汗)?
あまり期待もしてないけど(え)。


ちなみに、この話は全て、同じ日に起きていることです。
あ、最後は違うか。





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