「しっかしまあ、大変なことになったもんだ。まさか、ハヴェルの旦那が新教皇庁(向こう側)に行っちまう上、聖下まで誘拐
されるとはな」

「私もよ。でも助け出すには、何とかして目的地まで無事に到着しないといけないわ」




 国務聖省執務室での話し合いを終えた後、は檻から出したレオンを連れ、
 ローマ市内のとある倉庫に向かって、
自動二輪車(モーターサイクル)を走らせていた。
 今回は相手がレオンということもあり、運転は彼に任せ、彼女自身は後ろで、
 しっかり後部座席の後ろについている取っ手を握っていた。




「でも、“アイアンメイデン”で移動するにしちゃ、ちとばかしデカすぎねえか? そうなっちまったら、聖下を
救い出すどころの話じゃなくなるぜ」

「だから、別ルートで行く方法を考えたのよ。ちょっと中古だけど、いいものがあるからね」

「へえ、そいつは楽しみだ」




 “剣の館”から走ること約20分、2人は1つの倉庫の前で止まると、
自動二輪車から降りて、シャッターの前まで歩いていった。



 がシャッターの鍵を開けると、そのまま上に押し上げていく。
そして中に見える物体を見て、横にいたレオンが驚異の叫びを上げた。




「な、何なんだ、こいつは!?」

「5年前、Axが発足されたばかりの時に作った小型飛行船“タクティクス”よ。外見はちょっと古そうに見える
けど、毎年、メンテナンスはちゃんとしているから、いつでも動かせるわ」

「お前、単なる電脳調理師(プログラマー)じゃなかったのかよ!?」

「“教授”の見よう見真似で作っただけよ。それ以外の理由はなし」




 目の前に広がる光景に、レオンは驚きのあまり、しばらく呆然としてしまう。
そんなレオンをおいて、はスタスタと、目の前にある巨大物体に近づいていった。



 Axが発足されたばかりの頃、配線とかが得意な人物が“教授”しかいなかったことから、
 は自分の知識を向上させるためにこの飛行船を作り上げた。
 もとから任務のために作ったわけではなく、単なる趣味程度にしか作られていないため、
 完成して数回試乗運転をしただけで締め出しを食らってしまっていたのだった。



 機内に入ると、はすぐにコックピットに向かい、近くにある電源スイッチを入れ、
 IDとパスワードを打ち込んだ。
 各部門を確認し、リターンキーを押すと、エンジン音が重々しく鳴り出し、
 それにより地響きを起こし始めたのだった。




「スゲーよ、これ……。こんなの、初めて見たぜ」




 エンジンがかかってしばらくすると、レオンが興味津々に機内へ入ってきた。
 さすがの彼も、こういうことになると目の色が変わり、まるで子供のように嬉しそうな顔をする。




「おっ、中古のわりには、いいメーター使っているじゃねえか」

「毎年、改造はしているからね。少しずつだけど、いいものに変えていっているのよ」

「こうなると、改装の虫が鳴り止まないだろ?」

「もう修正不可能になってる」




 2人の顔は満弁の笑みになっていて、お互いに情報交換をしつつ、機内の説明をしていく。
 やはり、この男に先に見せてよかったと、は心の中で呟いた。



 一通り説明が終わると、レオンがコックピットの席に座り、あちこちいじり始める。
 はそれを止めることなく、彼の腕前を拝見していた。その手際よさは、
 さすがと言ってもいいほど見事な物である。




「……で、余はこれを、俺が動かしゃいいってことだよな?」




 数分後、一通りいじり終えたレオンが、横で尊敬の眼差しで眺めていたに話し掛けた。




「そういうこと。本当は自動(オート)で動かしてもいいけど、そうなると、微妙な調整が難しくなるから」

「なるほどな。確かにこいつの場合だったら、手動(マニュアル)で動かした方が良さそうだ。で、いつ出発する?」

「出来れば、明日にでも出発する予定よ。目的地はブルノ。4日後に、新教皇庁の戴冠式がある。それまでの間に、
何としても聖下を逃がしたいのよ」

「それと……、例の噴進爆弾(ミサイル)のこともあるんだろ?」

「まだ正確なデータがないから、解体するかは未定だけどね」




 ハヴェルが調査していたアッシジで盗まれた噴進爆弾が、
 実はブルノにある新教皇庁の本拠地で発見されたという情報が、執務室での打ち合わせの最中に、
 プログラム「スクラクト」によって判明した。
 しかし、具体的にどのような効力を発揮するのかが未だに分かっておらず、今「彼」の手によって調査中だ。




「きっとアルフォンソは、そのミサイルを使って、何かを引き起こそうとしているはず。それが何だか、今のところ
は検討もつかないけど、一大事になるのは、間違いないわね」

「やれやれ、厄介なことになったもんだ」

「で、レオンにはもう1つお願いがあるの。明日までに、あるものを用意して。出来れば……、そうね、100個
ぐらいかしら」

「物によりけりだな」




 は1つ1つ丁寧に指示を出していき、レオンもそれを真剣に聞き入れ、時に意見を述べていく。
 お互いに時間を忘れて話し合い、全ての話をし終えた時には、到着してから3時間以上も立っていた。




 これで、無事にブルノまで飛べる。

 の中に、希望の光が見え始めていた。

















タクティクスの名前の由来は聞かないで下さい(汗)。

言ってもいいのですが、呆れられるので。

は改造癖があるので、その辺は絶対にレオンと話が合いそうです。
彼女、お姐さん体質(?)なのに、男向けのものばかりが好きですからね。
かと思えば、紅茶が好きだったり、カフェ巡りしたり、お菓子やリースを作ったりしているから、
やっぱり女性なんですよね。
どっちやねん(汗)。






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