『あの短生種、本当にイライラして仕方ない! 本当に、汝が推薦した者なのか、!?』

「そう、カッカしないで、アスト。少しは落ち着きなさい」




 ヴェネツィアへ立つ朝、仕事を追えて、宿に戻ったであろうと思ったは、
 プログラム「ザイン」を経由して、アストに通信していた。



 彼女がいる帝国へは、のプログラムでも連絡が取りつらい。
 しかし“外”へ出てしまえば、いくらでも、何度でも連絡を取り合うことが出来る。
 つまりこれは、絶交のチャンスなのだ。



 事件の内容は、カテリーナに言われた通り、自力で調べたので、
 内容はすべて把握済みなので、前日どれぐらいまで調査が進んだのを知るために連絡を取ろうとしたのだが、
 久々に声を聞いて、最初に出たのが、まさか同僚の愚痴だとは思ってもいなかった。
 大方予想はしていたが。




『あの神父、この余を長いごと待たせたのだぞ!? この“(アウター)嫌いな余をだ! そして到着したと思ったら、
ゴンドラに乗ってる短生種の雌が雄と絡んでいるところに乱入して、トラブルをさらに大きくしようとしたのだぞ! 
それを止めるのが大変じゃったわ!』

「仕方ないじゃない。私だって、他の任務で席を外していたんだし、スフォルツァ猊下が決められたことには
逆らえられないし」

『何者にも逆らう汝が、あの枢機卿には逆らえれないと言うのか?』

「逆らえるものなら、とっくに逆らってるわよ」




 の脳裏に、意味深に微笑むカテリーナの顔が浮かんで、思わず1つため息をつく。
 確かに、彼女に逆らえるほど力がない。逆らおうと思えば逆らえるのだろうが、なぜかそれが出来ない。
 いや、逆らっても変に言いくるめられてしまうことを知っているからだろう。




「ま、とりあえず私も今夜中にはヴェネツィア入りするから、詳しくはその時に。今夜は、クラブ『INRI』
に行くんでしょ? 服は大丈夫?」

『適当に揃えておく。紹介状の手配は、神父がすると言っていた』

「正確には、私がやったんだけどね」




 先ほど、アベルから緊急に連絡が入り、急いで紹介状を作成したのだ。
 プログラム「スクラクト」から、クラブ「INRI」の常連客を検索し、
 そこから1人選んで、紹介状を作り上げ、それをそのまま、アベルの元へ速達で郵送したのだ。
 うまく行けば、今夜中には届くだろう。




「それじゃ、私はそろそろ出発するから、この辺にしておくわ。アストも今夜に備えて、ゆっくり休みなさい」

『言われなくてもそうする。あの神父のせいで、変に気を使った。今からすぐに寝る!』

「そうしときなさい。それじゃ、今夜ね」

『ああ。……

「ん?」

『あの神父は本当に、汝が推薦した者なのかや?』

「頼むから、そこは突っ込まないで」




 推薦したと言えば、推薦したのかもしれない。
 昔、自分が任務に指名されたら、アベルを推薦しろとも言ったかもしれない。
 しかし、今回ばかりは話が別だ。相手は長生種で、短生種ではない。
 しかも、長生種は長生種でもアストだ。結構痛いし、辛い。






 彼女にアベルを薦めるのには、ちょっと抵抗があったかもしれない。

そんなことが頭を横切った瞬間だった。

















 ローマからヴェネツィアまでは、そう遠く離れていない。
 列車でヴェネツィア行きのの乗れば2時間ぐらいで、あとは水上バスで20分ぐらいだ。



 こうも近いと、下手に列車とかを使いたくないのがで、ご自慢の自動二輪車(モーターサイクル)の登場である。




「う〜ん、やっぱ、気持ちいいわね〜」




 途中で寄ったテイクアウト専門のカフェの前で、紅茶を片手に大きく伸びをする。
 バイクに乗ることは、にとってストレス発散法の1つなのだ。



 そう言えば、ここ最近は忙しくて、こうやってツーリングをしていなかったような気がする。
 昔はどんなに遠くても、こうやって自動二輪車で走っては、
 よくカテリーナに「帰りが遅い」と注意されたものだ。
 今は以前より忙しくなったので、のんびりの任務をしに行くわけにはいかなくなってしまった。




「さて、もう少しで到着だから、がんばりますか」

『シスター・、聞こえてますか〜?』




 再出発をしようとした時、耳元から声が聞こえたため、彼女はエンジンを入れるのを止め、
 イヤーカフスを軽く弾いた。




「アベルね。例の物は無事に到着した?」

『はい、今、無事に。さん、今、どこにいるんですか? さっきケイトさんから、こちらに向かっていると
聞いたのですが』

「ちょうど、ローマとヴェネツィアの中間点ぐらいね。あとちょっと走ってから、水上バスに乗る予定よ」

『ちょっと走ってってことは、愛車、動かしているんですね?』

「久し振りにね。たまに動かしてあげないと。さて、そろそろ出発するから、あとは現地で。……そうそう、
今朝、アストから聞いたわよ。いろいろ、しでかしたらしいじゃない」

『ああ、あれは別に……。…さん』

「ん?」

『アストさんとさん、どういうご関係なんですか?』

「それは話が長くなりそうだから、また追々話すわ」

『……分かりました。とにかく、道中気をつけて下さいね。以上、通信終了(アウト)




 イヤーカフスを再び弾くと、は本日3杯目の紅茶を飲み乾し、
 ゴミ箱へ放り込んだあと、すぐに自動二輪車で出発したのだった。

















アストに愚痴られた、ちょっと気の毒(笑)?
けどアストは好きなキャラなので、書いてて楽しかったです。
この時点では分からないかもしれませんが、後におもいっきり遊ばせて頂きました。
ごめんよ、アスト。こんなんで……(汗)。

そしての口調を修正するのにへばってきた紫月でした(汗)。





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