「最後の言葉は嬉しくないですよ、さん」 「アホなものはアホなのよ。みんな、すでに了承済みよ」 「あまり、アホアホ言わないで下さいよ〜」 これだけ元気なら、大丈夫か。 お見舞い用の花は、昨日知り合った花屋の店主に、昨日のお礼をしに行ったら、 「きれいな花ですね。昨日、助けて下さった方からですか?」 「そう。神父様にって、渡してくれたのよ」 「そうなんですか。……あ、これ、ありがとうございます。おいしかったです」 「アベルは昔から、ガトーショコラが好きだからね。喜ぶんじゃないかと思って。……さて、 「何か、怪しい人ですよ、さん」 「あら、そんなこと言うなら、傷口、治さないわよ?」 「…………それだけは勘弁して下さい。早く、アストさんと任務を片づけないといけないので」 「よろしい」 アベルが観念したように言うと、自分のパジャマのボタンを外し、傷口を塞いでいる包帯を見せた。 ガラスの槍が貫通していたから、すぐに治すことは不可能かもしれない。 ゆっくりと目を閉じ、呼吸を整え、包帯に触れている左手に集中する。 数分後、オーラがゆっくりと消えて、はゆっくりと目を開けた。 「……どうしたの?」 「いえ……、さんには、いつも迷惑かけっぱなしだなって」 「本当、そうよね。あと、どれぐらい心配させれば気がすむのかしら?」 「……すみません」 冗談で言った発言が、どうやら相手にはそう捕らえられなかったらしい。 「私のことは、気にしなくていいの。たくさん迷惑かけてくれても、たくさん怪我しても大丈夫。 「さん……」 「私がここに生きているのは、アベルがいるからなのよ。アベルがいるからここに生きているんだし、 「あれ」を受け入れてから、彼女の意思は変わっていない。 自分が悔いに、残らないように……。 「……さん、私、前から言いたいことがあったんです」 「何?」 「さんは、いつも私のために生きてくれると言ってくれます。それはそれで、嬉しいことなんですよ。けど」 「けど?」 「けど私としては、さん自身のために生きて欲しいのです。私は貴方が思っているほど弱くないですし、 アベルの手が、そっとの頬に触れる。
「私には……、あるわ」 「え?」 「苦しむ理由、あるわよ」 「さん?」 「あの日、私はアベルと同じように、苦しんだわ。場所は違えど、あの時の私は、いつ暴走してもおかしくない
誰にも止めることが出来ないほどの怒り、叫び、そして、悲しみを……。
「何ですか?」 「……私は、アベルのために生きることが、私の決めた『道』なの。それ以外の『道』なんて存在しないし、 「さん……」 「大丈夫、どうしようもなく弱くなりたくなったら、すぐに貴方のところへ行く。だからアベルも、 「……分かりました。本当、すみません」 「謝ることじゃないのよ、これは。それぐらい分かりなさい」 「……はい」 お互いに見つめ合い、そして微笑み合う。 外から降り注ぐ太陽が、2人を優しく、包み込んでいく。
アベルの外出許可を得るために受付にいると、入口から見慣れた小柄な男が現れた。 「どうしたの? 何かあったの?」 「ミラノ公からの臨時任務のために来た。卿はそこで何をしている、シスター・?」 「アベルの外出許可をもらおうと……、……どうしてここが?」 「昨夜、ナイトロード神父よりミラノ公宛てに連絡が入った」 「ああ、それで知ったのね。……え! 駄目って、そんな!」 受付にいる係員に外出の許可が下りなくて、が思わず叫んでしまった。 「アベル・ナイトロード神父の担当医はいるか?」 「え、あ、はい。いますけど。失礼ですが、どちら様ですか?」 「教皇庁国務聖省特務分室派遣執行官、HC−]Vだ。教皇庁国務聖省長官ミラノ公カテリーナ・ 「は、はい、分かりました……」 トレスの言葉に、は少し首を傾げながら聞いていた。 「トレス、スフォルツァ猊下が何か言ったの?」 「先日の騒ぎの件により、オデッサ子爵の身柄を確保することとなった」 「アストの身柄を? それはやっぱ、あの騒動のせいで、一般市民に迷惑をかけたから、てこと?」 「肯定。もしオデッサ子爵が拒んだ場合は、射殺してもいいという命令だ」 「射殺!? それ、正気で言っているの!?」 「肯定」 いくら相手が吸血鬼だからと言って、それはあまりにも酷すぎる。
「昨夜、オデッサ子爵は多数の犠牲者を出した。そしてそれは、教皇庁と帝国のバランスを崩すきっかけにも 「でも!」 「もし卿も背くのであれば、卿も対象者と認め、まとめて射殺する」 「そんな! トレス、もう少しよく考え……」 「担当医の許可が下りました。病室は304号室です」 「了解した。卿の協力を感謝する」 受付の係員から許可を貰うと、トレスがスタスタとそのまま歩き出した。 カテリーナは何を考え、アストの射殺を命じたのだろうか? いや、本人は特に何も言っていないだろう。 「トレス、今回のことに関しては、アストも十分反省している。アベルも私も、彼女には十分すぎるぐらい 「卿やナイトロード神父が言ったところで、相手がすぐにそれに応じるとは考えにくい」 「それは、相手が吸血鬼だからってこと? あのね、彼女は私達と同じ……」 「俺は機械だ。卿達と同じではない」 駄目だ、これは何度説得したところで、何の威力を持たない。 「ところで、アストの居場所、知っているの? 私が案内してもいいんだけど」 「その必要はない。300秒前、オデッサ子爵の姿を入口で発見している。今は、ナイトロード神父の病室 「アストが? そう、彼女、来てくれたのね。よかった」 「どうして卿が安心する、シスター・?」 「昨夜の事件の後、アベルに会いに行こうか、悩んでいたみたいだったからね。きっとアベル、喜ぶわ」 アストが来てくれたことを、本当は誰よりも嬉しく思ったのはだった。 病室の前に着くと、そこにはアストがアベルの前にいた。 トレスはいい。 「何やっているのよ、このセクハラ神父!!!」 「うがっ!」
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よく考えてみれば、アベルとのラブラブはこれが初めてでした。
はたから見たら、絶対に恋人同士に見えますね。
実際問題は違うのですが(汗)。
トレスの台詞は本当に困ります。
下手したら、同じ言い回しばかりになってしまいますし。
もう少し鍛えなくては!!
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