はトレスとともに、カテリーナを救出するために可動堰に向かったのだが、電話などの器具が不通なこともあってか、周りが混乱に陥っていて、なかなか前に進むことが出来ない。どうにかして、この騒ぎを落ち着かせなくては……。 「トレス、あなたはすぐにスフォルツァ猊下のところへ先に行って。私はプログラム『ヴォルファイ』で、電子回路に入るわ!」 「了解した。任務が完了し次第、卿の援護を要求する」 「分かった。猊下のこと、頼んだわよ!」 は人ごみの中から何とか抜け出すと、大通りの外れにある細道に入った。 僧衣の内ポケットより、小型電脳情報機を取り出して起動し、腕時計式リストバンドについているコードを伸ばし、プラグに差し込む。目の前にあるパスワードを入力し、プログラム潜入準備を整えた。 『プログラム〔ヴォルファイ〕進入10秒前』 女性の声が響き渡り、は呼吸を整える。この瞬間だけは、毎回慣れていないためだろうか。 『プログラム〔ヴォルファイ〕進入5秒前。4、3、2、1……、進入開始』 がその声と共に目を閉じると、一瞬、体が軽くなる衝動に襲われる。頭の中に何かが横切り、それが終わると、はゆっくりと目を開いた。
どこからともなく聞こえる声に、は少し苦笑した。現に「彼」の中に入るのは、3年ぶりだった。 「ヴォルファー、早速で悪いんだけど、ヴェネツィアの電気回路プログラムに進入したいの。手伝って!」 『了解。座標確定、目的地、ヴェネツィア電気回路プログラム――受信開始』 体がフワッと浮き、体が自然と動き出す。目の前にたくさんの基盤が立ち並び、その中をすり抜けていく。 基盤を通り過ぎ、コードもすべて通り過ぎたあとに現れたのは……、「0」と「1」に囲まれた電子コードだった。これが、ヴェネツィアの電子回路プログラムだ。 『故障されているのは、ここの部分。そこのコードを返れば、無事に終わる。スクルーを呼ぶか、わが主よ?』 「これぐらいなら、何とかなるわ。ありがと、ヴォルファー。助かったわ」 『帰還する時になったら、また言って。すぐに移動させるから』 「了解。……さて、やりますか」 プログラム「ヴォルファイ」の声が消えると、はプログラムに手を触れ、パズルのように組替え始めた。彼女の頭には、どこがどう間違っていて、どこをどう組み立てればいいのかが分かっているらしく、手際よくプログラムを修整していく。そしてその時間も、そう長くはかからなかった。 「ヴォルファー、プログラム修整完了したわ。ロードして!」 『了解。修整プログラム、作動開始……、正常運転、確認』 「よし。ヴォルファー、このまま元に戻って、すぐに可動堰まで行きたいの。戻り次第、すぐに連絡を入れるわ」 『了解。今日は仕事が山盛りだ! ――君の無事を祈り、元の場所への移動を開始する。……帰還開始』 が再び目を閉じると、再び体が軽くなり、高く飛び上がっている衝動にかられる。徐々に体が重くなっていき、再び目を開けると……、 ……そこは先ほどの、大通りに面している細道だった。
通信が可能になったことから、周りの混雑も収まり、人ごみも少し減っていた。しかしここは緊急事態。この中をかき分けて行ったら、それこそ時間がかかって仕方ない。 は小型電脳情報機に刺さっていたコードを引き抜いて、僧衣の内ポケットに戻すと、コードを腕時計式リストバンドに戻し、再び円形部分を、今度は「5」に合わせ、スイッチを押す。 「プログラム『ヴォルファイ』、私の声が聞こえますか?」 『バッチリだよ、わが主よ。さて、どこに移動する?』 「可動堰内の、カテリーナ・スフォルツァ枢機卿と“ガンスリンガー”がいる場所へ行って」 『了解。座標確認、目的地、ヴェネツィア可動堰内、――移動開始(ムーブ)』
すでにその場に、の姿がなくなっていた。 |
、今回が初めてのプログラム内転送でした。
あんな感じで飛び込むこともある、ということでお見知り置きを。
プログラムはまだいろいろと出てきます。
ごうご期待。
(ブラウザバック推奨)