そしてその予定通り、は“教授”とハヴェルと共に、アレッサンドロを市内のホテルに確保するため、
「スフォルツァ猊下、ご無事かしら?」 「心配には及ばんよ、君。猊下の側には、アベル君とトレス君がいる。彼らに任せておけば、大丈夫だよ」 「だと、いいんだけど……」
確かにカテリーナには、アベルとトレスがついている。
しかし、彼女にとっての不安はそれだけではなかった。
「はいつも、心配ですね」 「え?」 「昔、よくそうやって、アベルのことを心配していましたよね? ふと、思い出しましたよ」 「あれは、彼があまりにも無謀なことばかりするからよ。ま、それはもっと前からだったけど」 「ずっと彼の側にいたら、心臓がいくつあっても足らないだろう?」 「もう慣れたわ」
アベルの無謀すぎは、今に始まったことではない。
数分後、無事にホテルに到着すると、“教授”がチェックインを済ませ、指定された部屋へ向かった。
「そうですか。それじゃ、テーブルに置いておきますから、お好きに飲んで下さいね」 「ありがとう、ヴァーツラフ」
笑顔に相手に答えると、は窓辺に寄りかかり、外の様子を見ていた。
目の前ではたくさんの車が行き交い、遠くの方では、タイミングよくきれいな夜景が顔を覗かせる。
「それにしても、相変わらずですね、ウィリアム。昔からこうなんですよ。お気を悪くしないで下さい」 「お、おつ、お付き合いは長いんですか、さ、3人は? ず、ずいぶんと、な、仲がよろしいみたいですけど」 「ええ。私と彼、とアベルの4人が最初に会ったのは……、そう、もう10年近く昔になりますか。まだAxもな 「昔はよく、みんなでお茶会とかしたわよね。決まって、同じ時間になると集まって、あーでもないこーでもないっ 「そうでしたね。当時から、あなたは紅茶にうるさかったですし」 「一度興味を持ったら、そう簡単に覚めない人間だからね」
昔のことを思い出しながら、彼女はクスッと笑った。
「あ、あなたは、ど、どうして姉上と、お仕事を、ヴァ、ヴァーツラフ?」 「私は元々、異端審問局にいたんですが、その時当時の上司と宗教上の見解からぶつかってしまいまして……。そこ 「あ、あなたは、た、たた、確か、姉上の、ご、護衛をしていたんですよね、?」 「ええ。なので、私は彼らより、スフォルツァ猊下と付き合っている時間は長いんです」
とカテリーナが出会ったのは、今から13年前のことになる。
「しかし、は本当、優秀な方ですよ。私も不肖ながら、あの方にお仕えしていおりますがね」 「何が、“不肖ながら”かね? Ax最高の人材のくせに」 「おや、ウィリアム。もう採点は終わったのですか?」 「いや、まだ半分だよ。いやはや、最近の学生どもと来たら……」
レポートの採点をしていると思われていた“教授”が意地の悪い微笑を浮かべて言ったので、
「ああ、そんなことより、騙されてはいけませんよ、聖下。このヴァーツラフこそAx最強の派遣執行官――姉君の 「そうですよ。私なんかじゃ、とても太刀打ち出来ませんわ」 「ウィリアムに、あなた達こそ、嘘をつくのはやめて下さい。私などとても……」 「謙遜も過ぎると嫌味だよ、“ノーフェイス”。この東武辺境域のトラブルに、猊下が投入するのは決まって君じゃ 「それは、単に私がこの近くの出身だからですよ」 「そっか、ヴァーツラフはブルノ出身だったのよね。……あ、そう言えば、例の任務はどうなったの? アッシジから 「そうそう、大型の噴進爆弾……、都市攻撃用兵器だと噂で聞いていたが……、ああ、失礼」
“教授”が眠たそうな目をしていて、こみあげた欠伸をおさえるように会釈した。
(……嘘じゃ、ないみたいね)
テーブルにのっている紅茶に目を注いで、心の中でそう呟く。
「疲れが溜まっているのではありませんか? このところ、お忙しそうでしたし」 「……そうよ。無理は禁物よ、“教授”」 「確かに忙しかったが……、いかんね、昼間からこんなに眠くなるなんて」
しかし、それは彼だけではなかった。
「聖下、どうして……? いかん、ヴァーツラフ、君……、何か変だよ……、この眠気は……」 「……すまない、ウィリアム。申し訳ありません、聖下」
“教授”が頭を振って立ち上がろうとするが、途中で糸が切れたように倒れてしまい、
「……どうやらあなたは、すでに分かっていたようですね、」 「私が何も知らないで、あなたに接近したと思っているの?」
知らない間に、の右手には銃が握り締められ、その銃口をハヴェルに向けていた。
事実、カフェで行って、どんなに美味しい紅茶を堪能しても、
しかし、今回は違う。もしプログラム「スクラクト」の言う通り、彼がアルフォンソ・デステの仲間に……、
「さすがですね、。いつからお気づきになりましたか?」 「新教皇庁のデータを揃えていた時に、スクルーが発見したのよ。『彼』は確実にそうだと言っていたけど、私に 「そしたら、私が現れ、警戒心を一層深めた、ということですか? なるほど、相変わらずあなたは慎重派ですね」 「これは慎重とか、そういう意味じゃないわ、ヴァーツラフ。……出来ることなら、信じたくなかっただけよ」
いくらプログラム「スクラクト」が言おうと、そう簡単に信じられる状況ではなかった。
「でも、どうしてなの? なぜあなたは、新教皇庁なんかに……」
がハヴェルに問うたが、それを切断するかのように、彼の背中を誰かが打った。
「ヴァ、ヴァーツラフさん……? あ、あなた、何をやってらっしゃるんです?」
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がなぜ、ここまでしてヴァーツラフを止めたいかという謎は、過去にいろいろお世話になったからです。
他人には無関心な彼女ですが、彼とノエルだけは別だったらしいので。
だからこそ、このことを事実だと思いたくなかったのではないかと思うのです。
例え周りに迷惑をかけても、自分の手で真実を知りたい、と。
まあ、周りに迷惑をかけるのは、今に始まった話ではないですけどね(汗)。
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