「う、嘘……、ですよね、ヴァーツラフさん? ひょっとして、何かの特殊任務中だとか……。し、しまったなあ。 「……本気でそう思っているのなら、黙って消えてくれませんか、アベル?」
ハヴェルの声とともに、斬られかねない殺気が、その場にいるアベルとに襲い掛かる。
「それとも、私と一緒に来ますか? 我が新教皇庁は、喜んであなたを……」
ハヴェルの声が、そこで切断されてしまう。それもそのはずだ。
「さん!」 「彼は渡さないわよ、ヴァーツラフ。そんなことで行くような人ではないけど」 「やめて下さい、さん! あなた、正気でやっているんですか!?」 「私はいつでも正気よ、アベル。だからこうやって、『敵』を倒そうとしている。違う?」 「私達、仲間じゃないですか。そんなこと、絶対にしてはいけません!!」
の目は、まるで目の前に「敵」がいるかのように鋭く、ハヴェルに視線を送っている。
「……あなたは、変わらないな」
一瞬、いつもと変わらぬ穏やかな顔にもどり、今にも泣き出しそうなアベルに微笑む。
「本当に、あなたは変わらない。……でも、だからこそ、あなたは絶対に分からないのです。我々、人間の気持ちは」
最後の言葉に、が一瞬ピクッと動いた。
(みんな、同じ人間だって、分かっていてくれたと思っていたのに……!)
「さ、そこをどいて下さい。……それとも、私の邪魔をするつもりですか?」 「ど、どちらも出来ません……。仲間と戦うなんて、私には……」 「私には出来る」
ハヴェルの言葉と同時に、がハッとしたように銃を構え直し、相手に向かって打ち抜く。
「やばい、アベル!!」 「!」
がそう叫んだ時には、アベルの僧衣が裂け、胸から血が吹き上がっていた。
それを確認したが、アベルから離すために銃を撃ち込むと、その方向へ向きを変え、相手が突進してきた。
しかし相手はそれを瞬時に交わし、再び彼女に向かって移動し、手刀を振り上げる。
(しまった!)
心の中で叫んだ時には、ハヴェルの繰り出した手刀が彼女の左肩を切りつけ、持っていた銃が床に落ちてしまった。
「さん!」
激痛のあまり、声も出せないに、アベルが慌てて彼女の名前を呼んだ。
「つっ!!」
体に、一気に痛みが走る。
「……出来れば、あなたにはこんなことをしたくなかったのですが。残念です」 「ヴァーツラ…フ……」
声が痛みのあまりに霞んでしまう。
「……ヴァーツラフさん、やめてください」
そんなの様子を見ていたアベルが、我慢出来なくなったように、ハヴェルに向かって発せられる。
「あ、あなたに仲間を殺せるわけないじゃないですか。お願いですから、こんな真似……」 「“仲間を殺せるわけがない”? 私は、もう仲間を殺した。それも最も古い友人を……。1人殺そうと2人殺そう 「ど、どういうことです? ……ま、まさか、教授を……」 「スコポラミンを使いました。……筋弛緩剤です」 「…………!」
ハヴェルの言葉に、アベルとの目が思わず見開いた。
(違う……、これは罠だ……!)
がそう思った時には、アベルが銃を構え、相手の方へ向けて発砲していた。
「今のは、嘘です。ウィリアムは眠っているだけです。しかし――、あなたの感情は、面白いほど簡単に乱れますね。 「……し、しまっ!」 「アベル! ……うっ!!」
危険を察知し、がすぐに動こうとしたが、背中と左肩の激痛が走り、動けなくなってしまう。
「くっ!」
もうダメかと思った時、ハヴェルの口から小さな悲鳴が上がり、手刀を引き戻し、大きく後方に跳躍した。
「そこまでです、“ノーフェイス”!」
戸口から、トレスとカテリーナの姿が見える。
「ヴァーツラフ、いかにあなたでも、派遣執行官3人を敵に回せるとは思わないでしょう。……弟を返して、降伏し 「恐れながら、猊下――。私の救いは、まことの信仰の中にのみあります。そして、それは猊下が唯一、お持ちでない 「…………!」
この時には、ハヴェルが何を言いたいのか、はっきりと分かっていた。
「それに、私の力のことをお忘れではありませんか、猊下? 私は“ノーフェイス”。――人数など、私との戦闘に 「――ミラノ公、発砲許可を!」
トレスの呼びかけに、しばらくカテリーナは答えることがなかった。
「工学電磁干渉場――、不可視化迷彩!」
カテリーナが我に返った時には、ハヴェルの体のほとんどが見えなくなっていた。
「……主よ、今から起こす我が罪を、お許し下さい……」
誰にも聞こえないように呟き、ゆっくりと目を閉じると、体中に白いオーラが現れ、の体を包み込む。
「神父トレス、発砲を許可します! 今のうちに倒しなさい!」
それに気づいてなのか、気づかないでいるのか、カテリーナがトレスに命令すると、
「だ、駄目です、トレス君!」
アベルが横からトレスを制して、発砲された弾丸が、そのまま虚しく白壁を貫く。
「どけ、ナイトロード神父! 今、倒さねば間に合わん!」
そんな彼を張り倒して、なおもトレスは、光学・非光学系の全てのセンサーを最大感度にして、
<もう遅いですよ、神父トレス……。もう、私は赤外線にも超音波にも補足出来ません……。私は、そういうふうに 「…………!」
トレスが追跡をしようとしたその時、彼の体が吹き飛び、白壁に叩きつけられてしまう。
「ト、トレス君……!」
アベルが吹き飛ばされた相手に向かって叫んだ時、彼の顎に何らかの衝撃がかすめた。
<何!?>
姿の見えないハヴェルが、信じられないような声を上げて、その場に立ち尽くしているように、
アベルの前には、先ほどまで倒れて動けなかったはずのが、「何か」を固定しながら立ち竦んでいる。
「いい加減にしなさい、ヴァーツラフ」 <……私の姿が、見えているのですか? 「あれ」を使っていないのに?> 「アベルと同じにしないで。私はいつでも、使っている」
その言葉と同時に、は掴んでいた「何か」をおもいっきり回すと、
<無駄ですよ、。私には……!>
ハヴェルが何かを言おうとした時、が掴まれた左足を軸にして、そのまま後ろに側転を繰り出し、
<さすがに、今のは痛みましたよ、。しかし……、時間切れとお見受けしましたが?> 「回復時間と一緒になってしまったからね。……出来ることなら、あまり使いたくなかったけど、仕方なかった」
少し息切れした状態を見た限り、かなりの疲労は一目瞭然だった。
<さすがに、私も油断しましたね。……しかし>
ハヴェルの声が、の実力を称えるかのように言う。
<……しかし、今のあなたには、私を止めることなど出来ない> 「! さん、危ない!!」
アベルがそう叫んだ時には、の腹部に、大きなダメージが当たっていた。
「やばい……、スフォルツァ猊下! 早く、聖下を!!」
が危機を感じ、すぐにカテリーナに向かって叫ぶ。
……しかし、カテリーナが彼に触れようとした瞬間、彼の体が宙に浮き出したのだ。
「……“ノーフェイス”! 弟を……、アレクを返しなさい!」
宙に浮かせている人物の名を呼ぶと、彼女は見えない相手に向かって睨みつける。
<それは、彼を傀儡に教皇庁を操る枢機卿としておっしゃっておられるのですか? それとも、権力を得るために弟を
ハヴェルの言葉に、カテリーナだけでなく、でさえも一瞬立ち止まってしまうほどだった。
「そ、それは……」 <カテリーナ様、あなたはさきほど、こうおっしゃった。“私の力で救ってあげられます”と。――だが、あなたには 「…………!」
充実に事実を指摘するハヴェルの声には、誇るわけでも、責めるわけでもなかった。
ハヴェルはそれを確認すると、アレッサンドロの体を抱いて、そのまま身を翻した。
「なぜ、あなたがこのようなことを……、“ノーフェイス”!」
辛うじてカテリーナがそう叫んだ時には、相手はすでに戸口から出て行ったあとだった。
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“フローリスト”と“クルースニク”の違いが、少し分かったでしょうか?
“クルースニク”は起動しない限り、何も起こらないのですが、
“フローリスト”は普段から5パーセントなため、回復と同時に、短時間ですが透視の力が使えるのです。
彼女自身、あまりそれは使わないんですけどね。
ちなみに、ヴァーツラフとが体術でやり合ったのは、これが最初ではありません。
それもまた過去編で……って、
本当にこんなんばっかだよな(滝汗)。
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