3人分のサンドイッチをに渡しながら、店主が何気なく彼女に聞いてみる。
「ええ。昨日の夕方頃に到着して、今日から任務に入るんです」 「そうかい。ま、せいぜい頑張ってくれよ。よかったら、うちの店の常連客になりなよ。安くするぜ」 「ありがとうございます」
「任務」の意味は違うにしろ、とりあえず、うまくごまかして店を出ると、
城門前広場に到着すると、横に見える無数の炭と化したものが映し出され、思わず視界を反らしてしまう。
(確かに、相手は悪いことをしたかもしれないけど、あまりにも酷すぎる)
背きながらも、心の中で呟いたは、斜め前にいる2人の神父を確認した。
「お待たせ、お2人さん。何か、見つけた?」 「ええ。あれ、見て下さい。誰だかお分かりになりますか?」 「あれ? ……ああ、確か、ブルノ司教よね? 彼も対象になったの?」 「ブルノ司教は、生態拝領の儀式の際、聖体を市民にちらつかせて金銭を要求し、支払いがなければ、聖体を聖壇に投げ 「確かに、司教を含め、彼らは聖職者失格だったかもしれません。でも、焼き殺したりしなくたって――」
食事をするのに、この光景を見ながらは美味しいものもまずくなってしまうので、とりあえず反対側の歩道へ移ると、ちょうど見つけたベンチの上にアベルとが座り、の横にトレスが立っていた。
「あなたも座りなさい、トレス。いくら機械だからって、ずっと立っているのは疲れるでしょ?」 「否定。俺は別に疲れない上、何があった時にすぐに動けないこともある。よって、このまま立っている」 「……ま、いっか。はい、アベル」 「おっ、ありがとうございます〜! これって、経費で落ちるんですよね?」 「アベルが心配することじゃないわ。私のお金で買ったんだもの。……あと、これ。13杯入っているから、大丈夫
が自動二輪車から取り出したサンドイッチと紅茶をアベルに渡すと、彼は我武者羅になって食べ始めた。
「それより、この公開火刑って、ブルノ市民に新教皇庁の正統性をアピールするためのプロパガンダなんでしょ?」 「肯定。よって、この結果も予期されていたものとなる」 「……聖下は大丈夫なのですかね? ブルノ教会軍に包囲されて、今日で丸1週間になります。新教皇庁の人達、 「聖下を殺害する意図があるなら、プラークで実行していたはずだ。人質としての価値がある限り、聖下が殺害される 「確かに、それは一理あるわね」
がサンドイッチを左手に持ち、ケープの奥にある小型電脳情報機を取り出して電源を入れると、
「相手はたぶん、彼を殺そうとは思っていないわ。むしろ彼の目的は、メディチ、スフォルツァ両猊下よ。たぶん、 「そして、そのための“切り札”として用意されたのが、例の噴進爆弾、ということですね?」 「ご名答」
いつの間にかサンドイッチを食べ終わり、隣においてあった紅茶を手に取りながら言うアベルに、
昨日までの段階で、噴進爆弾のことについてはある程度の情報は手に入っている。
「何とか、今夜中に聖下を救出させましょう。ついでに、その噴進爆弾も、無力化させるのがベストですね」 「ええ。切り札さえなくなれば、相手は何も動けなくなるはずだしね」 「よう、待ったか、へっぽこ、拳銃屋、?」
近くで聞き覚えのあるダミ声が聞こえ、3人はその相手に視線を動かした。 「いやあ、今日は参ったぜ。クソ坊主どもが無茶苦茶な工期押し付けてくるもんだから、どこの現場もてんやわんや 「どういたしまして」
「おう、バッチリよ。そうだな、もう2時間もすりゃ、大騒ぎが始まるぜ。の指示通り、こいつと同じものを取水
「うまく工事のドサクサに紛れたんで、兵態どもも気づいてねえ。――ただ、何せ急の仕事だ。どこまで時間が稼げる 「そのあたりは、私の方で調節するわ。……ところで、例のもつけてくれたかしら?」 「そっちもバッチリだぜ。ちゃんと、映像もちゃんと出るはずだ」 「そう? テストしても大丈夫?」 「もちろん」
はレオンに了解を取ると、小型電脳情報機のキーボードを一気に叩き始めた。
リターンキーを押すと、目の前に4つの動画が流れ出す。
「よし、ちゃんと動いているわね。ありがとう、レオン。これでだいぶ楽になったわ」 「これぐらい、お安い御用だ」
ようやくがサンドイッチを食べ終わったのと同時に、あとから食べ始めたレオンも食べ終わり、
「それじゃ、これからのことを順に話すわね。レオンが仕掛けた爆弾が爆発した後、まずアベルとトレスが修道士の 「もし、すべてがうまく進行しなかった場合は?」 「その場の判断次第では、やむを得ず退散することあるかもしれないけど、もしそうだとしても、作戦を考え直して、 「卿はどうする、シスター・?」 「私はスクルーの『中』から、あなた達にそれぞれ情報を提供するわ。そのための映像だからね」 「ま、聖下はアベルとトレスで何とかしろ。噴進爆弾は俺で何とかしてやる。だけどよ、時間よりもっと厄介なこと 「ヴァーツラフの存在、よね? 確かに、それが問題なのよ……」
アベルは声に出さなかったにしろ、レオンとと同じことを考えていたらしく、2人の顔を見つめる。
「もし、奴と出くわした場合はどうする? 腐っても元派遣執行官だ。手強いぜ?」 「あの、それは――」 「排除する」
アベルの言葉を横切るかのように、トレスが急に口を挟む。
「ハヴェルについては俺が処理する。卿らは作戦目標に集中しろ」 「奴を倒せるのかい、拳銃屋?」 「問題ない。対抗手段を準備してある」
トレスが両腕の袖口からわずかに覗く棒状の物体を見せると、はすぐ、
「なるほど、対動体レーダーね」 「肯定。これなら、たとえ対象が透明化しても、その動きそのものを補足出来る」 「さすが“教授”。よく考えたものね」
一昨日会った時には何も聞いていなかったが、まさかトレスにこんなものをつけるとは思ってもいなかった。
「……あ、あのぅ、トレス君? 出来れば戦闘の前に、あの、穏便に説得を――」 「警告しておく、ナイトロード神父。今回は、俺の妨害をするな」 「そうだぜ。もう、ハヴェルの旦那のことは考えるな」 「し、しかしですね、まだ説得の余地が……」 「んなもんはねえよ」
レオンの声は、とても温かかく、説得力があるものだった。
「……ヴァーツラフのことは、今回は敵として見て欲しいの。そうするしかないわ」 「さん! それじゃ、一昨日おっしゃったことと……」 「違うと言われてもいいわ。今の私達は、聖下を助け、ミサイルをどうにかしなくてはいけない。その間にヴァーツ
の言葉に、アベルは疑問の顔をし続けた。
レオンの声には、すでに迷いなどはなく、ただ1つのことしか考えていないように聞こえる。
「……レオンさんは迷わないんですか?」 「俺には、もう選択肢がねえからな」
その言葉に、ははっとして、レオンの顔を見つめた。
「おう、任せておけ」 「了解した」
アベルとトレスが修道士の服を、レオンが自分の僧衣を受け取ると、3人はそれぞれの方向に散らばり始めた。
アベルの後ろ姿はまだどことなく力がなく、何かが喉に引っかかっているようにも伺えた。
「……使いたくないけど、使うしかないわね」
静かに目を閉じ、大きく呼吸をする。
(アベル……)
意識のどこかで、「繋がって」いる者の名前を呼ぶ。
(アベル……)
閉じた目の奥に現れた湖の上にある雫が、どんどん大きくなっていく。
(アベル……)
何度も呼びかけていく間にも、雫はどんどん大きくなっていき、そして……。
(当たり前ですよ。本当、大掛かりなことしますね) 「通信機を使うと、他の2人に聞こえちゃうからね。こうするしか、方法がなかったの」
目の前には、先ほどのブルノの町並みが広がっているのだが、周りにいる聖職者や兵士の動きが止まっている。
「さっきのこと……、謝りたかったの」
(……大丈夫ですよ、さん) 「え?」 (さんが言いたいことぐらい、分かりますから)
「……ごめんなさい、アベル。本当、あんなことを言うつもりなんてなかったの」 (分かってます。確かに最初はショックでしたが、今はもう大丈夫です。それに、そうでもしないと、トレス君に 「そんなことまで……、分かっていたのね」
(さん、私は私なりに、ヴァーツラフさんを説得するつもりです。きっとトレス君がそれを許してくれないと思い 「分かっている。だからあなたに、ある任務を与えるわ」
「あなたの言う通り、確実にトレスが邪魔をするかもしれないけど、出来るだけヴァーツラフの側から離れないでい (分かりました。やってみます。……さん) 「ん?」 (……私の意見を聞いてくれて、ありがとう) 「こちらこそ、許してくれてありがとう。お陰で、スッキリしたわ」
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「KNOW FAITH」です。
にとって、ヴァーツラフは大切な人なので、アベルには彼を説得して欲しいと、
誰よりも強く願っていたことでしょう。
だからこそ、トレスとレオンの前で演技をして、真意をアベルにだけ伝えたのかもしれません。
さて、次からはひたすら見守り役なので、大した変動はありませんが、
よかったら読んでやって下さい。
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