リターンキーを押すと、用意した紅茶を飲み、深く椅子に座り込む。
『プログラム〔スクラクト〕、進入10秒前』
ゆっくり呼吸を整え、次の衝撃を待つ。
『プログラム〔スクラクト〕進入5秒前。4、3、2、1……、進入開始』
カウントの声と同時に目を閉じると、一瞬からだが軽くなり、どこかに飛ばされるような感覚に陥っていく。
しばらく飛び続けると、目の前に大きな光の塊が現れ、彼女はその前にゆっくりと立ち止まった。
「汝よ、主である我に反応し、真の姿を、現したまえ」
塊に向かって言うの声を、相手はすぐに確認するため、色を変えつつ点滅し始める。
「こうやって会うのは久し振りね、スクルー」 『小型電脳情報機が出来てから、汝は我に、こうやって会う必要がなくなったからだ。仕方あるまい』
目の前にいる光――プログラム「スクラクト」の原型がそう言い、目の前に6つの映像が流れ出した。
「セフィー、そっちの準備はどう?」 『万全です、わが主よ』
プログラム「スクラクト」とはまた違う声が聞こえると、映像機が映し出されている隣に、
『プログラム〔セフィリア〕を中に入れたのか、わが主よ?』 「ええ。本当は外にも設置したかったけど、『彼女』は4分割しか出来ないから断念したのよ」 『外からは、“ダンディライオン”によってつけられた映像があります。なので私は、このまま城内に拠点を置き、 「ありがとう、セフィー。助かるわ」
プログラム「セフィリア」にお礼を言うと、は指示を出した3人が無事に到着したかを確認するために、
<“フローリスト”、応答を要請する>
トレスの声が聞こえ、は通じている合図をするように指を鳴らすと、
「こっちはちゃんと聞こえているわ。準備万端のようね」 <肯定。こちらの映像が見えているのか、シスター・?> 「ええ。爆破予定時刻まで、あと296秒よ。突入の準備を整えておいて」 <了解>
交信を終了すると、はすぐ、別の位置にいる同僚に交信を求めるように、再び指を鳴らした。
「“ダンディライオン”、聞こえますか?」 <おう、バッチリだ。そっちの方はどうだ?> 「今のところは問題ないわ。あともう少しで作戦開始よ。しっかりと準備して」 <おう、任せろや> 「頼んだわよ」
今回の通信は、すべてプログラム「ザイン」によって行われている。
再び、城内の映像を見始める。最上階にある独房には、いつの間にかアルフォンソに変わり、
「セフィー、3番の音声を出して」 『了解。――第3機音声プログラム、起動』
少しでも、彼がここに来た原因を知りたい。
<……私はこの場所が好きでしてね。ここから見るブルノが一番美しい>
ハヴェルの声はいつものように穏やかで、心に優しく響き渡る。
<……あ! あ、あれは、な、何ですか?> <あれは手回しオルガンと言って、古くからこの辺りの農村に伝わっている楽器です> <の、農民? じゃ、じゃあ、あの人達はお、お百姓さん達ですか?>
アレッサンドロの質問に、が思わず首をかしげた。
おかしい。
『何かに気づいたようだな、わが主よ』
の疑問に反応したのは、長年一緒にいたプログラム「スクラクト」である。
「……もしかしてとは思うんだけど、城外に教皇庁軍がいるの?」 『その通りだ。さらに付け加えると、今回の事件により、異端審問官が2人派遣されている』 「そのことなら、ここに来る前にウィルから聞いているわ。誰なのか、分かる?」 『今、汝に伝えても構わないが、恐らく名を知れば、汝はこの場から離れるだろう』 「それって……、……まさか!」
の頭に、1人の異端審問官の名前が浮かんだ。
『そうだ。……異端審問局副局長、シスター・パウラが動き出した』
「そう……。……となると、パウラがアベルとトレス側、フィリポがレオン側に来ることになる」 『その通りだ、わが主よ』
そこまで考えた時、はハッとしたように、トレスとアベルが映し出されている方を見つめた。
パウラが持つ暗器の力はすざましく、が対戦した当初も、それに何度か追い込まれた経験がある。
『“死の淑女”は恐らく、教皇と噴進爆弾を回収後、全ての異端と思われるものを抹殺すると思われる』 「その中にヴァーツラフの存在も無きにしも非ず」 『汝の言う通りだ、わが主よ』
ここまで推測した時点で、の頭に、今回の作戦の欠点が見え始めた。
(1回、退散させた方がいいのかもしれない……)
ふとそう思ったのだが、首を横に振って、その考えを振り落とした。
<貧しい彼らには蓄えなどありません。住居を移して、餓死するか凍死するしかない。ここ数年の異常気象で、毎年、
(目を離した間に、何てことを……!)
<面倒な奴らが来たな、こいつは。ま、適当に何とかするから心配するな> 「気をつけて」
「……そろそろ時間だわ。セフィー、3人が中に入ったら、すぐに後を追って」 『了解しました、わが主よ』
は顔を上げ、すべての画像に一通り目を通す。
そして……、レオンによって設置された100以上のコンパクト型爆弾が、一気に爆発したのだった。
|
のプログラム潜入はよくあるのですが、
自らのプログラムに潜入するのはこの時期だけです。
この時のクレアは、「力」を封じられているからだと解釈していただければ幸いです。
しかし、本当に話を聞いているだけですね(汗)。
この状況は次まで続きますので、お付き合いしてくれると私が非常に喜びます(笑)。
(ブラウザバック推奨)