翌日、とトレス、そしてレオンの3人は、
新教皇庁の戴冠式が行われている聖ペテロパウロ大聖堂の裏出入口にて、
中に潜入しているプログラム「セフィリア」の映像を小型電脳情報機で見ながら、
進入のタイミングを計っていた。
新教皇庁枢機卿団長を務めるドゥプチェク司教が、白い冠をアルフォンソの頭上にのろうとした瞬間、
司教が手を滑らせ、軽い音とともに壇上に落下した。
円錐系の宝石細工がコロコロと転がり、そのまま参加者の間に落ちると、宝石が一気に爆発し、
その付近にいた聖職者が巻き込まれていった。……どうやら、異端審問官のお出ましらしい。
<ふしゃしゃしゃっ! んっん〜、あ〜んらっきぃ!!!>
「また、あの野郎かよ、オイ」
画面に現れたブラザー・フィリポを見て、レオンが呆れたように言い放つと、
も少しうんざりしたように見つめている。
どうも、この性格が気に食わないらしい。
『わが主よ、“クルースニク02”と“ノーフェイス”に動きがありました。映像を出しますか?』
「アベルとヴァーツラフに!? 出して!」
プログラム「セフィリア」からの情報を聞くと、はすぐに許可して、画面にもう2つの映像を映し出す。
1つはアベルがどこかに向かって走っている映像、もう1つは例の噴進爆弾の前にいるハヴェルの映像だった。
「……ヴァーツラフ、異端審問局の動きを見て、アベルを解放したのね」
「てことは、へっぽこはこっちに向かってきているってことか。少しは楽になったな」
「否定。ナイトロード神父1人では、聖下を救い出すことは極めて難しい。よって、速やかに突入するのがいいと考えられ
る」
トレスが焦るように言う中、アベルが無事に大聖堂に到着したらしく、反対側の裏口から内部に侵入していく。
それを確認した時――。
「オイ! そこで何をしている!!」
達の横から兵士の声が聞こえ、3人は一斉にその方向を見つめた。
どうやら、哨戒中の兵士に目撃されたようだ。
「どうする、? やっちまうか?」
「そろそろ突入しなきゃいけなかったし……、やるしかないわね。トレス!」
「肯定。俺はいつでも万全だ」
トレスの手からは、すでに2挺の大型拳銃が姿を現しており、一気に撃ち始めていた。
も2挺の銃を取り出し、マシンガンモードで一気に撃ち込んでいき、
レオンも手首につけている戦輪を投げ込んだ。
この人数でなら、3人でも余裕に倒せる量なため、そんなに力むことなく、相手を着々と倒していく。
しかし、前方西か敵がいないと思っていた矢先、の後ろから誰かが刀のようなもので襲い掛かって来て、
はすぐに後転して避け、銃を再び構えようとした。
――が、ふと思い出したかのように、銃を懐に戻し、ケープの裏に隠してあった、ある1つの棒を取り出した。
それは先日、“教授”のラボで貰った試作品である。
「、何だ、そいつは?」
「“教授”が作り出した新製品。試しに使って欲しいって言うからね」
はそれを横にすると、敵の前に翳し、先にあるボタンを押した。
それと同時に、相手の兵士が再び刀をこちらに向かって振り下ろそうとした時――。
相手の刀の先が、何者かに折られたかのように失っていたのだった。
「……そんなにしっかりした刀じゃなかったのね。それじゃ、剣師失格よ」
剣先を失ったことで、オドオドしている兵士に向けて、はその棒を振り回し、
相手の腕や足に深い切り込みを入れていく。
その姿は実に華麗で、見ているものが見ほれるほどであった。
の手に持っている物――、それは刃渡り150センチほどある、長い細剣だったのだ。
前回のブリュージュでの戦闘を見て、“教授”がのために作った武器だったのだ。
「切れ味、なかなかいいじゃない。さすが“教授”、やるわね」
歓心しながら言うのそばで、残りの兵士を倒したレオンとトレスが向かってきて、
はすぐにボダンを押して、元の棒に戻して、元の場所にしまった。
どうやら、もう使わないらしい。
「折角借りたんなら、使えばいいだろう?」
「私としては、あまり使いたくないのよ。……それより、もういい加減中に入らないとやばいわね」
「肯定。早く行かなければ、聖下の命にかかわる事態を招く」
「そうね。よし、一気に突入すわよ!」
「おう!!」
レオンが大聖堂のドアを蹴り開け、一気に中に入ってく。
途中、何人もの兵士と出くわしたが、走りながら攻撃を仕掛けていき、道を開けていく。
そして無事に大聖堂に到着した時、目の前で起こっている事態に、が一気に目を見開いた。
異端審問官、ブラザー・フィリポが、顔を仰向けにされているアベルに向かって、
を目線の高さまで掲げたからだった。
(しまった、アベル!)
は急いで右手の銃を抜くと、強装弾装備に変更し、フィリポの手の甲に向かって撃ち込み始めた。
銃弾は目に見えない早さで回転し、目的地までたどり着き、勢いよく真っ赤な血が噴き上がり始めた。
普通の強装弾よりも数倍も強力な弾丸なため、噴き上がる量は半端ではない。
「あ、あいいいいいいいいっ! 手! オレ様ちゃんの手があああああっ!」
「……やっと会えたわね、ブラザー。反撃出来て嬉しいわ」
「ほほう、お前にしてはイケてるアクセサリーじゃねえか、ダルマウナギ。――でも、はっきり言って、似合わない
ぜ」
の皮肉たっぷりな言葉と、レオンの相手を楽しげに嘲ると、
目の前から数人もの兵士が素早く小銃を向けた。
しかしそれは、一緒にいたトレスによって憚れる形になっていった。
「レ、レオンさん! トレス君! さん!」
「来るのが送れてごめんなさい。でも何とか、生きているみたいね」
「待たせたな、へっぽこ。ほんとは、もうちっと早く来るつもりだったんだが、服、乾かすのに、ちょいと手間取っ
ちまってよ」
「不要の会話は後に回すことを推奨する、“ダンディライオン”。現状では、聖下の確保と脱出が最優先だ」
「んなこと、わかってらあ。たく、人がせっかくかっこつけているところを邪魔しやがって」
「かっこつけている領域に達していないわよ、レオン。それより……、少し、体力を回復させなきゃ」
がアベルの横にひざまつくと、両手を彼の胸の前に翳した。
白いオーラが掌に集まり、アベルの体を包み込み、痙攣した体を和らげていく。
痙攣が治まると、白いオーラが消えて、彼を支えながら立ち上がらせると、レオンに彼を託し、
気絶しているアレッサンドロの首筋をあてて、脈拍を確認した。
「よし、大丈夫ね。アベルとトレスは聖下を連れて街の外に逃げて。私とレオンで、噴進爆弾を止めるわ」
「ちょ、ちょっと待って下さい……。その……、ヴァーツラフさんは私が……」
「“私が”って、お前、そんな体じゃムリ……」
「……いいわ。私が連れて行く」
「……そうだな。その様子だと、聴きそうにねえな、その顔は」
アベルの目がいつになく真剣なのを見て、とレオンはそれに折れる形になった。
こんなに真剣な眼光を見るのは、本当に久し振りだと、は心の中で思った。
「それじゃ、2人とも。聖下のことは頼んだわよ!」
「おう! 任せろや!」
「早急に噴進爆弾を解体することを要求する、ナイトロード神父、シスター・」
はレオンとトレスに頼むと、まだ少しふらつくアベルを支えながら、大聖堂を出て、
再びシュピルベルク城へと向かって走り出したのだった。
2人の願うこと。
それは噴進爆弾の無力化と、ハヴェルを救い出すこと。
ただそれだけだった。
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