「イタタタタタッ。頭、割れそう」

「これだから、ほどほどにして下さいって言ったのに。飲んだの、久し振りでしょう?」

「疲れも一緒に来たのよ。本当、かなり参ったわ」




 アルコールは、もともと強い方だ。
 ウィスキーなら、平気でボトル1本は飲んでしまう。
 しかし、しばらく飲んでいなかったのと、アントニオの苛立ちのせいか、
 は何年ぶりかの二日酔いになってしまっていた。
 外部の怪我などは治せる彼女でも、内部の病気を治すことは至難の業。
 だったら、このままほっといた方がいいと考え、特に何もしていなかった。




「でも巧い手だね、それは」

「そう? 私としては、かなりムカついたんだけど」

「私も、最後まで人を馬鹿にした話だと思いましたよ」

「だってそれなら、枢機卿達も今後、彼をないがしろに扱えなくなる。名簿をそのままにしておけば、取り上げられ
てそれでおしまい。しかし、自分の頭の中に移しておけば安心だし、いつまでもローマではVIP待遇を受けること
が出来る。……うん、いい手だよ」




 長官執務室への廊下で一緒になった“教授”が納得しながら言うが、とアベルには納得がいかないようで、
 少し呆れたように彼の顔を見ていた。




「でもま、相手はケルン大学きっての天才と呼ばれてた人だから、いい手と言えば、いい手なのかもしれないわね」

「え? あの人、そんな風に呼ばれてるんですか?」

「あら? 知らなかったの、アベル?」

「バレンシア公子アントニオ・ボルジアと言えば、23歳で7つの博士号を持っている天才だよ。うちの大学でも
政治学部の教授職を用意しているほどさ」

「そう言えば、そんなこと言っていたわね。確か、いつでも就職出来るように、枠を確保しているんでしょ?」

「然り。ま、あとは公子次第だがね」

「……へえ、あの人がねえ」




 アベルが意外そうにそう言うと、は最初にそのことを聞いた時のことを思い出した。
 その時は本人に会ったわけでもないから、きっとすごく優しく、信頼される教授になるのではないかと思っていた。
 しかし今では、そのような考えがなくなっていた。



 もう彼に会うこともないし、関わりたくもない。
 この頭痛を引き起こすぐらいに苛立つのは、これで最後にしてしまいたい。
 そう、心の底から願っていた。




「それより、ウィル。あなた、また眠ってないでしょ? 顔色があまりよくないわよ」

「そうなんだよ、全くたまらんよ! こんなことなら、まだ人買いども相手の方が、気が休まったね。ナイトロード
君が羨ましいよ。あの天才アントニオ・ボルジアの護衛! さぞや高尚で学術的な会話を楽しんでいたのだろうね
え?」

「…………」

「いや……、そんなこと出来るような状況じゃなかったと思うわよ」

「そうかね? そうなると、折角の機会を無駄にしたことになる、てことだな。勿体ないよ、2人とも」




 “教授”の言葉に、思わずアベルももうんざりそうな顔をすると、長官執務室の前に到着して、扉をノックした。




「アベル・ナイトロード、ならび、・キースです。お召しにより参上いたしました」

「どうぞ。お入りなさい」




 アベルが扉を開けると、執務卓に座っていたカテリーナが悪戯っぽく笑っている。
 一体、何があったのだろうか?




「あら、ずいぶんと男前があがっていますね、ナイトロード神父。……ケルン出張は大変だったようですね?」

「はあ、いろいろな意味で」

「シスター・も、ご苦労様でした。撤収作業、スムーズに進んだそうですね? ……どこか、体調を崩しているの
ですか?」

「いえ、これは大したことないのでお気になさらず。……でも今回ばかりは、つくづく彼が可哀想だと思いました。
私が彼の代わりに行かなくてよかったと思うぐらいですから」




 アベルとが呆れたように言うが、相手は未だ、笑った顔を緩める気配がない。




「一番厄介だったのは、新教皇庁の連中なんかより、護衛してた当人でしたけどね……。カテリーナさん、今後から
危険物の輸送の時は、あらかじめそう言って下さいよ」

「私も同感ですわ、猊下。そうすれば、少し覚悟を決めて望めますし」

「危険物って、ひょっとして、ボルジア公子のこと? でも、公子の話だと、ナイトロード神父とは随分と息のあっ
たコンビだったそうではありませんか? ええっと、“
(ココロ)の友”とかなんとか」

「そんなこと言っていたの、公子?」

「え? 知りませんよ、そんなこと。誰ですか、そんな愉快な寝言言ったのは? だいたい私と彼とは――」

「生死をともに交わした戦友、だろ、アベル君?」




 後ろから聞こえた声に、アベルの眼鏡が思わず零れ落ちそうな目玉をし、
 も目を点にしながら、声がした方を振り返ると、
 そこには、もう会うこともないだろうと思っていた人物が、悠長にソファの上に座っていたのだった。




「ああ、ナイトロード神父とシスター・とはすでにお知り合いでしたね。“教授”には紹介しておきましょう」




 硬直したアベルとを楽しそうにみながら、カテリーナはソファに座っていた先客を“教授”紹介する。




「こちらは今度、教皇庁に入庁した新人司祭の……」

「アントニオ・ボルジアです。―――どォぞヨロシク、先輩方♪」






 ソファに座っていた人物――アントニオが立ち上がり、にこやかな笑顔で手を差し出す。
 “教授”はにこやかな笑みで彼の手を取って握手を交わしたが、
 その傍らでは、が頭を抱えてしゃがみ込んでいた。




「う゛〜、頭痛が再発したぁ……!!」

「そんな、私も痛くなりそうなんですから、ここは我慢して下さいよ!!」

「我慢だなんて、出来るほど軽いものじゃないんだから無理よ!!」






 頭を抱えながら壁に寄りかかり、その場にしゃがんでいるに説得しているアベルの姿を見て、
 影から笑い声が聞こえたのか聞こえなかったのか。

 それを知るのは、その場にいる者だけだった。

















言わんこっちゃないですよ、この人は(汗)。

てなことで、アントニオ、無事に(?)仲間入りです。
彼女としては、異端審問局にいるマタイと同じぐらい天敵になるでしょう。
性格的に合わないのでしょう、きっと。

とりあえず、頑張ってもらうしかありません。
みんないい人じゃ、つまらないですしね(そういうものか)。





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