「いや、本当、助かったぜ、! これも、お前のお陰だ。ささ、好きなのを頼めや」

「本当? じゃ、ザッハトルテとセイロンティーにしようかしら?」




 事の事情をアベルとレオンに話すと、レオンが嬉しそうな顔をして、
 にケーキやら紅茶やら奢ると言い出したのだ。
 なぜかその場には、アベルも一緒に来ていたのだが。




「レオンさん、私、ガトーショコラがいいです」

「何でお前の分まで奢らにゃいけないんだよ、へっぽこ!」

「ぐおっ」




 肘鉄を食らったアベルがその場に蹲ると、はその姿を呆れたように見つめ、途中、ウェイトレスを呼んだ。




「あ、彼に、ガトーショコラとミルクティーを」

「おいおい、。俺はこいつの……」

「私が払うなら、問題ないでしょ? いくら何でも、私だけが食べるわけにはいかないし。何なら、レオンも
何か頼んだらどう? 実費で

「ま、俺は甘い物は苦手だからいいや。それに、ここにいるだけでお腹いっぱいだし」

「それって、どういう意味よ?」




 問い掛けた瞬間、レオンの顔が少しニンマリして、を見つめている。
 何が言いたいのか分かったのか、はため息混じりで答える。




「言っとくけど、私はあなた好みじゃないわよ、レオン」

「いや、そうでもないぜ。スタイルいいし、きれいだし。俺、きれいな姉ちゃん、大好きでよぉ……、アチッ!




 言葉を遮るように、アベルが紅茶のポットを滑らして、レオンの太股にこぼしてしまったのだ。
 大した量じゃないにしろ、中に入っているのは熱湯だ。熱くないわけがない。




「ごめんなさい、レオンさん! 大事なズボンが濡れてしまって!!」

「本当だよ、てめえ! どうしてくれるんだ! このズボンはなぁ〜!!」

「はいはい、2人とも、ここで喧嘩はやめなさいって」




 そう宥めながらも、はアベルが何をしたかったのか予想がついた。
 言葉で反抗する
ことがあまりない彼だからこそ出来る、唯一の攻撃だったのかもしれない。
 そう思ったら、徐々に笑いがこみ上げていった。



「……さん、私、何かおもしろいことしましたか?」

「いえ、いいのよ。私のことは気にしなくて……、フフッ」

「お、おい、一体どういう意味だよ?」

「本当、大したことじゃないから……」




 再び笑いのツボにハマッたらしく、はお腹を抱えて笑い始める。
 その姿を、アベルもレオンも、ただ不思議そうに見つめるだけだった。






(アベルが妬いてる? ……まさか、ね)






 このこと答えを知る者は、たぶんアベルだけなのかもしれない。

















アベルは彼女に妬いているかもしれませんが、
彼女自身はどうも思ってないかもしれません。
それは過去編になったら明らかにされますので、ここでは敢えて伏せておきます。

さて、次からノエル登場です。
短いですが(泣)。





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