「神父レオン、私の声が聞こえますか?」

『バッチリだぜ、。……何か、ザーザー言ってないか?』

「自動二輪車を運転しながらだから、仕方ないでしょ?」

『ってことは……、まだ着いていないのか!?』

「いいえ、アベルは無事に着いたわ。けどレオン1人じゃ大変だろうと思って、私だけ抜けて来たの」

『そりゃ、助かるな。……おっとてめぇ! 危ねえじゃねえか!』

「……そこに何かいるの?」

『ああ。何かよく分からんが、口のでかいミミズみたいなのが、地面を這いつくばっていてよ。なかなか方柱まで
進めねえんだ。……ぬおっ! 本当に、ムカつくぜ』




 どうやら、あの“魔導師”は何かを仕掛けたらしい。の頭に、ヴェネツィアで見た顔が頭を遮った。



 イザーク・フェルナルド・フォン・ケンプファー。
 今、一番彼女が敵視している人物だ。
 もし同じ者がノエルを殺し、今回の騒動を引き起こした人物なのであれば……、アベル1人で行かせるのは、
 間違いだったのかもしれない。



 しかし、ここで振り返ってはいけない。
 とりあえず、早くレオンの元へ行き、あの方柱を破壊しなくては。



 レオンとの通信を終わらせ、ギアを入れ替え、スピードを上げていく。
 目的地までは目と鼻の先だ。



 サン・ピエトロ広場に到着すると、自動二輪車を乗り捨て、
 目の前で無数の巨大ミミズ――“
地精(グノーム)”を相手に奮闘するレオンの姿を目撃した。




「レオン、大丈夫!?」

「大丈夫と言えば大丈夫だが、かなり面倒だぜ、こりゃ」

「このままじゃ、破壊どころの話じゃないわね。……こうなったら、私がこいつらを引き付けるから、その間に
“サイレント・ノイズ”を破壊して!」

「分かった。あまり無茶はするなよ!」

「当然!」




 はレオンとハイタッチをして交換すると、両側に備えてある銃を取り出し、強装弾装備(フルロードモード)に切り替え、
 地面に亀裂を作りながら移動する“地精”に向かって撃ち始めた。
 あまりにも巨大なため、1発では死なないのだが、中に仕込んである強装弾のおかげで、何とか倒し続けていった。



 その間、レオンは制服から取り出した粘土の塊を、が来る前に仕掛けた信管と違うところに埋め込むと、
 方柱へ慎重に爆薬を仕込んで、スイッチを入れた。
 爆破まで、あと5分だ。




! こっちはバッチリだ!」

「分かったわ。あとはこいつらを……!」




 “地精”を避けてながら話している時、の胸元が、急に激痛が襲いかかった。
 あまりの痛さのため、その場にしゃがみ込んでしまうと、目の前から“地精”が襲い掛かろうとした。




「! ヤバイ、、逃げろ!」

「―――!!!」




 胸の痛みは、そうすぐに動けるものではない。
 そんな時に襲われたら、いくら彼女でさえも、ひとたまりもなくなってしまう。
 どうすればいいのかと、悩んでいた時―――。



 腕時計式リストバンドの円盤が勝手に動き、「1」で止まる。
 ボタンが自動で押され、基盤の針が彼女の手首に軽く刺さり、そこから大きなバリアが発生した。
 それに向かって突進してきた“地精”がバリアに当たった。
 相手はそれを破ろうとしたが、バリアから出てきた熱により、
 相手に発火し、そのまま燃え死んでいったのだった。




『……ご無事ですか、わが主よ?』

「な、何と、か……。ありがと、フェリー……、助かっ……、うっ!」

『無理しないで下さい、わが主よ。今から、鎮痛剤を打ちます』

「お、お願い……、はぁっ!」




 基盤の針の真ん中から出てきた針が手首に深く刺さり、そこから流れる鎮痛剤がの体に流れ出す。
 それにより、少しずつだが、呼吸も正常になってきている。




「ありがと、フェリー。本当、助かったわ」

『構いません、わが主よ』




 鎮痛剤の効果もあり、彼女は何とか立ち上がると、あと2匹まで減った“地精”に向かって、攻撃を再開させた。
 さっきほど身軽には行かないが、もがき苦しんで殺されるよりもまだいい。




(アベル……、大丈夫なのかしら?)




 あの激痛があったと言うことは、アベルに何かが起こったことのサイン。
 下手したら、暴走している確率も高い。
 そうなってしまった時、止めることが出来るのは他でもないだけだ。
 そのがここにいるとなると、かなり厄介なことになる。




(早く終わらせて、アベルのところまで行かなくては……!)




 残り1匹というところまで来て、は大きく身を翻した。
 近くにある壁を蹴り、相手の方に向かって飛んでいくと、相手の口元を狙って銃を構える。
 そしてそのまま、口腔におもいっきり撃ち込んでいった。




「最後は俺に譲れ、!」




 方柱から離れたレオンが、の方へ走っていくと、手首につけていた戦輪を投げ出すと、
 それが見事“地精”の首元を直撃し、頭部が地面にずり落ちていった。
 そのまま頭から下も倒れこんだ時―――。






 方柱に設置された小型爆弾が、静かに爆発したのだった。






「……、お前、大丈夫だったのか?」

「何とかね。原因は分かっているから、特に問題はないんだけど」




 再び静寂が訪れた中、レオンが心配げにの顔を覗き込んだが、彼女の顔にはすでに元に戻っていて、
 いつもの彼女の笑顔があった。




「しかし……、こいつはすごいな。爆発したのにも関らず、まだ原型を留めやがる」

「本当ね。しぶといのにも、ほどがあるわ」




 方柱が崩壊されたと言うのに、“サイレント・ノイズ”だと思われる部品は、
 焼け焦げているがしっかりと形が残っている。
 その生命力に、2人は半分呆れたように見つめていた。




「さて、ミラノ公のところへ行くとするか」

「そうね。……って、ちょっと、レオン。あなた、それ、持っていくんじゃないでしょうね?」

「ああ。だってよ、ちゃんとしとめたのを見せないとさ」

「……それ持って、私の愛車に乗られたら困るわ。一人で歩いていってくれないかしら?」

「あのなぁ、ここからそんなに距離はねえんだから、走っていくぞ、走って!」

「えっ! そんな、走っていくだなんて!! こう見えても、一応病人……」

「そんな元気な病人、どこ探してもいねえよ。ほら、行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい、レオン!」




 先ほどの“地精”の頭部と“サイレント・ノイズ”を両脇で抱えて走っていくレオンの後ろを、
 が少し慌てたように走り出した。
 が来る前にもたくさんの“地精”を倒したはずなのに、まだあんな体力があるのには驚かされるぐらいだ。




(これって、やっぱあのステーキ効果なのかしら?)




 ふとそんなことが頭を横切ったのだが、相手に口にすることなく、
 そのまま彼の後ろを追いかけるようにして走り続けたのだった。






 その間に聞こえた朝課の鐘が、朝のローマに、静かに響き渡った。

















レオンの援護に向かった理由はいくつかありますが、
一番の理由は、トレスの場合、が向かった時にはもう終わってそうな気がしたからです。
それに、レオン1人でケンプファーが仕掛けものを倒すのは大変ですし。
なので、にはレオンの助っ人へ行ってもらいました。

プログラム達は、の危機を感じると勝手に起動することがあります。
今回がそのいい例です。
特にプログラム「フェリス」は、よく勝手に起動します。
ありがたいプログラムです。





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