自動二輪車(モーターサイクル)を指定した場所に置き、は法王宮の中へと入っていく。



 白いシャツに黒のネクタイ、濃緑(カーキー)のたくさんの金ボタンのロングコートに黒のパンツ、
 そして黒のブーツといったスタイルのを、多くの人が不思議そうに見ていた。
 警備にあたっていた都市警達が、最初は侵入者かと思っていたが、
 左腕にある教皇庁の紋章である「
ローマ十字(ローマン・クロス)」を見て、すぐに警戒を解いていった。



 中にはすでにアルフォンソと、現聖下であるアレッサンドロ][世、
 フィレンツェ公フランチェスコ・メディチ枢機卿、そして彼女の上司でもある、
 ミラノ公カテリーナ・スフォルツァ枢機卿がそろっていた。




「お久しぶりです、アルフォンソ大司教様。その後、お変わりはございませんか?」

「おお、これは殿! 今日は私の我が侭にお付き合いくださって、ありがとうございます」

「いえ。私もお会い出来て光栄です、大司教様」

「そんな硬い呼び方はやめようじゃないですか、殿。昔のままで大丈夫ですよ」

「そうですか? それじゃ……、昔のようにお呼びますわ、アルフォンソ様」




 彼女が「猊下」と呼ぶのは、カテリーナとフランチェスコのみ。
 それ以外の人は、たとえ2人より上位の者でも「様」を使う。
 それがたとえ、前聖下の弟であるアルフォンソとて同じだった。




「お、お久しぶりです、シ、シスター・

「お久しぶりです、聖下。お変わりございませんか?」

「は、はい。あ、あなたのことは、あ、あ、姉上から聞いています」

「メディチ猊下も、お久しぶりです。最後にお会いしたのは、いつだったでしょうか?」

「5年前の聖下の就任式以来だ、シスター・。今でも、お前をこちら側に入れれなかったことが悔やみきれないな」

「申し訳ございません。しかし私は、もとからスフォルツァ猊下に仕えていた者。彼女を裏切ることはしたくありま
せんでしたから」




 当時、フランチェスコとカテリーナは、頭脳も力も優れているを取り合っていた。
 しかし前聖下のグレゴリオの命があったため、フランチェスコが1歩下がるしかなかったのだ。



 には、それよりも大きな理由でカテリーナを選んだ。
 それはアベルも一緒に、カテリーナ側についたからだ。
 彼の近くにいるのが当たり前だと思っている彼女にとって、こんなに好都合なことはない。
 そう思ったは、即行Axの登録名簿に名前を綴ったのだった。



 しばらくして、アルフォンソとフランチェスコが国際情勢を語り始めると、
 は横でカテリーナが咳き込んでいるのに気づいた。
 バルセロナの事件の処理でろくに寝てないせいか、少し風邪気味になっていたのだった。




「スフォルツァ−猊下、大丈夫ですか?」

「……大丈夫よ、シスター・。心配しないで」

「ただでさえ、お疲れなのですから、ご無理をなさらないよう、お気をつけ下さい」

「ありがとう。……それより、昔はそういう格好をしていたのですね」

「そう言えば、この姿は初めて見るんでしたね。驚かれましたか?」

「ええ。けど、その姿もよく似合っています」

「お褒めのお言葉、ありがとうございます」




 周りに人がいるため、2人は固い口調のまま話し続けていた。
 変に親しい話し方をしては、周りに変に思われてしまうからだ。




「それより、警備の方はどうでしたか?」

「じきに、神父トレスと神父レオンが来ます。それに、ここにはメディチ猊下が用意された都市警と特警もいます。
なのでそんなに、目を鋭くする必要はございません」

「だと、いいのですが……」

「ミラノ公」




 とカテリーナが話していると、近くで遠慮がちに呼びかける声がして、2人は声が聞こえた方に振り向くと、
 そこにはトレスとレオンが、槍の穂先をきらめかせる
斧槍衛兵(アラパルディエリ)の列の向こうにいたのだ。




「ナイトロード神父はどうしました、神父トレス?」

「……ここでは無線が使えません、猊下。今なら、アルフォンソ様もメディチ猊下と話し込んでいますから、
席を外しても大丈夫です。どうか、行ってくださいませ」

「ありがとう、シスター・。叔父様のこと、よろしくお願いします」

「承知いたしました」

「ちょっと私は外の空気を吸ってきます。……その間、叔父上の相手をお願いできる、アレク?」

「は、はい、姉上! お、お、お任せください」

「ありがとう……。がんばってね」




 アレッサンドロの手を包むように握り、カテリーナはその場を離れて行く。
 彼女に一礼する、アレッサンドロはいつもの口調で彼女に話しかけた。




「あ、姉上、す、すごく、つ、疲れているようでした。だだ、大丈夫でしょうか?」




 やはり、勘付いていたらしい。
 いや、気づかない方がおかしかった。
 それぐらい、カテリーナは疲れきっていたのだ。




「心配いりません、聖下。スフォルツァ猊下はお強い方です。それをよく知っているのは、聖下ではありませんか」

「そ、そうですが……」

「もし何かありましたら、私がすぐに参ります。なので聖下は、何も心配せず、ここにいてください」

「はは、はい……。……シ、シスター・

「はい?」

「……あ、ありがとう、ございます」




 アレッサンドロに微笑んだ顔は、まるで「天使」のようで、どこか温かみがある笑顔だった。
 その笑顔に、彼は何だか、少し救われたような気分になっていた。




「ところで殿、今は派遣執行官として活動しているようですが……」

「え、あ、ええ」




 突然話しかけられて、一瞬と惑ったもの、すぐにアルフォンソの質問に笑顔で答える。




「昔から遠出するのは好きですから。たまに、自動二輪車で任務地に向かう時もありますし。あまりにも帰りが
遅いと、スフォルツァ猊下にお叱りを受けてしまうのですが」




 彼女自信も、この場で事件を起こすためにはいかない。
 もし起きたら、それは彼女の責任にもなる。
 油断するわけにはいかない。



 しばらくして、斧槍衛兵の元から、2人の神父がこちらに向かってやってくる。
 その姿を見つけたが、少し不思議そうに問い掛ける。




「神父トレス、神父レオン、スフォルツァ猊下はどうしたの?」

「もう少し風にあたってから戻るとのことだ」

「他の派遣執行官を呼べるか聞いてみたが、どーやらどこも駄目らしいから、ここは2人で何とかすることになった。
直接じゃないが、お前もいるしな」

「そう……」




 “教授”はヒスパニア王国で人身売買シンジケートと戦争中。
 ユーグはブリュージュの吸血鬼氏族丸ごと1つ相手取っているところだし、
 ヴァーツラフはプラークで異端結社に盗まれた聖遺物の奪回作戦に入ったという報告を受けていたりと、
 それぞれがそれぞれの任務を果たすので精一杯で、こっちの仕事まで任せられるほど空いている手はない。
 はこのまま、アルフォンソとアレッサンドロの護衛をしなくてはいけないため、
 そう簡単に行動に移すことが出来ない。




「そうだ、。ミラノ公が、お前を呼んで来いって言われているが……」

「スフォルツァ猊下が?」

「聖下とアルフォンソ大司教の護衛は、俺とガルシア神父で続行する」

「……分かった。お願いするわね」

「任せておけって」

「速やかな帰還を要求する、シスター・




 レオンがを安心させるかのように手でサインを送ると、は彼とトレスに1つ頷き、アルフォンソの方に向いた。




「アルフォンソ様、少しだけ外の空気を吸いにいってもよろしいでしょうか? サン・ピエトロ広場は、
疲れた体を癒してくれる効果があると言われています。近頃、少々疲れ気味ですので、新鮮な力を浴びた
いのですが」

「おお、勿論、構いませんよ。ゆっくりしてきなさい」

「はい。失礼いたします」




 はアルフォンソの前で一礼すると、速やかに出て行き、カテリーナがいるサン・ピエトロ広場へと向かった。



 広場には、アルフォンソがローマ来訪を記念して寄進した方柱(オベリスク)が立っている。
 一昨日完成したばかりなため、汚れ1つなく、暗い闇に溶け込んでい



 歩いていくと、方柱の傍らに座っているカテリーナと、目の前に立ち尽くしているアベルを発見し、
 は少し安心したかのように、2人のところに駆け出した。




「アベル! よかった、ちゃんと来ていたのね?」

「ええ、まあ……」




 の喜んだ顔と引き換えに、アベルは未だに辛い顔を引きずっていた。
 気持ちは分からなくはないだが。




「……すみません、カテリーナさん、さん」




 ポツリ、アベルが静かに話し始める。声は小さく、俯いた顔は、月の光で閉ざされているため、
 どんな気持ちで話しているのか分からなかった。




「本当にすみません。私は……」

「……アベルが謝ることじゃ、ないわ」




 アベルと同じように、も静かに話し始める。
 その声が、誰もいないサン・ピエトロ広場に広がっていく。




「ノエルのことは、今もバルセロナで“ジプシークイーン”が調べてるし、私もスクルーに頼んで探してもらって
いる。まぁ、プログラム・データで残っていないとなると、“ジプシークイーン”に頼らないといけなくなるけどね」

「ですが……」

「覚えていますか、アベル」

「え?」




 カテリーナの言葉に、アベルとが彼女の方を見下ろす。
 2人のロザリオに触れ、それを強く握った。




「十年前、私とがアベルに会った時のこと……。あの時、貴方と約束したことを、私は今でも覚えていますよ。
も、覚えていますか?」

「……“俺は人間を守らなくちゃいけない。だから、君を助ける”」

「そう。そして、私はこう答えたわ。……なんて言ったか、覚えてる?」

「“私は人間の敵と戦わなくちゃいけない。だったら、一緒に戦いましょう”」

も、言ってくれたわよね」

「ええ。……“私も人間を守らなくちゃいけない。だから、アベルと共に貴方を助ける”と」




 の視界に、10年前のあの光景が蘇る。
 白い翼を広げる自分の姿と、黒い翼を広げる、彼の姿を。
 その中に佇む、1人の少女の姿を。




「そして、あの時のことを忘れたことはない。――アベル、貴方達の敵は私の敵、あなたと私達は同じ剣を握って
いるのよ。……だから、二度と1人で戦わないで」

「そうよ。辛いことがあったら、ちゃんと言って。全部、1人で抱えちゃ駄目よ。私はあなたの“フローリスト”
なんだから、無理なことも頼んでくれていいのだから」

「……ありがとう、カテリーナさん、さん。ほんとにありがと」

「どういたしまして」

「お礼は、紅茶1杯で許すわよ。ケーキ付きで」

「そんな財産、ないに決まってるでしょう、さん」




 久し振りに聞くアベルの情けない声に、カテリーナとは思わず口が緩んでしまう。
 少しずつだが、もとのアベルに戻っていくようだったので安心したのだ。



 時計がもうじき9時を指すところだったので、カテリーナはその場に立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。




「では、そろそろ皆のところに戻りましょう。今頃、アレクが独りで怖がっているんじゃないかしら。終とうの
時間までには戻りますって言ったから」

「そう言えば、私もアルフォンソ様にそう言って来てたわ」

「護衛の貴方がいなくなったら、叔父様も大変でしょうしね」

「トレスとレオンがいるから大丈夫よ。お会いできたのは嬉しいけど、この格好で護衛するの、ちょっと抵抗が
あったから」

「そう言えば、その服、以前着ていたものですか?」

「ええ。グレゴリオ前聖下が、制服ぐらいあってもいいんじゃないかって、用意してくださったの。私はいいって
言ったんだけどね」




 この服は確かに動きやすいのだが、着替えるのだけでも一苦労で、それだけで時間がかかってしまう。
 だから、この服を着るのはグレゴリオの前だけにして、普段は私服代わりの服を着ていたぐらいだ。
 まだ今の僧服の方が楽である。




「それにしても早いですね。……あれから、もう十年も経っちゃいましたか」

「時々思うことがあるわ、もしも、あんなことがなかったら……」

「なかったら?」

「私も、聖界などに入らず、あのまま大学に残って、誰か好きな人と結婚していたかもしれない。……でも、
もしそうなったら、兄上はやりたい放題だったでしょうね」

「そうなったら、私はきっと、教皇庁に戻されるわね」

「そうね。あの人は、放っておくとすぐに世界を敵に回したがる人だから。今頃、十字軍の2つや3つ、始めていた
かもしれないわね」

「そうなったら、本当に大変よ。地球が破裂しちゃうわ」

「!?」




 カテリーナの言葉に、アベルが足がもつれ、危うく転びそうになったのを必死で踏み止まった。




「どうしたの、アベル?」

「カ、カテリーナさん、今、何て?」

「え?」

「すぐに敵に回したがる人……、そう言いませんでしたか?」

「え、ええ……」

「それが、どうかしたの?」




 掴み掛からんばかりに血相の変わったアベルの顔を、カテリーナとは不思議そうに見つめていた。
 一体、何があったのだろうか。




「そ、その言い回し、どこから聞きました? いや、誰に!?」

「これは確か、アルフォンソ様の、よね?」

「ええ。間違いなく、これは叔父上――アルフォンソ叔父よ。あの方が兄上に……」

「大司教に!? そ、それで、今、アルフォンソ大司教は!?」

「鐘楼にいるわよ。今度のローマを記念して、新しい鐘を奉納してくださったの。今夜の終?式で、それを聖別して
……、アベル!?」

「広場にいて! 聖堂に入っちゃ駄目です! さん、カテリーナさんを止めてください!」

 「ア、アベル!? 一体、どうし……!」




 アベルを呼び止めようとした時、はあることに気がついた。
 それは最も大事なことで、下手したら、大変なことを招くであろうことだった。




、何か分かったのですか?」

「……鐘よ」

「え?」

「アルフォンソ様が奉納した鐘よ! もしかしたら、あの中に兵器があるかもしれない」

「でも、そんな! 叔父様がそんなことを……」

「確かに、ローマの教会にある鐘はチェック済みだし、ここはテロの情報が入ってから、メディチ猊下と警察が重要
な警戒態勢を強いている。けど、アルフォンソ様自身が奉納した鐘はチェックされてないし、ノーチェックでローマ
に入ったのも、アルフォンソ様自身よ。そうなると……」

「行きましょう、。アベル1人では、抑えられないわ」

「ええ。……全く、結局こうなるんだから!」




 とカテリーナが急いで聖堂に向かって走り出すと、
 聖堂の奥から、アベルの
旧式回転拳銃(パーカッション・リボルバー)の音が鳴り響いていた。




(緊急のこととは言えど、神聖な場所で発砲するだなんて!)




 アベルの気持ちは分からなくはないが、発砲までする必要はないはずだ。
 そんなことをしたら、立場は逆方向に行く一方だ。



 は腕時計式リストバンドの円盤を「3」にセットして、ボタンを押す。
 下から細い基盤の針が手首に触れ、文字盤から緑の光を放つと、すぐに声が聞こえてきた。




『聞こえているか、わが主よ』

「バッチリよ、スクルー」

『アルフォンソ大司教が奉納した鐘については、今調査中だ。しばらく待たれよ』

「任せたわよ」




 プログラム「スクラクト」に言うと、聖堂の扉を勢いよく開ける。
 息を切らしながら中の様子を見て、の顔が一瞬引きつった。




「い、異端、審問官……!」




 奥では、レオンが投げ損ねた戦輪(チャクラム)を虚しく指先で回転させ、戦慄に引きつっている。
 斧槍衛兵達でさえ、彼らの登場で動きを止めてしまっている。




「ご苦労だった、ブラザー・ヤコブ、シスター・シモーヌ。……退がってよい」




 沈黙の中、フランチェスコの声が響き渡り、2人の派遣執行官は彼の前で一礼し、不気味な沈黙と共に退く。
 アベルは首筋に2本の細い針が刺されており、一切の随意筋の昨日を失って、立ち尽くしているだけだった。



 はカテリーナの側から離れると、レオン達のところまでかけよる。
 レオンがすぐに、事の説明を彼女に求めた。




、これ、どういうことだ?」

「それが……」

「どこかで見たことのある顔だが……。さて、これはどういうことだ、カテリーナ? 説明しろ!」




 の発言を遮るように、フランチェスコが戸口で息を切らしているカテリーナに怒鳴りつけている。




「確か、この男は貴様の部下だったな? まさか、貴様、叔父上を殺めたてまつろうなどと……」

「メディチ猊下、その説明は私が……」

「ミラノ公とその男は無関係だ」




 フランチェスコに事の真相を言おうとした矢先、レオンの横にいるトレスが口を開き、の発言を妨げた。




「その男、アベル・ナイトロードは、本日18時54分、国務聖省を依願退職している」

「お、おい、トレス!」

「聖職服務規程3条4項ならびに8項に基づき、その男に着いて、国務聖省は一切関知しない。完全に無関係だ」

「そんな、勝手に決めつけるだなんて……!」

「『勝手』? 否定(ネガティブ)だ、シスター・。アベル・ナイトロードは、確かにそう俺達に言った。卿もその場にいて、
確認したはずだ」

「だからってそんな、すぐに決めつけなくてもいいでしょう!」

「……よかろう」




 トレスの言っていることを理解したのか、しばらく見据えていたフランチェスコは顎を引き、
 カテリーナに向かって言う。




「その男は我らが逮捕しよう。無関係と言うなら、カテリーナ、お前もよもや文句はあるまい?」

「し、しかし……」

「“しかし”――何だ?」

「……いえ、兄上のよろしきように」




 フランチェスコに抵抗したが、ぎろりと動いた視線によって阻止され、そのまま指示に従うしかなかった。
 それを見たが、相手に反抗する。




「メディチ猊下、何も理由をご存知にならずに、彼を逮捕するのですか?」

「お前も抵抗するのか、シスター・?」

「彼が逮捕される理由などないと言っているのです。それに、神父トレスは退職したとおっしゃっていましたが、
彼はまだ我々と同じ、国務聖省の者なのには変わりありません」

「それなら、何かあるのか?」

「あります。それは……」




 が言いかけた時、アベルの視界が、何かを訴えるように見つめていることに気づいた。
 それを理解したのか、は少し呆れたように、発しようとした言葉を飲んだ。




「……いえ、何でもありません」




 本当は言いたいことがあったのに、言えない自分に腹が立つ。
 しかしアベルには、何か考えがあって、彼女を阻止したのかもしれない。
 そしてそれは、いつも正確に的を撃っている。今回もきっと、そうに違いない。
 はそう信じ、フランチェスコに頭を深く下げた。




「軽はずみで物を言うとは、お前らしくないな、。まぁよい、こ奴を拘禁しろ。事が済んだら、じっくり調べる。
国務聖省との関係も含めてな。……申し訳ございませんでした、叔父君。とんだ粗相を」

「い、いや、お気にめさるな、御両人。その、何かあったのか知らぬが、終?を続けてよいかね?」

「無論で――」

「お待ちを、叔父様」




 アルフォンソの腕が紐に伸びたが、その腕を、カテリーナがそれを止めた。
 それを、は少し驚いたように見つめていた。




「終とうはひとまず中止なさって下さいませ」

「カテリーナ、貴様、まだそのような戯言を!」




 フランチェスコがカテリーナに怒声を浴びさせている時、
 は背後で斧槍衛兵達に引き立てていくアベルを見ていた。
 その時、何かを訴えるようにカテリーナを見つめ、彼女は無言で頷く。
 最後にの方を見て、何か言いたそうに再び見つめられた。
 その内容を読み取ったのか、が1つため息をつき、軽く手でサインを送った。



 が説得しても、きっとアルフォンソはすぐに振り向かない。
 いくら元聖下の護衛係だったからと言っても、すぐには信用してもらえるはずがない。
 現に彼女は、一度彼を裏切っている。
 きっと今回も、同じように思われるだけだ。



しかし、カテリーナなら、それを成し遂げることが出来る。




「アルフォンソ叔父様、私は叔父様を疑うつもりはありません。……ですが、あの鐘を一度調べさせていただけません
でしょうか? 鐘に危険物が仕込まれている恐れがあります」

「カテリーナ、貴様、狂ったか!」

「お待ちなさい、フランチェスコ殿。つまり、カテリーナ殿。……あなたは、私よりも、あの部下の方を信用される
のですね? 叔父である私よりも」

「……申し訳ありません、叔父様。私は部下の判断を信じます」

「分かりました」




 アルフォンソが了解したように言った時、彼女の腕時計式リストバンドが振動して、再び緑に光った。
 ここで応対してもいいが、声を出して話すわけにもいかない。
 自分の意識を、プログラムに集中させるしか方法がなかった。




(何か分かったの、スクルー?)

『アルフォンソ大司教の鐘についての結果が出た。あの鐘は……』

「……ですが、調べる手間をあなたにおかけするのは心苦しい」




 プログラム「スクラクト」からの結果を聞く前に、アルフォンソの言葉が大きくなり、
 カテリーナの指に添えられた手が強くなっていく。
 それを見ながら、は調査結果に耳を傾けた。






『あの鐘には……』

「今、ここで」

『“サイレント・ノイズ”は装着されていない』

「我が潔白を明らかにしましょう」






 法王宮内に、鐘の音だけが、静かに響き渡っているのだった。

















長くなってしまってすみません(汗)。
どこで区切ってもおかしくなるので、区切らずにここまでズラズラ長くなってしまいました。

フランチェスコを「猊下」と呼ぶ理由も過去編にて。
私の話の大半は過去編に行かないと分からないことばかりですね。
すみません(汗)。





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