自動二輪車を指定した場所に置き、は法王宮の中へと入っていく。 白いシャツに黒のネクタイ、濃緑のたくさんの金ボタンのロングコートに黒のパンツ、 中にはすでにアルフォンソと、現聖下であるアレッサンドロ][世、 「お久しぶりです、アルフォンソ大司教様。その後、お変わりはございませんか?」 「おお、これは殿! 今日は私の我が侭にお付き合いくださって、ありがとうございます」 「いえ。私もお会い出来て光栄です、大司教様」 「そんな硬い呼び方はやめようじゃないですか、殿。昔のままで大丈夫ですよ」 「そうですか? それじゃ……、昔のようにお呼びますわ、アルフォンソ様」 彼女が「猊下」と呼ぶのは、カテリーナとフランチェスコのみ。 「お、お久しぶりです、シ、シスター・」 「お久しぶりです、聖下。お変わりございませんか?」 「は、はい。あ、あなたのことは、あ、あ、姉上から聞いています」 「メディチ猊下も、お久しぶりです。最後にお会いしたのは、いつだったでしょうか?」 「5年前の聖下の就任式以来だ、シスター・。今でも、お前をこちら側に入れれなかったことが悔やみきれないな」 「申し訳ございません。しかし私は、もとからスフォルツァ猊下に仕えていた者。彼女を裏切ることはしたくありま 当時、フランチェスコとカテリーナは、頭脳も力も優れているを取り合っていた。 には、それよりも大きな理由でカテリーナを選んだ。 しばらくして、アルフォンソとフランチェスコが国際情勢を語り始めると、 「スフォルツァ−猊下、大丈夫ですか?」 「……大丈夫よ、シスター・。心配しないで」 「ただでさえ、お疲れなのですから、ご無理をなさらないよう、お気をつけ下さい」 「ありがとう。……それより、昔はそういう格好をしていたのですね」 「そう言えば、この姿は初めて見るんでしたね。驚かれましたか?」 「ええ。けど、その姿もよく似合っています」 「お褒めのお言葉、ありがとうございます」 周りに人がいるため、2人は固い口調のまま話し続けていた。 「それより、警備の方はどうでしたか?」 「じきに、神父トレスと神父レオンが来ます。それに、ここにはメディチ猊下が用意された都市警と特警もいます。 「だと、いいのですが……」 「ミラノ公」 とカテリーナが話していると、近くで遠慮がちに呼びかける声がして、2人は声が聞こえた方に振り向くと、
「……ここでは無線が使えません、猊下。今なら、アルフォンソ様もメディチ猊下と話し込んでいますから、 「ありがとう、シスター・。叔父様のこと、よろしくお願いします」 「承知いたしました」 「ちょっと私は外の空気を吸ってきます。……その間、叔父上の相手をお願いできる、アレク?」 「は、はい、姉上! お、お、お任せください」 「ありがとう……。がんばってね」 アレッサンドロの手を包むように握り、カテリーナはその場を離れて行く。 「あ、姉上、す、すごく、つ、疲れているようでした。だだ、大丈夫でしょうか?」 やはり、勘付いていたらしい。 「心配いりません、聖下。スフォルツァ猊下はお強い方です。それをよく知っているのは、聖下ではありませんか」 「そ、そうですが……」 「もし何かありましたら、私がすぐに参ります。なので聖下は、何も心配せず、ここにいてください」 「はは、はい……。……シ、シスター・」 「はい?」 「……あ、ありがとう、ございます」 アレッサンドロに微笑んだ顔は、まるで「天使」のようで、どこか温かみがある笑顔だった。 「ところで殿、今は派遣執行官として活動しているようですが……」 「え、あ、ええ」 突然話しかけられて、一瞬と惑ったもの、すぐにアルフォンソの質問に笑顔で答える。 「昔から遠出するのは好きですから。たまに、自動二輪車で任務地に向かう時もありますし。あまりにも帰りが 彼女自信も、この場で事件を起こすためにはいかない。 しばらくして、斧槍衛兵の元から、2人の神父がこちらに向かってやってくる。 「神父トレス、神父レオン、スフォルツァ猊下はどうしたの?」 「もう少し風にあたってから戻るとのことだ」 「他の派遣執行官を呼べるか聞いてみたが、どーやらどこも駄目らしいから、ここは2人で何とかすることになった。 「そう……」 “教授”はヒスパニア王国で人身売買シンジケートと戦争中。 「そうだ、。ミラノ公が、お前を呼んで来いって言われているが……」 「スフォルツァ猊下が?」 「聖下とアルフォンソ大司教の護衛は、俺とガルシア神父で続行する」 「……分かった。お願いするわね」 「任せておけって」 「速やかな帰還を要求する、シスター・」 レオンがを安心させるかのように手でサインを送ると、は彼とトレスに1つ頷き、アルフォンソの方に向いた。 「アルフォンソ様、少しだけ外の空気を吸いにいってもよろしいでしょうか? サン・ピエトロ広場は、 「おお、勿論、構いませんよ。ゆっくりしてきなさい」 「はい。失礼いたします」 はアルフォンソの前で一礼すると、速やかに出て行き、カテリーナがいるサン・ピエトロ広場へと向かった。 広場には、アルフォンソがローマ来訪を記念して寄進した方柱が立っている。 歩いていくと、方柱の傍らに座っているカテリーナと、目の前に立ち尽くしているアベルを発見し、 「アベル! よかった、ちゃんと来ていたのね?」 「ええ、まあ……」 の喜んだ顔と引き換えに、アベルは未だに辛い顔を引きずっていた。 「……すみません、カテリーナさん、さん」 ポツリ、アベルが静かに話し始める。声は小さく、俯いた顔は、月の光で閉ざされているため、 「本当にすみません。私は……」 「……アベルが謝ることじゃ、ないわ」 アベルと同じように、も静かに話し始める。 「ノエルのことは、今もバルセロナで“ジプシークイーン”が調べてるし、私もスクルーに頼んで探してもらって 「ですが……」 「覚えていますか、アベル」 「え?」 カテリーナの言葉に、アベルとが彼女の方を見下ろす。 「十年前、私とがアベルに会った時のこと……。あの時、貴方と約束したことを、私は今でも覚えていますよ。 「……“俺は人間を守らなくちゃいけない。だから、君を助ける”」 「そう。そして、私はこう答えたわ。……なんて言ったか、覚えてる?」 「“私は人間の敵と戦わなくちゃいけない。だったら、一緒に戦いましょう”」 「も、言ってくれたわよね」 「ええ。……“私も人間を守らなくちゃいけない。だから、アベルと共に貴方を助ける”と」 の視界に、10年前のあの光景が蘇る。 「そして、あの時のことを忘れたことはない。――アベル、貴方達の敵は私の敵、あなたと私達は同じ剣を握って 「そうよ。辛いことがあったら、ちゃんと言って。全部、1人で抱えちゃ駄目よ。私はあなたの“フローリスト” 「……ありがとう、カテリーナさん、さん。ほんとにありがと」 「どういたしまして」 「お礼は、紅茶1杯で許すわよ。ケーキ付きで」 「そんな財産、ないに決まってるでしょう、さん」 久し振りに聞くアベルの情けない声に、カテリーナとは思わず口が緩んでしまう。 時計がもうじき9時を指すところだったので、カテリーナはその場に立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。 「では、そろそろ皆のところに戻りましょう。今頃、アレクが独りで怖がっているんじゃないかしら。終とうの 「そう言えば、私もアルフォンソ様にそう言って来てたわ」 「護衛の貴方がいなくなったら、叔父様も大変でしょうしね」 「トレスとレオンがいるから大丈夫よ。お会いできたのは嬉しいけど、この格好で護衛するの、ちょっと抵抗が 「そう言えば、その服、以前着ていたものですか?」 「ええ。グレゴリオ前聖下が、制服ぐらいあってもいいんじゃないかって、用意してくださったの。私はいいって この服は確かに動きやすいのだが、着替えるのだけでも一苦労で、それだけで時間がかかってしまう。 「それにしても早いですね。……あれから、もう十年も経っちゃいましたか」 「時々思うことがあるわ、もしも、あんなことがなかったら……」 「なかったら?」 「私も、聖界などに入らず、あのまま大学に残って、誰か好きな人と結婚していたかもしれない。……でも、 「そうなったら、私はきっと、教皇庁に戻されるわね」 「そうね。あの人は、放っておくとすぐに世界を敵に回したがる人だから。今頃、十字軍の2つや3つ、始めていた 「そうなったら、本当に大変よ。地球が破裂しちゃうわ」 「!?」 カテリーナの言葉に、アベルが足がもつれ、危うく転びそうになったのを必死で踏み止まった。 「どうしたの、アベル?」 「カ、カテリーナさん、今、何て?」 「え?」 「すぐに敵に回したがる人……、そう言いませんでしたか?」 「え、ええ……」 「それが、どうかしたの?」 掴み掛からんばかりに血相の変わったアベルの顔を、カテリーナとは不思議そうに見つめていた。 「そ、その言い回し、どこから聞きました? いや、誰に!?」 「これは確か、アルフォンソ様の、よね?」 「ええ。間違いなく、これは叔父上――アルフォンソ叔父よ。あの方が兄上に……」 「大司教に!? そ、それで、今、アルフォンソ大司教は!?」 「鐘楼にいるわよ。今度のローマを記念して、新しい鐘を奉納してくださったの。今夜の終?式で、それを聖別して 「広場にいて! 聖堂に入っちゃ駄目です! さん、カテリーナさんを止めてください!」 アベルを呼び止めようとした時、はあることに気がついた。 「、何か分かったのですか?」 「……鐘よ」 「え?」 「アルフォンソ様が奉納した鐘よ! もしかしたら、あの中に兵器があるかもしれない」 「でも、そんな! 叔父様がそんなことを……」 「確かに、ローマの教会にある鐘はチェック済みだし、ここはテロの情報が入ってから、メディチ猊下と警察が重要 「行きましょう、。アベル1人では、抑えられないわ」 「ええ。……全く、結局こうなるんだから!」 とカテリーナが急いで聖堂に向かって走り出すと、 (緊急のこととは言えど、神聖な場所で発砲するだなんて!) アベルの気持ちは分からなくはないが、発砲までする必要はないはずだ。 は腕時計式リストバンドの円盤を「3」にセットして、ボタンを押す。 『聞こえているか、わが主よ』 「バッチリよ、スクルー」 『アルフォンソ大司教が奉納した鐘については、今調査中だ。しばらく待たれよ』 「任せたわよ」 プログラム「スクラクト」に言うと、聖堂の扉を勢いよく開ける。 「い、異端、審問官……!」 奥では、レオンが投げ損ねた戦輪を虚しく指先で回転させ、戦慄に引きつっている。 「ご苦労だった、ブラザー・ヤコブ、シスター・シモーヌ。……退がってよい」 沈黙の中、フランチェスコの声が響き渡り、2人の派遣執行官は彼の前で一礼し、不気味な沈黙と共に退く。 はカテリーナの側から離れると、レオン達のところまでかけよる。 「、これ、どういうことだ?」 「それが……」 「どこかで見たことのある顔だが……。さて、これはどういうことだ、カテリーナ? 説明しろ!」 の発言を遮るように、フランチェスコが戸口で息を切らしているカテリーナに怒鳴りつけている。 「確か、この男は貴様の部下だったな? まさか、貴様、叔父上を殺めたてまつろうなどと……」 「メディチ猊下、その説明は私が……」 「ミラノ公とその男は無関係だ」 フランチェスコに事の真相を言おうとした矢先、レオンの横にいるトレスが口を開き、の発言を妨げた。 「その男、アベル・ナイトロードは、本日18時54分、国務聖省を依願退職している」 「お、おい、トレス!」 「聖職服務規程3条4項ならびに8項に基づき、その男に着いて、国務聖省は一切関知しない。完全に無関係だ」 「そんな、勝手に決めつけるだなんて……!」 「『勝手』? 否定だ、シスター・。アベル・ナイトロードは、確かにそう俺達に言った。卿もその場にいて、 「だからってそんな、すぐに決めつけなくてもいいでしょう!」 「……よかろう」 トレスの言っていることを理解したのか、しばらく見据えていたフランチェスコは顎を引き、 「その男は我らが逮捕しよう。無関係と言うなら、カテリーナ、お前もよもや文句はあるまい?」 「し、しかし……」 「“しかし”――何だ?」 「……いえ、兄上のよろしきように」 フランチェスコに抵抗したが、ぎろりと動いた視線によって阻止され、そのまま指示に従うしかなかった。 「メディチ猊下、何も理由をご存知にならずに、彼を逮捕するのですか?」 「お前も抵抗するのか、シスター・?」 「彼が逮捕される理由などないと言っているのです。それに、神父トレスは退職したとおっしゃっていましたが、 「それなら、何かあるのか?」 「あります。それは……」 が言いかけた時、アベルの視界が、何かを訴えるように見つめていることに気づいた。 「……いえ、何でもありません」 本当は言いたいことがあったのに、言えない自分に腹が立つ。 「軽はずみで物を言うとは、お前らしくないな、。まぁよい、こ奴を拘禁しろ。事が済んだら、じっくり調べる。 「い、いや、お気にめさるな、御両人。その、何かあったのか知らぬが、終?を続けてよいかね?」 「無論で――」 「お待ちを、叔父様」 アルフォンソの腕が紐に伸びたが、その腕を、カテリーナがそれを止めた。 「終とうはひとまず中止なさって下さいませ」 「カテリーナ、貴様、まだそのような戯言を!」 フランチェスコがカテリーナに怒声を浴びさせている時、 が説得しても、きっとアルフォンソはすぐに振り向かない。 しかし、カテリーナなら、それを成し遂げることが出来る。 「アルフォンソ叔父様、私は叔父様を疑うつもりはありません。……ですが、あの鐘を一度調べさせていただけません 「カテリーナ、貴様、狂ったか!」 「お待ちなさい、フランチェスコ殿。つまり、カテリーナ殿。……あなたは、私よりも、あの部下の方を信用される 「……申し訳ありません、叔父様。私は部下の判断を信じます」 「分かりました」 アルフォンソが了解したように言った時、彼女の腕時計式リストバンドが振動して、再び緑に光った。 (何か分かったの、スクルー?) 『アルフォンソ大司教の鐘についての結果が出た。あの鐘は……』 「……ですが、調べる手間をあなたにおかけするのは心苦しい」 プログラム「スクラクト」からの結果を聞く前に、アルフォンソの言葉が大きくなり、
「今、ここで」 『“サイレント・ノイズ”は装着されていない』 「我が潔白を明らかにしましょう」 法王宮内に、鐘の音だけが、静かに響き渡っているのだった。 |
長くなってしまってすみません(汗)。
どこで区切ってもおかしくなるので、区切らずにここまでズラズラ長くなってしまいました。
フランチェスコを「猊下」と呼ぶ理由も過去編にて。
私の話の大半は過去編に行かないと分からないことばかりですね。
すみません(汗)。
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