“剣の館”内の執務室でとトレス、レオンが待っていたのは、ケイトのお怒りの声だった。 「ごめんなさい、ケイト。私も止めようとしたんだけど、あの状況じゃどうしようもなかったのよ」 「そうだぜ、ケイト。拳銃屋はともかく、俺様なんてただのか弱い美青年じゃん? たった3人じゃ戦争はできねえよ」 「よしんば可能だったとしても、部外者のために戦闘行動を選択するつもりはない。いや、あそこでかりに引き渡し要求がなければ、俺自身の手でナイトロードを消去していた」 <そんな、アベルさんは仮にも同僚じゃないですか! そんな言い方、あんまりじゃありませんこと!?> 「そうよ、トレス。あなた、何考えてそんなこと言っているの?」 「ナイトロードは任務を拒否し、あまつさえ、上司に深刻な損害をもたらした。――消去に値する」 <そんな言い方って……!> トレスの発言を不快に思ったは、トレスにツカツカと攻め込んで、半分怒りを込めながら、静かに言う。 「トレス、アベルはやめるとは言ったけど、あれは彼の本当の考えなんかじゃない。あの時の彼の精神状態なら、そんな言葉が出てきても当たり前でしょ? 何で分からないの?」 「まあまあ、落ち着きたまいよ、御両人。今は悠長に喧嘩している場合じゃないだろ?」 ソファーから立ち上がったレオンが、とトレスの間に割って入る。それにより、一時的にだが、2人の言い争いは止められた。しかし、いつ再開されるか分からない。自身、さっきからトレスの発言に苛立ちを隠せないでいたからだ。 「それより今後のことだ。実際、どうするよ? ミラノ公があんなことになっちまって、いよいよ二進も三進も出来なくなっちまった」 「……ご丁寧に監視までついているしね」 ブラインドの隙間から道路を見回すと、都市警が道路の角に止まっていて、向かいの建物の屋根には、特務警察か異端審問局の連中がいる。 「こりゃ、VIPなみの待遇だな。ルームサービスでも頼んでみるか?」 <身内の監視だなんて、なんて方々。……あら?> 「どうしたの、ケイト?」 <外部から入電中。……これ、緊急入電ですね。全く、この忙しいのに、もう!> ケイトがぶつくさと文句を言いながら、慌しく姿を消すと、はトレスが何かを読んでいるのを見つけた。 「トレス、さっきから何読んでいるの?」 「ケルン大司教管区の調査記録だ。――情報部から調達してきた」 「ケルン大司教区の? もしかして、アルフォンソ大司教のことを調べているの?」 「アルフォンソって……、あのオッサンはシロだろ? さっき、お前も見たじゃねえか」 「肯定。だが、“クルースニク”は彼を疑っていた。何らかの根拠があったはずだ」 「そう言えば、さっき着替えの時、フェリーが何か言いかけていたような気が……」 「フェリーって、プログラム『フェリス』か?」 「そう。……よし、コンタクトを取ってみよう」 「卿の協力、感謝する、シスター・」 彼女はロングコートの内ポケットにしまっていた小型電脳情報機を取り出すと、電源を入れ、手馴れたようにキーボードを打ち込んでいった。しかし、途中でふと気づき、最初に打ち込んだプログラムを全て消し、もう一度打ち直した。 確か先ほど、プログラム「フェリス」は、プログラム「スクラクト」からの報告をに伝えようとしていた。ならば直接、「彼」に聞いた方が早い。の手は、ものすごい勢いでプログラムを打ち込んでいった。 「お前ってさ、腱鞘炎とかになったことないか?」 「なったことないわよ。子供のころから使ってるから、関係ないのかもしれないわね。――プログラム『スクラクト』、私の声が聞こえますか?」 『聞こえている、わが主よ。……今回は、“ダンディライオン”と“ガンスリンガー”が一緒か』 「会うのは久し振りだな、スクラクト。元気だったか?」 『特にバグもなく、順調にいっている』 プログラム「スクラクト」と連絡を取りつつも、彼女はトレスが、自ら進んでケルン大司教区のデータを調べている姿を見て、思わず口が緩んでしまった。そしてそれは、レオンも同じようだった。 「……何を笑っている、“ダンディライオン”、“フローリスト”?」 「いや、何のかんのとお前、あいつを心配しているじゃん――いい奴だ」 「本当よ。私もさっきまで苛立っていたけど、一気にどっかへ行ったわ」 「否定――卿達の発言は理解不能だ。再入力を要求する」 「照れんなよ」 「照れる? 卿の発言意図は理解不能だ。再入力を――」 <大変です!> 急に聞こえるケイトの声に、一瞬周りがビックリしたが、それ以上に危うくレオンのくろげた胸元に顔を突っ込みかけたけケイトの方がビックリしていた。 <ひいっ!> 「失敬だな、君わ! 俺の胸毛がそんなに嫌いか!」 <ちょ、ちょっと吐き気が……、あ、いや、そんなくだらない話をしている場合じゃありません!> 「俺の胸毛のどこがくだらないんだ!?」 「まあ、レオン。落ち着きなさい」 が宥めるようにレオンに言うと、彼はまだ納得していないようだったが、ひとまずここは落ち着くことにした。 「で、何か分かったの?」 <ええ。たった今、バルセロナの“ジプシークイーン”から連絡が入ったんです!> 「カーヤから?」 <はい! シスター・ノエルの遺体の回収が終了したそうなのですが……> 「何か問題でも発生したのか?」 トレスが静かにファイルを閉じると、ケイトが取り出した1枚の紙を見下ろした。それはローマにある、あのサン・ピエトロ大聖堂だった。 <ここ、よく見てください? 何か変だと思いませんか? この広場の真ん中……> 「ここって、お前……、うん? 何だ、こりゃ?」 「確認する、“アイアンメイデン”。これは確かにバルセロナにあったものだな?」 <はい!> 「だとしたら――」 『……被疑者はあの男だ、Axの者達よ。カテリーナ・スフォルツァ、ならび“クルースニク02”は罠にはめられた』 今まで黙っていたプログラム「スクラクト」が口を開くと、一斉に彼の声に集中した。 『そして、汝に言わなくてはいけないことがある、わが主よ。すぐには飲み込めないとは思うが、我は事実だけを汝に告げる』 「……どういうことなの、それ?」 の顔が、一気に曇っていく。プログラム「スクラクト」がこのような発言をした時というのは、大抵大事に決まっている。自然と鼓動が早くなるのを感じていた。
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ケイト、説教の巻です(違)。
そしてレオン、君の胸毛、相当嫌われてるよ(笑)。
次回はついに、反撃です。
どうなることか……。
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