同じ服装でも行こうとも考えたが、今の状況ではあまりにも危険すぎると推測し、自室で服を着替えたは、
 “剣の館”の前に止めていた自動二輪車に飛び乗り、法王宮に向かって走り出した。



 白の長袖Tシャツの上に黒のハイネックのロングコートを羽織り、
 先ほどと同じ黒のパンツに黒のブーツというスタイルな彼女を、周りの男達は凝視しながら見つめていた。
 途中、厄介な連中が後ろをついて来ていたようだが、猛スピードで飛ばしていたため、
 誰も彼女の早さについていける者がいなくなっていった。



 法王宮はもちろん厳戒態勢だったが、今の彼女にはそんなことはどうでもよかった。
 右側に仕込んであった銃を
短機関銃装備(マシンガンモード)にして、門の前にいる特警の肩や足を撃ち抜き、中へと入っていく。
 何とかして発見して、目的を聞かなくては……。



 目的の人物が滞在しているベルヴェデーレ宮殿の近くに自動二輪車を止めようとしたが、
 バックヤードのあたりから黒の1台の自動車が走り出したのを目撃し、すぐにそちらへ方向を変える。
 もしかしたら、中にいるのかもしれない。



 自動二輪車をひたすら走らせ、自動車の横に自分のバイクを寄せようとした。
 しかしそんな彼女の目の前から、いくつかの銃弾が飛んで来たのだ。




(どうやら、事の真相は本当みたいね)




 軽く舌打ちして、再び右手に銃を持つ。銃弾を避けながら、撃ってくる相手の腕を撃ち抜く。
 相手は痛みを訴えるように悲鳴を上げながら銃を落とし、そのまま車内に戻っていく。



 右手に銃を持ったまま、彼女は自動車の横まで詰め寄る。
 アルフォンソがいると思われる席の真横につけると、彼女はそのまま、そこに銃を向けた。



 窓がゆっくりと開き、そこからアルフォンソの顔が覗かれる。
 どうやら、少々焦っているようだ。




「どうして、攻撃をするのかね、殿?」

「最初に攻撃したのは、そちらからではありませんか、アルフォンソ様?」

「ふん……、まだ私に向かって、その口調で対応してくれるのかね、君は?」

「まだちゃんとした真相、分かっていませんですから」




 事実、プログラム「スクラクト」から、すべての内容は聞いてはいた。
 しかし出来ることなら、本人から直接聞きたいという気持ちもあり、はわざとしらない不利をしていたのだった。




「なら、話そうではないか。……私はこれから、ケルンに“真教皇庁(ノイエ・ヴァチカーン)”という新しい国家を立てる予定で
いる。そのためには、ここをつぶさなくてはならない」

「だからアイツらと……、“薔薇十字騎士団(ローゼンクロイツ・オルデン)”と手を組んだのですか!?」

「その通りだ。いいか、殿……、いや、シスター・。確かに5年前、君のあの一声で、私は教皇になることが
出来なかった。君には本当、頭に来ている。だが、私も君に対して、あることを仕掛けていた」

「あること? それは何です?」




 銃を握り締める力が、自然と強くなっていく。
 まるで、次の言葉を待つように。




「15年前、君が助けた吸血鬼がいた。確か……、アリア、と申していたか?」

「……あなた、まさか……!」

「そうだ。あの日、本当は人間どもが殺したはずの死体の首元に2つの穴をあけ、血痕のように見せかけるように
指令を出したのは、この私だ」




 15年前、彼女が初めてキエフ候アスタローシェ・アスランと、
 その相棒レン・ヤーノジュと共に解決した事件の発端を作った人物。
 それがここにいるアルフォンソだったとは。
 は信じられないような顔で、アルフォンソの顔を見つめていた。




「あの屋敷にいた者達に、私が犯した不正を知れてしまってね。どうしても抹殺しなくてはいけなかったのだが、
普通に抹殺するにしてはつまらなすぎる。だから殺し屋どもに、いかにも吸血鬼にやられたような痕跡を残すよう
に頼んだのだよ」

「それじゃ、アリアは……」

「たまたま通りかかっていた吸血鬼だったわけさ。銀の弾丸で倒そうとも思ったが、その場にあった銃でも簡単に
動きは止められた。あとはそのまま、濡れ衣を着せたまでのことだ。捕まえた後、おもいっきり鞭で打ちつけるよ
うに言い伝えたのも私だ。あれは、なかなかいい光景だったよ」




 の体が、かすかに震えていた。
 信じられない想いと、改めて聞く真相の恐ろしさと裏切り、そしてそのことを見逃し続けていた怒りとともに。




「……許さない……」




 静かに、しかし底から燃えがらる怒りが、の周りを包み上げていく。




「絶対に、絶対に……、許さない……」




 頬につたる涙が、かすかにだが光り、そしてその目は、鋭く相手を睨みつけていた。






「あなただけは……、あなただけは、
絶対に許さない!!






 車内に向かって引き金を引こうとしたその時だった。



 目の前から何かが、の方向へ向かって飛んで来て、近づくにつれ、その形が具体化していった。




「……ヤバイ!」




 は銃を下ろし、そのまま右に避けると、飛んで来たものは、後ろに丁度あった木に、見事にぶっ刺さった。



 再び前を向くと、地面が真っ黒に染まり、そこから何やら、大きな体をした者が現れる。
 一瞬、人間かとも思われたが、そこから発しられた声は、
短生種(テラン)の持つ声とは違う物だった。




(こいつら、一体何者!?)




 はアルフォンソを乗せる自動車を再び追おうとしたが、その場の地面が再び黒く染まり、
 あの大きな体をした者が現れ、道を塞がれてしまい、
 彼女は思わず、自動二輪車のブレーキをかけた。




「ここで、永遠のお別れだ。今までいろいろと、楽しかったよ。君の心使い、深く感謝する。……さらばだ、
シスター・殿」




 どこからともなく聞こえる声に、は耳も傾けず、目の前にいる敵を凝視する。
 いや、正確には傾けていたが、聞こえない不利をしていた。



 何も考えず、彼女は自分の腕に銃を突きつけ、1発打ち込んだ。
 手に響く痛みに声も出せないまま、自動二輪車から身を降ろす。



 許せない。
 絶対に許せない。
 「彼女」を痛めつけ、苦しめ、自殺にまで追い込ませた奴を許すわけにはいかない。






 絶対に……、絶対に……、許さない……!






〔ナノマシン“フローリスト” 10パーセント限定起動――承認!〕






 白いオーラに包まれ、髪を縛っていたリボンが自然と解ける。

  赤く光る目がゆっくりと開き、目の前にいる敵を鋭く見つめ、そして前へ進み出す



 敵は手にしていた大きな斧をに向かって振り下ろすと、彼女は身軽に飛び上がり、
 右手から1つの大剣を取り出し、線を描くように振り下ろした。
 敵は真っ二つに分かれ、そのまま地面に倒れると、は残りの敵にも、同じようにいくつもの線を描いていった。
 ある者は四肢になったり、あるものは首だけが跳ねられたり、ある者はマネキン以上にバラバラにされたり。
 そしてそれらを倒す姿は、まさに華麗という言葉が似合うぐらい、鮮やかなものだった。



 5分もかからなかったであろうか。無数にいたはずの敵が、すべてバラバラになっている。
 もうどれがどのパーツなのか、分からないぐらいだ。



 大剣がゆっくりと消え、ゆっくりと目を閉じる。
 腕の傷は知らない間になくなっているどころか、服に銃弾の跡すらなかった。



 ゆっくり目を開けた時、彼女の目からは先ほどまでの鋭さがなくなり、少し落ち着いたかのようにも見える。
 地面に落ちていたリボンを持ち上げ、ホコリを丁寧に取ると、手をそっと掲げる。
 掌からオーラが流れ出し、リボンに染み込んでいた血痕をゆっくりとなくしていき、新品同然まで戻してしまう。




(……早く、何とかして、あいつを止めないと……)




 リボンで髪を縛りなおすと、イヤーカフスを弾き、レオンにコンタクトを取ろうと試みる。




「神父レオン、聞こえてますか?」

『ああ、聞こえているぜ? ……その様子だと、お怒りは冷めたようだな』

「とりあえずはね。今日は逃がしたけど」

『そりゃ、怖いこった』

「で、そっちの状況はどうなの? 今、どこにいるの?」

『本部に向かう途中の大通りだ。きっとアベルを乗せた装甲車が通るのは、この道しかないと思うからな』

「分かった。私も今から、そっちに合流するわ。近くにトレスがいるなら、そう伝えて」

『了解。……それよりお前、大丈夫か?』

「何が?」

『何がって、その……』




 レオンの声が篭ったように聞こえ、はレオンが何を言いたいのか分かって、かすかに微笑んだ。
 こういうことになると素直に言い出せないのだから、少しかわいいとか思ってしまう。




「……ありがとう、レオン。もう、大丈夫だから、心配しないで」

……、……分かった。じゃ、早く来いよ』

「了解! ――以上、通信終了(アウト)




 は再びイヤーカフスを弾くと、この戦闘の中で耐え抜いた自動二輪車に乗り込み、再び走り出した。






 その姿は、何かを誓ったようで、いつもよりも大きく見えた。

















が持つフローリストは、普段から5パーセントです。
なので、10パーセントという中途半端な力を出すことが可能なのです。
まあ、あまり使いませんけどね。

アルフォンソ、本当に嫌いです。
本当に腹が立ってきます。
クレア、次に会った時は思いっきり痛い目に合わせなさい(笑)。

そして、ここで触れた事件については、またもや過去編にて(汗)。





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