聖家族贖罪教会(サグラダファミリア・カテドラル)の中に入り、エレベーターで頂上まで上がる。ドアがゆっくり上がり、目の前に膝まついている男を発見し、立ち尽くしてしまう。



 目の前には大きなパイプオルガンが置かれており、誰かが弾くのを待っているようだった。いや、もうすでに弾き終わり、椅子が中にしまわれていた。



 ゆっくりと足を進め、男の方へ向かう。彼の今の表情がどんなのかぐらい、にははっきり分かっている。だから何も言わず、彼の真後ろに立った。




「……俺は、また守れなかった」




 男の声が、静かに響き渡る。その声に、は耳を傾けているだけだった。




「また大切な人を、失ってしまった……」

「アベル……」




2人の声だけが響く空間を、いつから灯っているのか、ロウソクが静かに揺れている。まるで誰かを、敬うかのように。




「俺はまた何も……、何も出来なかった……!」




 自分を攻め続けるアベルを見るに耐えなくなり、は彼の正面に周り、自分も膝をつき、強く抱きしめる。まるで、何かを訴えるかのように。




「もう、やめて……」




 抱きしめながら言う彼女の声は、もうすでに泣き声だった。




「自分だけを攻めるの、やめなさいよ……」




 アベルだけじゃない。自分もこの惨劇を見逃し、彼と同じように大切にしていた人を失った。休暇中の自分を気遣って、何1つ任務のことを告げず、終わったら3人で、楽しく休暇をすごすはずだった。どんなに重要な任務なのも知らずに、自分は……。




「みんな、みんな、自分を攻めたくて仕方がない。あのビルの中でなくなった人達の身内の人も、職場の同僚の人達も、消防署の人達も、みんな、みんな悔やんでいる。そして……、私もノエルを助けられなくて、おもいっきり悔やんでいる」




 アベルを抱きしめている腕が、小刻みに震えている。怒りなのか。それとも、恐怖なのか。




「ノエルには助けてもらいっぱなしだったのに、いざという時に何も出来なかった自分に腹が立って、仕方ないのよ……!」




 次第に声が強くなり、それと同時に、アベルを強く抱きしめる。まるで、自分の怒りを、彼に打ち明けるかのように、強く、強く。




「……お前は、何も悪くない」




 そんなを、そっと抱きしめながら、アベルは静かに、彼女を慰めるかのように話し始める。




「お前は、悪くない。俺がもっと早く気づけば、こんなことにならなかった。もっと早く気づいて、もっと早く助け出せれば、それでよかったんだ」

「違うわ、アベル。それは違う……」

「全部、俺が、いけなかったんだ……」




 アベルの悪い癖なんて、もうすでにお見通しだ。そうやってすぐ、すべて自分のせいにしてしまう。それだから、すぐに爆発してしまうのだ。



 しかし本当は、アベルの心を救おうと思っていたも、自然と自分を攻めてしまい、修整が効かない自体になってしまった。それでもいいから、今はとにかく、このままでいた方がいいと思い、何も言わず抱きしめていた。






 何も音は聞こえないはずなのに、2人の心の中には、静かにミサの音が奏でられていたのだった。

















<神父トレスから報告が入っております―――“ソードダンサー”の拘束に失敗したと>




 窓の側に立っていたカテリーナに、ケイトはブリュッセルから先ほど入ったトレスの報告を伝えていた。




<トレスさんは、引き続き追跡続行の許可を求めてらっしゃいますけど……、いかがいたしましょう、カテリーナ様?>




 先ほど、バルセロナで休暇中のが、アベルの代わりに送った報告書から目を上げず、カテリーナはケイトに言った。




「追跡は一時中断させて、神父トレスをただちにローマに帰還させなさい。今は“ソードダンサー”の処遇に割いている時間はありません。……バロセロナで重大な問題が起こりました」

<バロセロナで? まさか、アベルさん達に何かありまして?>

「昨夜、バロセロナ全市が壊滅しました。……その被害にシスター・ノエルが巻き込まれ、死亡したそうです」

<な、何ですって!?>




 ケイトは絶句して、心の中で疑問を投げかけた。



 “全市が壊滅”とは何だ!? 一体、ノエルの身に何があったのか!? アベルと、休暇中のは!?




「とりあえず今、シスター・が代わりに調査を続行して、神父アベルをこちらに戻しているところだそうです。シスター・ケイト、貴方はすぐ彼女からバルセロナの状況を確認して。私は今から枢機卿会議に報告してきます。……そう、“ジプシークイーン”が確か、セビリアにいたはずね? 彼女を現地に至急向かわせ、シスター・と交代し、彼女をローマに戻しなさい。彼女には、ローマで別の任務があります」

<別の、任務?>

「そうです。そのために、早急にこちらへ戻るように、“ジプシークイーン”から伝えるように言ってください。それと、“ダンディライオン”を檻から出す手続きを」

<あ、あの、カテリーナ様! それで、ユーグさんについてはいかがしましょう? トレスさんを呼び戻すんでしたら、別に誰か、職員を――>

「その必要はありません」




 ケイトの質問に、カテリーナは静かに首を振り、穏やかに、しかし決黙と告げた。




「ユーグ・ド・ヴァトーの僧籍を本日付で剥奪します。彼は――切り捨てます」

















はアベルが1人で抱え込む姿を見るのが嫌な人です。
自分もよく1人で抱えるくせに、です(汗)。
なので、ああいった行動に出るのも当然だったのかもしれません。

そしてユーグ、見捨てられる(違)。
今回、なぜか、ユーグがメインの話なのに、ユーグに触れていないのが申し訳ないです。
本当、申し訳ない。許してユーグ(汗)。





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