「休暇中なのに、大変な事件に巻き込んでしまって、ごめんなさい。その上、“ジプシークイーン”が来るまで、任務までさせてしまって」




 ローマに戻るなり、すぐ執務室を訪れると、執務卓にいるカテリーナが申し訳なさそうに謝っている。声は少し嗄れていて、毎日の会議のことがあってか、彼女は一睡もしていない。それなのに謝られては、こちらとしても何もいうことが出来ない。




「そんなこと、おっしゃらないで下さい。私は、大丈夫ですから」




 近くにケイトがいることもあり、つい言葉が畏まってしまう。普段だったらもっと、柔らかくして言えるのにと、思わずそう考えてしまう。



 ケイトは10年前から一緒にいる仲間だった。しかし、カテリーナが枢機卿になり、とケイトが彼女の部下にあたる存在になってからは、お互いに昔のように呼ぶのを止めていた。ケイトは昔から慣れているからまだしも、にはそれがたまに堪える時があった。




「バルセロナの件、先ほどケイトから聞きました。この結果、私には納得いきません」

「でも、枢機卿会議ではそう結論が出たわ。それが教皇庁の公式見解です。……馬鹿な年寄りどもが! あいつらは何も分かっちゃいない!」




 執務卓に激しく拳を振り降ろす姿は、長年彼女のそばにいたでさえも驚かされる行動だった。それほど彼女は、“騎士団”のことを恨んでいた。




「“騎士団”は信じられないほど狡賢い。いつも舞台で踊っているのはただの操り人形だ。人形使いどもは絶対に表に現れない。……しかも、観客はあの馬鹿どもときた! 10年前と同じだ!」

<猊下……>




 カテリーナの言葉に、は10年前のことを思い出していた。



 あの時、幼いカテリーナと一緒に、相手から逃れるように走り回っていた。“あの姿”になることを拒み続けていた彼女にとって、それはまさに試練だった。切り抜けられない抜け道を、どうやって切り抜けるかで、頭を模索していた。



 そして見えたのは……、昔、自分が信じて止まなかった人物だったのだ。




「シスター・ケイト」

<あ、は、はい!>

「バロセロナの状況は? シスター・ノエルの遺体は回収出来ましたか?」

「7割がたは。ただ、これ以上は遺体の損傷が激しいために、その……、まだ時間がかかると>

「急がせなさい。彼女が最後に何を発見したか、確かめねばなりません」

<かしこまりました。現場に申し伝えます>




 ケイトの立体映像が消えると、カテリーナは立ち上がり、少しふらつきながら、窓枠に体をもたれさせた。その姿は、本当に弱々しくて、思わず支えたくなりそうなぐらいだった。




「カテリーナ……、あなた、本当に大丈夫なの?」

「ええ……。……私なんかより、貴方やアベルの方が、もっと辛いはずよ。だから、大丈夫。心配することじゃないわ」

「私のことも、心配しなくていいわ。……彼女が、ちゃんとついているから」




 僧衣のポケットから、1つの緑色に光るものを取り出す。バロセロナで、が発見した片割れのイヤリングだ。あの日から、彼女は肩身離さず持ち歩いていたのだ。まるで、お守りにでもするかのように。






(ノエル……。あなたが残したものは、絶対に大事にするわ)




イヤリングを思いっきり握り締め、そう心の中で誓ったのだった。

















ここで、ようやく終わりです。
長かった(汗)。
そして本当に、ユーグが出なかったです。
ユーグファンの方、本当にごめんなさい(大滝汗)!!!
これは過去編で挽回するから見逃して下さい(汗)。





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