「……ユーグが戻って来ない?」 <ええ。報告書は郵送で送られて来たのですが、そこからローマに戻った形跡がないのです> 数日後、ミラノにてトレスのプログラム修整をしに来たに、プログラム「ザイン」経由で、ケイトから連絡が入った。それはまさに、の予想を的中させるものとなった。 「何となく予想はしていたけど、やっぱりね」 <何か気がかりがあったのですか?> 「ユーグのご両親と妹さん、あの吸血鬼集団、“四伯爵”に殺されて、本人も両腕を切られて、 <そう、でしたか……> 今回の任務がどんな内容かまで、はしっかり把握していない。 <一応、ワーズワース教授には、早くトレス神父に修理を終わらせ、ユーグ神父を追うように要請はしていますが、 「そうらしいわね。昨日もお詫びの連絡と一緒に、たくさん愚痴をこぼしていたわ。これじゃまだ、当分無理そうね」 “教授”も毎日、大変な人だ。授業がよく休講な上、単位も甘い彼の授業は人気で、 「仕方がない。私がある程度プログラムを修正して、トレスにロードしておくわ。感染ウイルスもなかったし、 <ありがとうございます、さん。本当なら、休暇のはずですのに> 「緊急事態に、すぐに動けないような派遣執行官じゃ困るわ。私のことは心配しないで。たまに気晴らしも、 <そうですわね。さんなら、気晴らしぐらいはすぐに出来そうですものね> 「そういうこと。それじゃ、スフォルツァ猊下によろしく。“教授”が来たら、入れ替わりで一度そっちに戻るから、 <了解しました。さんも、無理はほどほどにお願いしますね> 「ありがと、ケイト。それじゃ、またね。―――プログラム〔ザイン〕を完全終了……、クリア」 はデータを打ち込みなおし、画面からケイトの姿が消え、トレスのプログラムデータ画面に戻った。 1つため息をつき、天井を眺める。そして重く悩んだように、ユーグのことを考え始めた。 あの時、彼の代わりに自分が受けていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。 「……約束、破ってどうするのよ、ユーグ……」 「卿は何を考えている、シスター・?」 「うわっ!!!」 目の前に急に現れた顔に、は思わず体制を崩し、椅子から落ちそうになった。 「ト、トレス! 突然、やって来ないでよ! ビックリするじゃない!!」 「3時から修整プログラムをダウンロードすると、39時間前に言ったのは卿だ。 「だったら、ノックぐらいしなさいよ、もう」 「ドアは開けっ放しになっていたから、そのまま入った」 確かに、何か緊急の用があった場合にすぐ出れるように、ドアは開けっ放しにしていた。 「ま、確かに約束は約束だものね。プログラムも無事修正したし、とっととやりましょう。義手の様子はどう?」 「否定。少しは慣れたが、まだ完璧に動かすことが出来ない。早急に“教授”にミラノ入りしてもらうこと 「そうね。私も出来る限り、彼に頼んでみるわ。はい、ここに座って、これ、首に刺して」 「了解した」 は電脳情報機から伸びたコードの先をトレスに渡すと、 「普通に会話は可能だから、少し楽にしてなさいね」 「了解した」 キーボードを叩きながら、トレスへ修整プログラムをロードする準備を始める。 「卿は昔から、“神のプログラム”を使いこなせると聞いている。どうしてだ?」 「ま、いろいろ事情があったのよ。それは、今はまだ言えないけどね」 「何か、大きな接触とかあったのか?」 「別に。生まれたら、すでにそういう環境だったのよ」 細かなことは言えないが、が物心ついた時には、すでに周りは機械だらけだった。 「ナイトロード神父とは、どういう関係だ?」 「私が機械生活から脱出して、預けてもらっている人のお友達だったの。それで知り合って、今日に至るってわけよ。 「同じ派遣執行官のデータを知っていなければ、今後の任務に支障をもたらす場合がある。そのためにも、 「ああ、なるほど。そういうことね」 は納得したように言うと、リターンキーを押して、画面に「修整プログラムロード開始」という表記を出した。 「シスター・。卿はさっき、『約束を破った』と言っていた。一体、どういう意味だ?」 「ああ、それね。ユーグがアムステルダムでの任務を終えてから、ローマに戻って来てないのよ。 「ユーグ・ド・ヴァトー神父の家族は昔、“四伯爵”という集団に殺されたと聞く。それと今回の事件と、 「私にもよく分からないけど、どうやら敵が、その関係者だったらしいのよ。で、トレスはこの修整が終わったら、 は普段、“教授”のことを、彼の出身であるアルビオンの相性を使って「ウィル」と呼んでいる。 「……トレス、1つ聞いていいかしら」 「何だ?」 「貴方、スフォルツァ猊下のおっしゃっていることが、いつも正しいと思ってる?」 「卿の発言意図が不明だ。再入力を」 「猊下が命じたことが、本当は正しくないんじゃないかって感じたことはあるかってこと」 「俺のトップオーダーは、いつもミラノ公だ。それ以外の任務は受けない」 「……本当、貴方は彼女に忠実なのね、トレス」 1つため息をついて、は呆れたようにトレスを見る。 先日のヴェネツィアの件で、トレスはアストが自分の命令に拒んだ場合、射殺すると言った。 「すべての吸血鬼が、皆悪いのではない」ということを……。 「……トレス、私、猊下が言っていることが、いつも正しいと思えないことがあるの」 「それはなぜだ?」 「確かに、言っていることは間違ってはいないし、やっていることも正しいと思う。私もそれに賛同して、 「あれはミラノ公が、俺に伝えたことだ。ミラノ公自体は何も言わなかったが、どうすればいいのかは 「それを植え付けたのは、彼女でしょ? それが気に食わないのよ」 「……卿は何が言いたい、シスター・?」 トレスの目が、無表情ながらにかすかに睨みつけているのを感じる。 「……今後、彼女の判断が間違う時が来るかもしれない。もしそうなったら、彼女は自分の地位を失い……、 「卿の発言は意味不明だ。再入力を……」 トレスが聞き返そうとした時、電脳情報機が「修整データ、ロード完了」の画面を表示して、 「彼女は……、自分のためだったら、何かを犠牲にしても構わないのかもしれない。それが例え、 『わが主よ、声が聞こえるか?』 の言葉を拒むように、電脳情報機から声が聞こえる。 「聞こえているわ、ザグリー。どうしたの?」 『“プロフェッサー”から、通信が入っている。通していいか?』 「勿論よ。お願い」 『了解。―――交信開始、送信者、教皇庁国務聖特務分室派遣執行官“プロフェッサー”、 プログラム「ザイン」が交信を開始すると、電脳情報機の画面に“教授”の顔が浮かび上がる。 「その様子だと、終わったようね、ウィル。思ったより早くでよかった」 『ああ。これでようやく、本来の任務に取り掛かれそうだよ。そちらの方がどうかね?』 「今、ちょうど修整プログラムをロードしたところよ。特に感染した様子も見られなかったから、 『分かった。本当、迷惑をかけたね、君』 「どういたしまして。私は貴方がこっちに到着し次第、入れ替わりでローマに戻って、今回のことを猊下に 『了解。それじゃ、細かいことは後ほど』 「OK。―――プログラム〔ザイン〕を完全終了……、クリア」 はプログラム「ザイン」を終了させると、電脳情報機の画面を元に戻し、そのまま電源を切った。 トレスの方を見ると、さっきのの発言の意味がまだ掴めてないらしく、少し困惑そうな顔をしている。 「ま、私が言ったことはあくまでも仮説だから、気にすることはないわ。そのまま削除しちゃっても構わないし。 「……了解した。……シスター・」 「ん?」 「卿がこのような発言をしたのは、俺やナイトロード神父と出会う前からミラノ公と接触していたからか?」 トレスの発言に、は動きを止め、トレスを見つめる。 「……誰からそのことを聞いたの、トレス?」 「ミラノ公本人が、以前、卿が前聖下の命令で、護衛をしていたと言った」 「全く、あの人は何でも、他人に話すんだから……」 カテリーナは、何でも自分が隠すことじゃないと思えば、誰にでも話してしまうことがある。 「確かに、私とスフォルツァ猊下……、カテリーナとは、アベルに会う前から知っている。けど当時の彼女は、 あの時、「騎士団」の手によって、彼女の両親が殺されてなければ、こんなことを考えることなく、 「それがあるから、私は彼女がAxを作ることを賛同して、入ることを決めた。早く彼女の望む生活が、 トレスの肩から手を離し、電脳情報機を持って、開けっ放しのドアに向かって歩き始める。 「卿は今後、Axを離れようと考えているのか、シスター・?」 「今のところは……、考えられないわね。ま、分からないけど。そうしなきゃいけなくなったら、 振り返り、トレスに優しく微笑む。その顔は、トレスにはどう移っているのだろうか? 「今の私は……、敵に回すと厄介な人が約1名いるから、離れたくないっていうのが事実かしらね」 「……了解した」 の言っている意味が分かったのか、トレスは1つだけ返事をすると、
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別名「トレスvs」です(笑)。
この2人の会話は書いてて楽しいです。
お互いに一歩も譲りませんからね。
周りが見たら、どう思うでしょうか。
にとって、カテリーナの発言が全てだと思うトレスが間違ってると思うのは、
分からなくもないんですけどね。
それよりも、本当にユーグの出番がなくてごめんなさいごめんなさいごめんなさい(大滝汗)!!!
(ブラウザバック推奨)