「ええっと、じゃ、まず、名前と年からどうぞ」

「エリス・ワズマイヤー。花の17歳」

「じゅうなな、と……、あれ? 昨日うかがった時は、確か18っておっしゃってませんでしたか?」

「女の年齢は微妙なの♪」

「…………あのねえ、エリスさん、お願いですから、もっと真面目に答えていただけませんかね?」

「だって、退屈なんだもん」




 10日前に救出した少女を保護している修道院にて、アベルが報告書作成のために、エリスに質問をしていた。
 が、相手はなかなか本当のことを話さないでいた。




(身内を知られたくない事情があるのか、それとも、ただ周りが信じられないだけなのか……)




 トリスタン号事件の資料を読み返しながら、がふとそう思う。
 身内の事情を言いたくないのは仕方がないが、周りが信じられないからというのはちょっと困る。
 自分のためにいいと思ってやっていることならちょっと分かるが、
 それでも結果的には自分が一番苦しむことを、は十分承知していた。




(……ま、私も人のこと言えないけど、ね)




 はフッと笑って、必死に質問しているアベルを見た。
 そして、彼が話している内容に反応して、彼の方へ向かって歩き出した。




「聞いて下さいよ、うちの上司、すっげえ怖いんです。この前、報告書の提出が遅れた時なんか、
爪研ぎながら、“最近、忙しいの?”とか妙に優しい声でおっしゃいまして。あのときは、私、
目玉でもえぐられるんじゃないかと…………、ぐおっ!」

「仕事の愚痴をこぼす暇があったら、とっとと報告書を仕上げなさい、このおサボり神父っ!!」

「うごっ!」




 アベルの頭を、資料のファイルでおもいっきり叩くと、アベルは頭を抱え、その場に蹲った。




「痛いじゃないですか、さん! 酷いですよ!!」

「これが酷い? 任務忘れて、自分のことばかり話すアベルがいけないんでしょうに」

「だって、話してくれないんだから、仕方がないじゃないですか!」

「……分かった分かった! そこまで言うんだったら、協力してもいいわ」




 アベルとの突っ込みトークを聞いていたエリスが、少し呆れたように言ったので、
 2人とも口論をやめ、エリスに注目した。




「本当に真面目に答えてくれるのね?」

「本当よ。けど……、代わりに、何か奢ってよ」

「奢り? まだ外にはお出し出来ませんよ」

「じゃあ、何か買ってきて。そしたら、ちゃんと答えてあげる。もーここの飯、すっごくまずいんだもん。
たまには人間の食べ物が食べたいわ」

「……いいでしょう。何がよろしいですか? 何でも遠慮なくおっしゃって下さい」

「ガトーショコラとマロングラッセがいい」

「了解。ガトーショコラとマロングラッセ……、……メロンパンとコッペパンでもいいですか?」




 財布を見ながら、真剣な眼差しで言うアベルに、エリスは枕を投げつけて、天を仰ぎ、
 は呆れたように相手を見つめる。




「……お金、貸してあげるわよ、アベル」

「え、いや、それはいけません! もらえるのであれば、喜んでもらいますが、
借りたら返さないといけませんから……」

「どんな理由なのよ、それ……」

「まぁ、仕方ないから、それでいいわ。買って来て」

「あ、OKなんですね? では、早速……、おごっ!」




 ドアを開けようとして取っ手をつた網としたとき、ドアが勢いよく開け放たれたため、
 アベルは顔面をおもいっきり直撃し、その場に蹲った。




「だ、大丈夫、アベル?」

「ううっ、主よ、顔が痛いです……。やあ、トレス君」

「……何をしている、ナイトロード神父?」

「外に出ようとして、ドアを開けようとしたら、若干トレスの方が早くて、ドアに顔面衝突したのよ。
もう少し、落ち着いて開けたらどうなの?」

「無用だ。時間がない」




 手に持っていた資料をベッドに放り投げるトレスを見ながら、
 はアベルに近づき、その場にしゃがみ込んだ。




「とりあえず、これでおさえて、血を止めて。……あとで治すから」

「あ、ありがとうございます、さん……」




 には、自分の体にある「力」により、治癒能力を備えていた。
 ここで使ってもいいのだが、何も知らないエリスの前で使うわけにはいかない。
 ひとまず、止血だけして、あとで2人きりになったらやろうという意味で、
 彼にティッシュを手渡したのだった。




「シスター・ケイトから連絡があった。娘の引取先が決まった。ここを引き払う手配をしておけ」

「え……、彼女、引取先が決まったんですか?」




 鼻腔にティッシュを詰めていたアベルが、トレスの顔を見ながら言う。
 相手は吸血鬼にさらわれた身だ。一体、どこが承諾したのだろうか。




「ローマの聖ラケル修道院が彼女を引き取る。……シスター・ケイトが個人的に手を回したらしい」

「や、彼女にはまた借りが出来てしまいましたねえ」

「確かに、あそこなら装備は整っているし、スタッフも優秀だから、問題ないわ。私もよくお世話になってるし」

「ああ、さんはよく、お手伝いをしに行っているんでしたよね? ボランティアの一環で、でしたっけ?」

「うん、まぁね」




 ここでは言葉を伏せたが、が聖ラケル修道院に行く理由は、いくつかある。
 確かにボランティアもあるのだが、それ以外にもう1つ。
 それは……、






 彼女の一番大切な人が、その近くで「眠っている」からだ。






「……あ、この町を離れるのは嫌でしたか、エリスさん?」

「別に。どこでも一緒だもん。……で、いつローマに連れてかれるわけ?」

「今夜だ」

「「「今夜ぁっ!?」」」




 トレスを覗いた他の3人が、口を揃えたように言う。あまりの急さに、一同見開いている。




「仕事が早いわ、ケイト。どっかの誰かさんと大違いね」

「ええ、確かに彼女は私と違って手際がよく……って、さ〜ん!!」

「今夜、中央駅まで担当者が迎えに来る。ナイトロード神父、ならびシスター・、卿らが責任持って引き渡せ」

「了解」




 アベルの声を無視し、トレスが淡々とした口調で指示を出す。
 彼は特に気にしていないらしい。




「は、はあ……。あの、トレス君、君は?」

「病院だ。例の身内殺しの吸血鬼が意識を取り戻した。――尋問してくる」

「OK。いってらっしゃい」




 が手を上げて答えると、トレスはびしゃりと扉を閉じる。アベルもそれを見つつ、手を振って見送った。




「……で、あんた達の方は油売ってていいわけ?」

「いやあ、私達の方はさっぱり手詰まりでしてね」

「一応、情報収集してるんだけど、見つからなくてね。全く、いつになったら分かるものか……」




 そんなことを言いつつ、は発見してくれるであろう「彼」に、心の中で鋭い視線を送る。
 いつもならすぐに見つかるはずなのに、今回だけはそうともいかないらしい。



大変なのは分かるけど、少しスピードを上げて欲しいと思っていると、
 腕時計式リストバンドが、何かを知らせるように振動させていた。
 どうやら、見つかったらしい。




「じゃ、時間もないし、さくっと報告書を片付けちゃいますか」

「その前に、奢ってくれる話はどうなったの?」

「それなら、私が代わりに行くわ。アベルはそのまま、報告書を書いて」

「本当ですか? いや〜、助かります〜。この借りは、絶対に返しますね」

「返さなくてもいいわよ。で、ガトーショコラとマロングラッセでいいのね? すぐには持って来れないけど、
この町を離れる前には持って来るから、電車の中で食べてね」

「分かったわ。……さ、神父さん。とっととやっちゃおう」

「はい。まず、貴方の年齢ですが……」




 アベルの質問する声をバックに、はゆっくりと扉を開け、表に出た。
 するとそこに、見覚えのあるものが駐車されていた。




「……誰が用意したのよ、これ……」




 目の前にあるものを見て、の表情が呆れるのと同時に、明るい表情になっていった。
 けど確か、元あったものは、車だったはず……。




「……トレス、使うんだったら、使うって言ってよ……」




 は車を乗って行ったと思われる男に突っ込みながら、そこに用意されたもの
 ――
自動二輪車(モーターサイクル)に跨ぎ、そのまま目的地まで向かったのだった。

















エリスちゃん、好きです。かわいいし。
反抗的な態度が、それ相当の年齢の女の子だなと思います。

そしてアベルとトレスは漫才ですか(違)?
そこに夢主が入って、トリオでデビュー出来ますよ……って、
彼女が反対するからやめておこう(汗)。





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