表には人だかりが出来ていて、はそれをかき割るように入っていくと、そこでアベルが立っていた。
「あの、あなた、彼のお知り合いの方ですか!?」 「あ、はい。ごめんなさい、ご迷惑をおかけして。あとは私が見ますので、ご安心下さい」 「分かりました。どうぞ、お大事に」 アベルの様子を見ていた小太りの駅員にお礼を言うと、周りも少しずつ人が減り、 (もしかして……、昔のこと、思い出してる?) の頭に浮かんだのは、あの時の風景だった。 「アベル、戻って! そんなところに、ずっといないで!!」 思わず涙声になりそうな声で叫んでいることを、自身も気づいていない。 「早く、戻ってきて。アベル……、……アベル!!」 「……え?」 の声に、ようやくアベルが反応する。 「さん……、私……」 「大丈夫。何があったかぐらい……、分かっているから」 額に流れる汗をハンカチで拭きながら、青ざめた顔を見つめる。 「本当に……、さん、ですか?」 「何なら、頬でもつねってみる? 本当にやったら、倍以上の力でつねり返すけどね」 少し捻りをくわえて、はアベルを安心させるように言う。 「ちょ、ちょっと、アベル! 急に何を……」 「……悪い、……」 懐かしいトーンで、懐かしい呼び方で、に話し掛ける。 「少しだけ……、こうさせてくれ」
「……仕方ない。今だけよ」 諦めたように、はそっと、優しくアベルを包み込む。 もし自分があの場にいたら、そして同じようなことが起こったら、自分もこうなっているかもしれない。 しばらく抱きしめていると、はあることを思い出した。 そうだ、エリスが脱走したんだった……。 「……アベル! エリス・ワズマイヤーがどこに行ったのか、探さなくていいの!?」 「……そ、そうだ! エリスさんが!!」 「大丈夫、もう分かっているから。とりあえず、調べるしかないわね。……もう、大丈夫?」 「え、あ、ええ。ありがとうございます、さん。ごめんなさい、急にあんなこと……。借りは、 「そんなの不要よ。私を誰だと思っているの?」 「……そう、でしたね」 すでに、元の口調に戻ったアベルを、は安心したように、ため息を1つついた。 “クルースニク”と“フローリスト”という関係の2人にとって、
「それが、さっぱり。1人で先に、ホームに行ったとも思えませんし」 「そうね……。……仕方ない、手伝ってもらいますか」 は左手につけている、リストバンド式腕時計の文字盤を動かし、 「プログラム『スクラクト』、聞こえていますか?」 『聞こえている、わが主よ。……“クルースニク02”は無事だったか?』 「何とか、大丈夫よ」 「本当、ご迷惑をおかけして、すみませんでした、スクラクトさん」 『汝は、わが主が一番大事にしている者。ならば我も、心配をするのは当たり前のこと。礼は不要だ』 つくづく、主人に忠実なプログラムだが、相手としては当然の行動でしかない。 「で、本題よ。早速なんだけど……」 『エリス・ワズマイヤーは、この先の地下道にいる』 「さすが、スクルー、助かるわ。行くわよ、アベル!」 「はい。本当、スクラクトさん、ありがとうございます!」 アベルはプログラム「スクラクト」に礼を言うと、急いで地下に向かって走り出した。 『気をつけろ、わが主よ』 「え? それって、どういう意味?」 アベルに聞こえないように言うプログラム「スクラクト」の声に、が耳を傾ける。 『“ガンスリンガー”が、エリス・ワズマイヤーを探すため、同じく地下道を捜索中。どうやら、 「トレスが? だとしたら……、……やばいじゃない!!」 次に起こる展開が分かったのか、は焦りながらも、アベルを追って走る。 急いでいかなければ、トレスの思うがままになる。 それだけは、ふせがなくてはならなかった。
「危ない、エリスさん!」 アベルがエリスを横から突き飛ばし、銃声が響く中、柱の影に隠れる。 「ひっ! ひいっ……」 「落ち着いてください! 大丈夫!」 エリスを抱いたアベルが小声で囁く。 「大丈夫、落ち着いて……」 「し、神父さん? シスター?」 エリスの驚いた声がかすかに聞こえた時、は反対側の柱に行き、 「さん!」 「分かってる。ちゃんと避けるから、2人はそのまま走って!」 「でも、さん!」 「いいから、走って!!」 攻撃を止めずにいうに促され、アベルは再び走り出す。恐ろしいほど強力によって柱が倒れる前に、何とかして移動しようとするが、アベルに避けれなかった1つの弾が当たってしまった。 「アベル!」 は叫んだが、相手は何とか無事なようで、エリスを何とか別の柱に潜り込んだ。 「し、神父さん! 神父さん!」 「大丈夫よ、心配しないで……、今はね」 エリスを宥めるようには言うが、すぐに傷を治すことが出来ない自分にもどかしさを感じていた。 奥から聞こえる足跡に、3人は耳を澄ました。 「ば、馬鹿な! 君がなぜ……、なぜ君が……、トレス君!」 「この娘のことを調べた」 やっぱり、知っているようだ。 「先日の酒場の一件――、この娘が、奴らを操って殺し合わせたのだ。異端審問局に問い合わせたところ、 「接触テレパス! さっきのあれはやはり……。彼女に特殊な力があることは認めます。だけど、 「彼女の意思など関係ない。考慮すべきは、その存在自体が危険要素だということだ。あの酒場で 月下の惨劇――。 「そうだとしても、彼女の意思は関係あるわ。彼女はね、ちゃんとした人間なのよ」 「その娘は人間ではない。人の形をした爆弾だ。奴らの手に落ちる前に処分する必要がある。 「……お断りします。約束したんです――私はこの子を助けます」 「こっちも、お断りよ、トレス。あなたの言っていることは、半分正解で半分不正解だわ。確かに、 「……俺とやるつもりか、“クルースニク”、“フローリスト”」 アベルが腰のリボルバーを抜き、も2挺の銃を、しっかり握り直す。 「よかろう。卿らがそこまで言うならやむをえん」 「よかった……、分かってくれたんですね」 「肯定。他に採用するべき手段が存在しないことが判明した。Ax派遣執行官アベル・ナイトロードと 「……やばい!」 「教会法第188条および聖職服務規定違反……アベル・ナイトロード、・キース、お前達を排除する」 「つかまって!」 エリスを抱えたアベルが横飛びした時には、トレスの体が消えていて、 「無駄だ、ナイトロード。お前のスペックでは俺からは逃れられん」 「私からでも、逃れられないと思っていて?」 アベルに集中的に攻撃されている間に、が素早く動き、トレスの後ろに回り、相手に撃ち込もうとした。 「0. 43秒遅い」 「さん!!」 攻撃を仕掛ける前に、トレスが向きを変え、 「さん!」 「大、丈、夫……。これぐらい……」 「大丈夫って、大丈夫っていう状況じゃないですか!」 「私の、ことは、いい……。アベルは……、エリス、ワズマイヤーを……」 「しかし……、……!」 が言いたいことが分かったのか、アベルは彼女に分かるように頷くと、 「終わりだ」 「さて……、それはどうでしょうかね、“ガンスリンガー”」 肩に響く痛みで弱っているせいで、あまり迫力がある声ではないが、 「や、やめて! あなたが殺したいのは、あたしでしょ!? だったら、あたしを……」 「…………」 エリスがの前に来た時、アベルが背後からトレスの右肩に高圧線をあてたのだ。 「エリスさん、さん、逃げて!」 「アベルも、早く!!」 駅までダッシュして戻り、階段を必死になって上りこむと、ロビーでは既に発車ベルが鳴り始めていた。 「ナイトロード神父、これは一体……!?」 「シスター・ルイーズ、この娘をお願いします」 「し、神父さん!」 駆け寄ってきたシスター・ルイーズにエリスを渡すと、後ろからぎこちなく歩くトレスを目撃する。 「あ、あいつ……」 「エリスさん……、行って……、そして、逃げて下さい。ここは、私とシスター・で何とかします」 「で、でも……、どうして……、どうしてなの?」 「え? 何が?」 「どうして、私みたいな化け物のために……」 「こんなかわいらしい化け物、見たことないわよ。ね?」 「そうですよ。自分のことをそんな風に言っちゃダメですよ。あなたは怪物じゃない。だって……」 「行きましょう、エリスちゃん。事情はよく分からないけど、この人達の気持ちを無駄にしないで」 2人の雰囲気を察知してか、シスター・ルイーズがエリスの袖を引いて、客車のステップに足をかけた。 「さよなら……、神父様」 電車はゆっくり動き出し、その姿を、アベルとは、小さくなるまで見つめていた。 「……さん、妬いているんですか?」 「え、あ、馬鹿、そんなわけないじゃない! 何で私が、あんな子供に……!!」 「焦るところからして、怪しいですよ。さんったら、かわいい♪ さて……」 意地悪なのか本音なのか分からないような発言をしたアベルが振り向くと、 (次、絶対覚えておきなさい! 絶対に勝ってやるんだから!!) 腕の痛みも忘れ、そんなことをふと思ってしまう自分を、やっぱり大人気ないと思いつつ、 「次の駅って……、今のは回送車ですけど」 「「へ?」」 アベルとが口をポカーンとしてしまうと、思わず焦ったように見合わせる。 「じゃ、あれって、何だったの!?」 「いや、あれは車庫に入る車両でして……」 「あのぉ、ひょっとして、皆様は国務聖省の方じゃありませんか?」 後ろから声をかけられた人物を見た瞬間、 3人は今起こった自体を、全て把握したのだった。 |
今思うと、夢主がアベルに妬くことはあまりないのですが、
やっぱり好きなんだなと思います。
本人、あまり意識してないと思うんですけどね。
条件反射か(違)?
そろそろ限界が来たので、コメントもこの辺で。
(もうじきAM3:00/爆)
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