「それじゃ、クレアさんのお父さんも、元ウェステル陸軍大佐だったんですね?」

「そう。父は誇り高い人で、私も尊敬しているの」




 数時間立って、最初恥ずかしがっていたリエルはすっかりとクレアに慣れ、

 目を輝かせながらクレアの話に耳を傾けていた。



 一方のキリエは、未だに緊張が取れないのか、

 それとも落ち着いた様子を保っているのか、静かにクレアの話を聞いていたり、

 ルシアと共に飲み物の追加などをしていた。




「でも、シェイン様と同等に見られるのが嫌なんでしょう?」

「当たり前よ。父は父。私は私だもの。同じじゃないわ」

「でも、性格はよく似てますよ。私も昔、よく2人で同時に怒られましたから」




 昔のことを懐かしむかのように言うアベルに、クレアは思わず苦笑してしまい、

 リエルには新たな疑問が生まれたようで、クレアに質問する。




「クレアさんとアベルは、付き合いが長いんですか?」

「ええ。私とアベル、あとカインは幼馴染みなの。だから、昔から仲がいいのよ」

「それが講じて、付き合うようになったのよね」

「ぶっ!」

「ごほっごほっ!!」




 突然のルシアの発言に、

アベルはウィスキーを噴出し、クレアは煙草の煙でむせてしまう。

その状況に、周りがすぐに気づかないわけがなかった。




「何だ、お前ら、そうだったのか。だったら、早く言ってくれればよかったのによ」

「噂は本当だったってわけか」

「軍人同士の恋愛は特に禁止されていない。どうして今まで隠していた? 理由を入力しろ」




 次々に出てくる同僚達の言葉に、アベルもクレアもタジタジになってしまう。

 クレアにいたっては、発端を生んだルシアに鋭い視線を送っている。




「あら、私はとっくに知れ渡っていることだと思ったから言ったんだけど、まだだったのね」

「別に知らせる必要もなかったし、上司が部下と恋愛しているだなんて知ったら、周りがどう思うか……」

「そうですよ、ルシアさん。もしですよ。もし私達がこういう関係で、ウェステルを裏切るような行為をしたら……」

「それはあり得ない」




 アベルの言葉に割り込むように、トレスが冷静に言う。




「キース大佐の信頼度は、皇帝区で高く評価されている。その上、ナイトロード中佐の性格上、我々を裏切る行為に
及ぶ心配はない」

「だから、トレス君。これはあくまでも例え話でして……」

「俺もイクスと同意見だな」




 トレスの意見に賛同するように、トランディスがグラスを手にした手を挙げる。




「考えてみろ。クレアは裏切るとか、そういったことを嫌う人間だ。それにナイトロードの場合、そんなことをして
もすぐにばれるだろう」

「ああ、なるほど。アベル、ドジで阿呆でへっぽこだからな」

「それ、どういう意味ですか、レオンさん!!」




 レオンが納得したように腕を組みながら言い、それにアベルが突っ込む。

 そんな光景を見ながら、クレアは苦笑するしかなかった。




「そんなに知られるのが嫌なら、この話はここだけにしておけばいいことだろう」

「それはいい案ね。これならいいでしょう?」

「もういいわよ、それで」




 投げやりに言いながら、何杯目になるのか分からないグラスを掲げる。

 相変わらず酒豪のようだ。




「でもお2人の組み合わせ、私、好きです!」




 新しいウィスキーを受け取るクレアの見つめるリエルの瞳がキラキラと輝いている。

 まるで、憧れ人を見つめるかのような輝き方だ。




「何だか、とても素敵です! 私、尊敬します!」

「でも、相手はヘッポコで馬鹿で阿呆なのよ。それでもいいの?」

「アベルのいざという時の判断力は、伯父様のお墨付きです。全然問題ありません!」

「あの〜、リエルさんのお言葉は非常に嬉しいのですが……。クレアさん、私を一体何者だと思ってるんですか?」

「何者って、へっぽこで馬鹿で阿呆な中佐で間違ってないでしょう?」

「そんな〜〜〜…………」




 今となれば、この会話も他人から見ればいちゃついているようにしか映っていないだろうと思いながらも、

 ついアベルをからかいたくなるのは今に始まった話ではないため、

 クレア自身、すでに気にしてなくなっていた。




「それじゃあ、まあ、俺達の間では2人は恋人同士として認めてるってことで……」

「仕方ない。そうしましょうか」






 もう諦めたかのように肩を落とすクレアと、未だにいじけているアベルに、

 仲間達はどこか嬉しそうに、ニヤニヤと口元を緩めているのだった(トレスは別だが)。

















 宿舎に戻り、トランディスとレオン、トレスと別れると、

 クレアはアベルと共に、自分の部屋へと戻っていった。




「ところで、アベルの部屋はどこなの?」

「私の部屋は、クレアさんの向かい側です。どうせなら、覗いていきますか?」

「いいえ、いいわ。遠慮しておく」

「……そう、ですか」




 部屋の中が想像出来たからか、クレアはすぐに誘いを断る。

 そして自室へ到着し、扉の前で足を止めた。




「明日はAM7:00頃にそちらへ行きます。なので、それまでには起きていて下さいね」

「それにはもう慣れたから大丈夫よ」

「ですね」




 皇帝区では、毎朝PM6:30には起きていたため、

 指定された時間に呼び出されることはあまり苦だと感じなかったようだ。




「それじゃ、おやすみなさい、クレアさん」

「おやすみ、アベル」




 軽く手を振るクレアに、アベルがそっと微笑む。

 彼女に背を向けて、向かいにある自室へ歩き出した時、

 クレアは何故か落ち着かなかった。



 久々に再会したのに、このまま何も言わず、すぐに部屋に戻るアベルの姿。

 そんな彼の行動が、淋しく感じてしまう自分がいる。

 一度彼の部屋に行くことを断っておきながら、こんなことを思ってしまう自分が、

 どうしようもなく我が侭で許せなくなる。



 そんなクレアの心が通じたのか、自室の前まで行ったアベルの足が止まり大きく振り返る。

 そのままクレアの腕を掴み、彼女の自室の扉を開くと、

 中に入り、勢いよく、しかし周りに聞こえないぐらいの大きさで扉を閉めた。




「ちょっ、アベ……」




 言葉を発しようとしたが、すぐに塞がれてしまう。

 一気に深くなり、力が入らなくなりそうだ。




「……相変わらず隠すのが下手だ、クレア」




 塞がれていた唇がゆっくりと離れ、アベルの手がクレアの頬に触れる。

 その時初めて、自分が涙を流していることに気がついた。




「淋しいのなら……、すぐに言えばいいだろう」

「だって……」

「本当、こういうのには不器用だな」






 涙の跡をなぞるように唇をあて、気持ちを和らげていく。

 そしてすべてを彼にゆだねるように、ゆっくりと瞳を閉じたのだった。

















ルシアが暴露しちゃいました(笑)。
何となく、彼女ならするかなって思ったので。
本人、分かって言ったのか、本当に知らずに言ったのか微妙ですけどね。
そして、悪党になると思われてないアベル、ある意味安心人物です(え)。

最後の方は……、軽く無視して下さい(滝汗)。





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