クレアとアベルは一路軍施設の宿舎へ向かって歩き始めた。
クレアの部屋は、この建物の奥にある1番広い部屋だった。
「執務室と一緒になってる関係上、どうしてもこうなっちゃうんですよ」
双方がそれぞれ同じぐらいの広さを保っていた。 もっと狭いと思っていたクレアとしては、予想外な展開だった。
「そうでしょうか? ヴァーツラフさんの時は何も言いませんでしたが」 「そう? ……なら、別にいいんだけど」
きっとこれがちょうどいいのかもしれない。 クレアはそう思うと、トランクを隣の寝室に置いて、 執務室へ戻って、執務卓に軽く腰掛けた。
1本だけ抜き出す。 だが口に加える前に、アベルによって取り上げられてしまった。
「構いません。でも、今はいけません」 「何よ、それ? 意味がよく分か……」
突然のことに、目を閉じるのを忘れてしまったが、 あまりにも深くて、自然と瞼が下りていく。
アベルもクレアを支えるように腕を回す。 そして、ゆっくりと2人の距離がかすかに離れた。
「この場に及んで、反則も何もないだろう」
この地に来たら、もうこんな風に話してくれないかと思ったからだ。
「何が?」 「話し方が普通になったから、よかったと思って」 「さすがに大人数の前じゃ無理だからな」 「そうだけど」
そんなクレアの髪を、アベルはそっと撫で下ろす。
どうしようもなく甘えん坊なクレアを唯一知っているのは、 誰でもないアベル1人だけだった。 だからこそ、彼はクレアがこの地に来たことを、誰よりも喜んでいた。
「……ああ」
よく考えてみれば、最後に会った日から3ヶ月ほど立っていたことを、 アベルはふと思い出した。
こうして支えることが出来る。 そう思うと、アベルは今、自分の胸元にいるクレアを離したくなかった。
「らしいな」 「ま、まだこれからもあるんだし、ね」 「そういうことにしておくか」
どうやら、誰の声なのか分かったらしく、 クレアはすぐに相手を招きいれた。 もちろん、アベルとクレアの体は、もうすでに離れていた。
「それ、どういう意味ですか、レオンさん?」 「まあまあ、そんな顔するなって。……それより、久しぶりだな、クレア。5年ぶりぐらいか?」 「そうね、レオン。無事に大尉としての役割を果たしているようじゃない。噂は聞いているわ」
皇帝区にある軍事学校時代に知り合っていたため、 クレアはとても懐かしく感じた。
「それじゃまるで、私が頼りないみたいじゃないですか」 「現に頼りないだろうが、へっぽこめ」 「へっぽこへっぽこ言わないで下さい!」
クレアは彼の頭の回転のよさに、思わず感心してしまう。 確かにへっぽこなのかもしれないが、いざという時の判断力は鋭いのかもしれない。
「ああ、そうそう。トレス・イクスと言って、まあ少々扱いにくいが、こいつよりも使えるやつだ」 「うんうん、トレス君は私と違って……って、レオンさ〜ん!」 「まあ、そう凹むなって」
クレアは思わず笑ってしまう。 だが信頼しているからこそ、アベルが中佐としての仕事を全うしているはずだから、 彼の言うことは冗談だということにすぐ気がついた。
クレアが中に入るように言うと、そこから登場した人物は彼女に対して、 敬意を表するかのように敬礼をする。
「こちらこそ、よろしくね、イクス大尉」
どうやら、あまりこういう形式が好きではないらしい。
「俺はそういう形を好まない。さらに付け加えるが、今後、俺のことは名前で呼んで欲しい」 「そう? なら、トレスと呼ばせてもらうわ。私のことも名前で呼んでもらって構わないわよ」 「否定。卿は俺の上司にあたる人物だ。よって、卿のことは大佐と呼ばせてもらう」
性格が少々固すぎる。 クレアとしては上下関係とか、堅苦しいものを取っ払いたいところがあったため、 思わず苦笑いしてしまった。
「ああ、トランディスさんなら、もう少し哨戒してから戻るとおっしゃっていましたよ。それが何か?」 「今夜、“セイレーネス”でクレアの歓迎会をすることになっているから、来るかどうか聞こうと思ってな」 「それなら、きっと来ると思いますよ。トランディスさんが、そういうの欠席するとも思えませんし」 「肯定。ハザヴェルド将校の本日のスケジュールはすべて終了している。よって、彼が出席しない確率は0.01パ
それは、レオンが発した店の名前だった。
確か、彼女の友人が開いていた店もそんな名前だったはず。 さらに言えば、先ほど駅で助けた双子から貰った紙にも、 この店の名前が書かれてあった。
「あと1時間もすれば開くだろう。ショー自体はもっと遅いがな」 「キース大佐、その間にこの宿舎を案内する」 「それじゃあ私は、トランディスさんを探してきます」 「俺も手伝うぜ、アベル。お前1人じゃ、頼りないからな」 「頼りない頼りない言わないで下さい!」
そんな後ろ姿を見つめながら、クレアは小さくため息をついた。
「何か言ったか、キース大佐?」 「いいえ、何も。じゃ、他の施設を案内して」 「肯定」
クレアはかすかに笑いながら、執務室を出て行ったのだった。 |
アベル、俺様全開です(自爆)。
これから、クレアと2人きりの時は毎回こんな感じになります。
あ、いちゃついている、という意味じゃなくです(分かってるってば)。
レオンとは、本文の通り、軍事学校で一緒だったのでよく知ってます。
トレスはこの時が初対面ですが、情報としてはちゃんと入手してあります。
まあ、クレアのことですから、ここまで来る間に全員分把握しているのでしょうがね(それもすごい)。
これで、軍側のメインキャストは揃いました。
まだ2人ほど出てきてませんが、それは私もまだ書いてないので(汗)。
(ブラウザバック推奨)