少し涼しいかと思ったが、自分を抱きしめてくれる体温のお蔭で、 キリエは寒く感じなかった。
まるで、理由を述べろと言っているようだ。
「キース大佐は何事にも平等に扱う人物だと聞いている。よって、卿にも同じように接したのだと推察される」
普通なら出来ないその壁を取り払うことが出来る人物はクレアしかいない。 トレスもたった数時間の間で、それを確信したのかもしれない。
その集団の1つが動き出したという情報を手にしたクレアは、 数人の部下を携え、相手基地に乗り込んだのだ。 正確に言えば、部下は終始、当時皇帝区大佐だったカインに報告しているだけで、 集団の半分以上はクレアが殲滅させたのだと言われていた。
「それで、今回の派遣が決まったの?」 「肯定」
そのこともあり、クレアに対する思い入れは大きく、 本来ならずっと自分の側においておきたかったところを、 ウェステル改善のために派遣させたのだ。
優しく微笑むその笑顔はとても温かく、 思い出すだけで顔が赤くなりそうだった。
「えっ、あ、大丈夫だよ、トレス。ごめんなさい」 「謝る必要はない」
トレスが再びキリエをしっかりと抱きしめる。 時折額にそっと唇をあててくれるのが嬉しく思う。
「興味っていうのか、その……、……友達に、なりたいの」
黙って彼女の言葉に聞き耳を立てる。
相談事とか、普通の何気ない会話でも何でもいい。 友達になって、いろんなことを話したい。 彼女と、仲良くなりたい。
彼女の願いがどれほど強いものか感じたのか、 トレスはそっと、彼女を自分の方へ引き寄せた。
「卿のその願いが強ければ、キース大佐は答えてくれると推測される」 「本当?」 「肯定。よって、卿がこれほどまでに心配する必要はない」
瞼、頬、そして唇に。 深くなればなるほど力が抜け、そして徐々に安心していく。
思わず酔ってしまいそうな感覚に襲われる。
そこには、もう不安の表情は見えなかった。
「無用」
アベルがそっとベッドから抜け出すと、 部屋に備え付けてあるコーヒーメーカーの電源を入れた。
その顔は安心したのか、安らぎに満ち溢れていた。
そう思わせるぐらい、昨夜の彼女は涙を流し続けていた。 きっと、不安などが一気に溢れ出たのであろう。
しかしそれでも、アベルはクレアに言いたかった。
マグカップに注ぎ、サイドテーブルに置くと、 それに気づいたのか、ゆっくりと瞼を開けようとする。
「ん……」
アベルはベッドの脇に腰を下ろし、自分用のコーヒーを口に含んだ。 クレアがわざわざ皇帝区から持ち込んで来ただけのことがあってか、 その味は格別な上、少し懐かしさを感じる。
「勝手に使うのにちょっと抵抗があったが、こうでもしないと目が覚めないだろ?」 「うん……、ありがとう……」
口に運ぶと、香ばしい香りが口の中に広がり、思わず安堵のため息が漏れる。
「うん。……アベル」
クレアが少し眠そうにしながらも呼び止める。 そして眠いながらに、必死に笑顔を作ってお礼を言う。
「……ああ」
クレアは知る由もなかったに違いない。
アベルですら知る由もなかった。
トランディスは満足そうにその場を離れていったのだった。 |
キリエちゃんはリエルちゃん以上にクレアを尊敬していると思います。
そしてクレアも、そんなキリエちゃんが大事な存在なのです。
この時はまだこんな感じですけどね。
仲良くなったら、いい感じになります(その言い方って)。
トレスとキリエちゃんは、私の中ではいつもこんな感じです(え)。
そしてアベルとクレアは相変わらずです。
そしてトランディス、あなたも相変わらずだね(笑)。
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