たくさんの人々が新しい出発をし、たくさんの人々が懐かしさに浸っている。
皇帝区からの直通列車だ。 それだけではない。 1車輛だけ軍専用車輛になっているのだ。 めったに見ることのないため、人々は足を止め、車輛に釘つけになる。
誰もが注目する中、1つ扉が開き、ゆっくりと姿を現した。
髪は腰あたりまで真っ直ぐ伸びた茶色のストレートヘアーで、 ところどころが黒く染まっている。 シルバーの薔薇が着いた黒十字のピアスをつけており、 大きなこげ茶のトランクを持っていた。
見てすぐに分かった。 だが彼女はそれだけでないことを、まだ彼らは知らないでいた。
大きく手を振る相手は長い銀髪の髪を持ち、クレアと同じ軍の正服を身に纏っている。 そして、頼りない顔を余計に崩して満弁の笑みを零している。 それを見て、呼ばれた彼女は思わず苦笑してしまった。
呼んだ者の前へ到着すると、大きくため息をつく。
「失敬な、クレアさん。それが、再会のお言葉ですか?」 「私はただ、見たままのことを述べただけよ」
人々はまだ彼女に釘つけだったが、アベルが隣にいるからなのか、数は徐々に減っていった。
「これだから、一般車輛でいいって言ったのに。ジェーンがそれじゃあ示しがつかないからって、無理やり乗せられたのよ」 「どうせ乗っても眠っているだけなのですから、そう変わりないんじゃあ……」 「何か言ったかしら、アベル?」 「い、いいえ、何も……」
その姿は、どこか楽しそうにも見える。
昼過ぎの太陽が眩しく輝く、思わず目を掠める。 少しずつ慣れていくと、目の前に広がる世界に、顔がぱあっと明るくなる。
人々は笑顔で溢れ、とても生き生きしている。 車やバイクは排気ガスを最低限に減らしており、環境にも配慮しているようだ。
「あら、私、結構こういう街並み好きよ」 「そうですか。よかった」
クレアは思わず笑ってしまう。 なぜなら彼は、クレアと同じ皇帝区出身だからだ。 もっと正確に言えば、この2人とアベルの兄とは幼馴染みで、 幼い頃からともに過ごしてきていた。
「ええ、分かったわ」
そして、ふと思った。
部隊の全員には通信機が手渡されているはずなのに、 どうして彼は持っていないのだろうか。 さては、忘れて来たとか言うのではないだろうか。 そんなことを思うと、相変わらずのドジ振りに、再びため息が漏れた。
クレアはそう思い、しばらく街の雰囲気を観察することにした。 これからは軍を引っ張らないといけない身であるため、 街のことを少しでも知っていなければならないからだ。
目が慣れて来たのかもしれない。
いや、中には気づかない人もいるから、そんなに大きな音じゃないのかもしれない。
2人の少女に声をかけていた。 少女は見た感じ同じ顔をしている。双子だろうか。
「そんな、私達、まだ買出しが……」 「買出しなんてもんは、男店主に任せりゃいいじゃねえか。俺と一緒に楽しもうぜ」 「い、嫌! 止めて下さい!!」
そんなに力はないが、相手が酔っているため、 大柄な体はいとも簡単に地面に叩きつけられた。 打ち所が悪かったのだろうか。 しばらくの間立ち上がらなくなったようで、 その隙を狙って、2人は走って逃げていった。
足に何かがあたる感触がし、それに躓いて、また前方に倒れてしまう。 先ほどよりも大きな地響きが、地面に振動を引き起こす。 双子も思わず振り返り、男の方を見た。
服装を見た感じで、すぐに軍人だということは分かった。 この街に軍人の1人や2人いるのは今に始まった話ではない。 しかし、今いる軍人は見たことがない人物だった。
「こんなところでナンパするあなたがいけないんじゃなくて?」 「何だとお!? 俺はあの2人の店に通ってやってる客だぞ!?」 「『通ってやってる』って、随分偉そうに言うのね。それじゃ、無理やり通ってるみたいじゃない」 「こおんの……、舐めんなよ!!」
だが、向かう拳に対し、相手は軽く右に体を傾けて避けるだけだった。
もう古いものだからか、それとも体重のせいか、酒樽が破壊され、 中に入っていたワインを一気に浴びて、そのまま伸びてしまった。
「ああ、はい。……ありがとうございます」
唖然としていた店主がそれを受け取ると、そそくさと店の中へ入っていくのを見てから、 クレアは先ほどの双子のところまで向かった。
「は、はい。……ありがとうございます」 「どういたしまして」
その笑顔に、なぜか双子の顔が赤くなる。 その姿に、クレアは可愛いと思ってしまう。
「そう。それじゃ、気をつけてね」 「はい。……あ」
クレアの前に1枚の小さな紙を差し出した。
「夜に?」 「キリエ、行こう!」
クレアの前にいる少女が頭を下げ、その場を走って去っていった。 そんな2人の姿を見送るように見つめていると、 後方から誰かが走って来るのを感じ、振り返った。
「そう。ありがとう。……ああ、アベル。このお店、知ってる?」
クレアは手にしていた紙を彼に見せる。 それを受け取ったアベルの表情が目を見開くと、 驚いたようにクレアへ聞いた。
「酔っ払いに絡まれた双子を助けたらもらったの。……もしかして、知り合い?」 「ええ。このお店は、私達の行きつけの酒場なんです。クレアさんが会ったというのは、そこで働く双子で、キリエさんとリエルさんっていうんです」 「キリエとリエル? ……もしかして!」 「ええ。ヴァーツラフ・ハヴェル元ウェステル陸軍大佐の姪御さん達です」
クレアが尊敬して止まないウェステル元陸軍大佐で、ここまで導いてくれた人だ。 ここに住んでいることは知っていたが、 まさかこんな形で初対面を向かえるとは思ってもいなかった。
「ステージ? 何かやってるの?」 「ええ。そりゃあもう、すごく綺麗なんですよ〜。絶対、クレアさんも気に入ります」
夜にまた彼女達に会えることに嬉しく思ったのだった。 |
クレア、無事にウェステル到着。
そしてアベルとの再会です。
幼馴染みな2人なので、特に堅くもなく、すごく自然な感じにしてみました。
そして、イシュトー姉妹も登場。
可愛い2人です。大好きです。
これからもたくさん登場してくる予定なので(特にキリエちゃん)、お楽しみです。
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