は双方に収めてある銃を取り出すと、それぞれ銃弾を確認し、ロックオン状態にする。

そして扉に這いつくばると、後ろで銃を構える音がして、こちらに向けられている気配を感じていた。



 大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐く。

気持ちを落ち着かせようとしたことは今までなかったが、先ほどのこともあり、

なぜか慎重になってしまっている。



 あと9分で、電動知性(コンピューター)が再び正常に起動を開始し、電波障害を解除させる。

その間、何があろうと止めなくては……!




「撃てー!」




 外で聞こえる合図と共に、はドアを押し倒し、銃弾の雨に飛び込んでいく。

サブマシンガンモードで一気に撃ち抜こうとするが、相手は吸血鬼、

“加速”を見事に使い、簡単に避けていってしまう。

それでもなお、は残り8分という長い時間耐え抜くため、

まるでダンスのステップを踏むかのように引き金を引いていった。



 残り5分のになったところで、集団の1/3近くを倒すことに成功したは、

そのまま集団の中に突っ込んでいった。

この分なら、無事に全部倒すことが出来るはず――。




「――がっ!」




 そう、思っていた時だった。先ほどと同じ痛みが、今度は左肩を直撃したのだ。

思わず銃を落としそうになったが、それを辛うじて押さえ、右手の銃を敵に向けて発射するが――。




「一体、何が――、はあっ!」




 右手を掲げた瞬間、今度は太股を貫通するような痛みが走り、その場に身を追ってしゃがんだ。




(まさか、あの体で……!?)




 遠く離れているアベルの姿が目の前に移っているかのように、は心の中で叫ぶ。

どうしてあの男は、こういつも無理ばかりするのだ!? 

思わずそう訴えそうになったが、今はそれどころではない。

何とかしてこの敵襲を押さえなくては!




「フェリー! 鎮痛剤って、もう1発打てれたかしら!?」

『それは無理です、わが主よ。それ以上打ってしまったら、後に襲うであろう痛みに耐えられません』

「となると……、どっちかが使うしかないのね……、くっ!」




 が使っても構わないのだが、今の状態では確実に暴走してしまう。

自分が暴走してしまえば、テロリストだけではなく、彼らに囚われている人質にも被害が及んでしまう。

となると……、アベルが動き出すまで待つしかない。



 痛みを堪えながら、何とかして銃を持ち直し、フルロードモードにして敵に向かって撃ち始める。

先ほどまでの気迫はないもの、普通の強装弾よりも倍の威力を発する銃弾のお陰で、確実に敵をしとめていく。

あと半分と言ったところであろうか。



 修正プログラムのロード完了まであと3分。

その間だけでいいから、持って欲しい。

そう願いながら、が再び銃の引き金を引こうとした、その時だった。




「―――!!!」




 声にならない叫びと共に、呼吸が出来なくなるぐらい胸を一気に締め付けられていく。

苦しさのあまりに声も出ず、胸元あたりの服を強く握り締め、その場に膝待ついてしまう。




(これは違う……。アベルがこれだけで暴走するはずがない……!!)




 暴走が起きれば、毎度のように襲われる胸の痛みに苦しむ。

しかし今回は、そんな甘いものではない。

今まで何度も暴走をするために苦しめられたが、ここまで酷いのは初めてだ。

しかも相手は、確実(・・)()暴走(・・)など(・・)して(・・)いない(・・・)はずだ。なら、この苦しみは一体何なんだ!?




『……危ないです、わが主よ!!』




 突然聞こえてきたプログラム「フェリス」の声で、とっさに我に返ると、

目の前に銃弾を掲げた1人の吸血鬼が立ちはだかっていたのだ。

いつもならすぐに避けれる範囲でも、この痛みを抱えたまま避けるのは至難の業だ。

プログラム「フェリス」は修正プログラムをロード中な上、扉の前に抵抗バリアを貼っているため、

の前にまでバリアを張ることは不可能である。




「悪あがきもここまでだ、短生種!! 死ねー!!!」




 敵の銃が引き金に伸び、一気に引かれる。

相手の銃口は確実にの頭に狙いを定めているため、当たれば即死する以外の結果は生まれない。

普段だったらすぐに避けるはずが、体が何も言うことを聞かない。







(駄目……。私はここで……、こんなところで死んではいけない!!)




 心の中の言葉がこだまするかのように響き渡った、まさにその時だった。










「――がっ!」




 敵の攻撃を避けられず、このままやられると思ったその時、耳元に入ってきた声は、

今自分の頭を撃とうとしていた敵の声だった。

どうやら、頭を何かで貫かれたらしい。



 攻撃される直前に閉じた目を苦しみながらもゆっくりと開くと、

目の前に光を帯びた人物が立ちはだかり、の前にバリアを張っていた。

その光が人型にゆっくりと変形し、回りにいる敵の前に手を翳した。



 地面が急に揺れ出し、次第に亀裂が入り出す。

そしてそこから出てきたのは……、太さ約3センチの巨大な無数の針だった。




「ぐあーっ!!」




 生き残っていた吸血鬼達が、一気に針山の犠牲になって串刺しにされていく。

その光景を、が信じられないように見つめていた。



 それもそのはず。

これと全く同じ光景を、彼女は遠い昔に目撃したことがあるからだ。




(これは、No.143――スティリアル!)




 スティリアル――地面の奥底に眠っている粘土を瞬時に固め、鉄のように硬くさせたのち針状に削られ、

地上に呼び出して攻撃することが出来る戦闘プログラムだ。

しかし使えるのは、これを作成(プログラミング)した者しかいない。




(まさかそんな……、そんなこと、ありえない!!)




 このプログラムを作った「人物」は、はるか昔、自分の命を犠牲にしてある戦闘機の暴走を止め、

それによって使い物になってしまって消去(デリート)したはずだ。

しかもそれを完全消滅させたのは、誰でもない自身だ。

確かにあの時、消去プログラムに間違いはなかったはずなのに……!




『時が近づいてきている……』




 脳裏に響く声は、間違いなく「彼女」の声そのものだ。

だが信じられなくて、思わず耳を疑ってしまう。




『早く「あれ」を解放させないさい。そうしなければ、あなたと彼は……』







 光が徐々に大きくなり、の体を包み込む。

 優しいオーラのような光が、左肩と太股の痛みと同時に、胸の苦しみを和らげた時には、

 は気を失い、その場に倒れこんでしまっていたのだった。











RAMの中でのキーパーソン(?)の登場です。
まだ名前も出てきてないので、どういう関係なのかがまだ分かりませんけどね。
でも「この方」の登場により、に大きな変化を与えるのは確かです。


詳しくは、RAM6にて……。







(ブラウザバック推奨)