アベルの目の前には、大佐であるラドカーンと、少佐であるトレス・イクスの2人が引き連れた市警軍がいる。
 ……正確に言うのであれば、「元」少佐にあたるトレスは、アベルとの同僚なのだが。


〔“クルースニク02” 40パーセント限定起動――〕

「常駐戦術志向を哨戒仕様(サーチモード)から殲滅戦仕様(ジェノサイドモード)に書換え(リライト)。戦闘開始(コンバット・オープン)」


 アベルが呪文のようなものを唱える前に、トレスが一気に攻撃を開始した。

 彼の手にしている銃が、アベルの後ろにいる市警軍を一気に倒していく。
 その姿は本当圧倒的で、誰もが驚かされるほどだった。

 数分後、アベルの後ろにいたはずの市警官達がほぼ全滅状態になっており、目の前にいるアベルが圧倒されていた。


「戦域確保(コマンドクリアー)」
「――あ、あぶないなー、もー! 何ですかっ! 殺す気なんですかっ!?」
「『殺す』? 否定だ。肘・肩・股関節を狙い、動きを封じたにすぎない。損害評価報告(ダメージリポート)を、ナイトロード神父」
「損害評価報告(大丈夫かい)って、あなたねえ……。助けてくれるの、遅すぎ! トレス君のバカ!! ……ズゴッ!
「それはあなたが悪いんでしょう、この鈍間神父!!」


 どっから聞こえた声なのか分からないが、知らない間にアベルの横には、
 エステルと共に逃げたと思われていたの姿があり、ものすごい勢いでどっついていた。
 それに驚く様子もなく、アベルは今度、に向かって言い放つ。


さん! あなたも来るの遅すぎです!!」
「あ〜の〜ね〜! こっちはね、そう簡単に来れる状況じゃなかったのよ!」
「シスター・の言う通りだ、ナイトロード神父。それに、これはすべて卿の行動スケジュールが逸脱していただけだ。
俺は初期の予定通りに行動している」


 トレスがそう言っている間にも、目の前からラドガーンを含めた市警軍が攻撃を仕掛けてくる。
 それに反応して、はどこに隠し持っていたのか、2つの銃を取り出し、一気に相手に撃ち込み始めたのだった。


「トレス! ここは私に任せて、あなたはラドカーンを!」
「了解」


 出来ればこの格好ではやりたくなかったのだが、この状況で文句を言うことなんて出来ない。
 は銃をマシンガンモードに設置し、一気に攻撃をし始めた。
 それはまるで、踊っているかのように華麗なものだった。


 トレスも何とかラドカーンの攻撃を避けながら、相手に確実に攻撃を仕掛けていく。
 しかし油断したのか、ラドカーンが隠し持っていた銃が発砲し、彼の体を集中的に攻撃した。


「ハハハア! そんだけ食らって生きていたら、人間じゃねぇだろ!!!」
「『人間じゃない』。肯定だ」


 たくさんの銃弾が撃ち込まれたからから、コードらしき物が見え隠れしている。
 そして体には、しっかりとラドカーンが打った弾が埋め込まれたままの状態になっている。


「俺は教皇庁国務聖庁特務分室(Ax)派遣執行官、HC−V].コード“ガンスリンガー”。
人(マン)ではない。機械(マシーン)だ」



 その台詞と共に、トレスはラドカーンに向けて、無数の銃攻撃を仕掛けたのだった。




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 数分後、目の前の教会は燃え続けていつつも、アベルとトレス、の周りに静寂が戻った。

「何はともあれ、今日は色々お世話になりました」
「ここ周辺の人を避難させといてくれたのも、トレスなのよね。本当、助かったわ。ありがとう」
「無用。俺が銃を抜いたのは、卿らが人間を対象に“あれら”を使う必要がないと判断したからにすぎない。
それに今日は、卿ら2人ではなかった。戦域内に、一般市民を巻き込むことは避けねばならない」
「……………何かトレス君って、素敵♪」
「あんたが惚れてどうするのよ、コラッ!!」
「ウゲッ!」

「…………卿の発言意図は不明だ」



 アベルに突っ込んだとは言え、トレスの心遣いには頭が上がらないのは確かだ。
 これで本当に人間なら、大層モテたに違いない。
 しかし本人には、一途に想っている人がいる。……自分では気づいていないが。


「俺はこのまま、市内の制圧にあたるが、ハンガリア侯の“計画”が進行しつつある現在、
卿らにはそれを阻止すべく、至急に行動へ移すことを推奨する、ナイトロード神父、シスター・
「分かったわ、トレス。気をつけてね。……あ、あと、例の奴、ケイトに頼んでおいてね」
「了解」


 トレスはそれだけ言い残すと、イシュトヴァーン市内に向けて車を走らせた。
 これで、市内の方は問題ないだろう。


「さて、エステルのところへ戻りましょう、アベル」
「はい。……つっ!」
「まだ、さっきやられたところが痛むのね。……じっとしてて」


 がアベルの前に手を翳し、そこから白いオーラが現れ、負傷した部分に注ぎ込まれる。
 オーラはアベルのケガを包み込み、ゆっくり、確実に消えていく。


「これで、よし。さ、急いでエステルのところへ戻りましょう」
「はい。……ありがとうございます」
「ケガを治すぐらい、どおってことないわ。ついでだから、一気にそこまで行っちゃう?」
「……そうですね。お願いします」
「了解。―――てことで、ヴォルファー、行けるわね?」
『もちろん、わが主よ。2人だったら、まだ余裕だよ』



 腕時計から聞こえる声と共に、2人の姿が消える。
 そしてすぐに、その場は静寂へと変わっていったのだった。




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 こうこうと燃えている教会を見つめながら、エステルは未だ、悲しみを堪えきれずにいた。
 いくらに言われても、そう簡単に吹っ切れることではない。
 いつもの調子を取り戻そうと思っても、そう簡単に取り戻せるわけではない。


「司教様! 司教さ……」
「エステルさん、よかった……」


 横からの声に、思わずエステルが振り向く。

 そこには、先ほどまで市警軍のもとにいたアベルと、約束通り無事に戻って来たの姿があった。


「ディートリッヒ君、うまく安全な場所に連れてきてくれたんですね」
「―――はい。今…………、消火活動に行ってくれてます、ディートリッヒ」


 目から何かが流れ、手にしているヴィテーズのロザリオを濡らす。
 悲しみが募り、それが涙と化して、止まらなくなっていく。


「司教様が……、教会が……、何で……、――何で…!!!」


 悲しみから、次第に怒りへと代わり、それを現すように言葉を発していく。


「私……、もう……、たった1人です……。たった1人……」
「私は、あなたの味方です」


 エステルの言葉を割るように、アベルが彼女の横にしゃがみ込み、手を彼女の頭にのせた。


「すみません。今はこれしか、言えないです」
「……私も、さっき言ったけど、あなたの味方よ、エステル」


 もアベルと反対側の隣にしゃがみ、彼女の右肩に手をのせた。


「だから……、もうそんなに、苦しまないで」



 2人の言葉が、エステルの胸の中で響き渡っていく。


「ありがとう、神父様。さん」



 そしてゆっくりと、少女は泣き始めたのだった。










漫画版での初突っ込みが登場しました(笑)。
たぶん今後、山ほど突っ込みが出てくることでしょう。
(それほど、突込みどころ満載、ということで)
下手したら、ROMよりも多いかも、フフッ(笑)。

漫画版もROMも一緒なのですが、にとってのエステルのポジションはアベル並みです。
それはやっぱ、リリスを思わせてしまうような人、だからですかね。
なので、今後のも、これぐらいエステルに優しいです。
時に厳しいですけどね(それが彼女なので/笑)。



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