1つため息をついて、横に置いてあるミルクティを一口飲むと、彼女はトリスタン号の機内データをダウンロードすべく、トリスタン号にアクセスをし始めた。
 ID、パスワードを、いつもと変わらず打ち込んでいく。そして無事、アクセス完了させる。
 そして、機内に設置してある管理カメラから、コックピットを映し出すと、はすべてを納得したように、顔をしかめた。

「……これまた……、激しくやっちゃったのね……」


 コックピット内は、機長や副機長などが、血まみれになって倒れている。
 どうやら、吸血鬼によってやられたらしい。首元から、2つの穴が発見された。
 次に、通路を通して、アベルを探し始める。

 客席にいるはずの乗客はすでにヴァンパイア吸血鬼にやられた後らしく、周りにはたくさんの血が散りばめられ、中には小さな男の子もいた。


「……こいつ、やりすぎ……」


 あまりの血の気の多さに、思わず顔をしかめてしまい、別の場所に視点を移した。
 すると、ちょうど長身の男の影が見え、すぐに追いかけるように、他の機内カメラに移し変える。
 見た感じサブブリッジらしい。


「なるほど、こっから操縦しよう、ってことね。でも、誰が……?」
<シスター・、聞こえますか?>


 ちょうどアベルの位置を確認した時、イヤーカフスから声が聞こえ、彼女は耳を傾けた。
 声の主は、同じ派遣執行官、“アイアンメイデン”ことケイト・スコットであった。


「聞こえてるわ、ケイト。どうしたの?」
<「どうしたの?」じゃありません! さっきから、トリスタン号のアクセスデータに、変な信号が見えると思ったら、さんだったんですのね! ビックリしましたわ!!>
「そう、怒らないで、ケイト。こっちだって、……って、トレスが言っていた緊急命令って、このことだったの!?」
<その様子だと……、知らないで調べてましたね?>


 ケイトの発言に、の背中に嫌な汗を感じていた。
 それもそうだ。トレスの緊急命令が気になって調べていたなど言ったら、それこそケイトのお怒りが飛ばないわけがない。
 下手したら、上司に言いつけるに決まっている。そして、大事な休暇がなくなり、また明日から仕事に精を出さなくてはならない。
 ……そいつは困る。


<ま、今回のことは多めに見ておきますわ。その代わり>
「その代わり?」
<その代わり、今、さんが持っている、情報をこちらに提供して下さい。こちらからも情報を提供します>
「分かったわ。ありがと、ケイト」
<いいえ。こちらも、相手がさんで安心したところですから>


 プログラム「アクラクト」を使っていない今、自力で情報を集めることも可能だが、ケイトが情報を提供してくれるのであれば手間が省ける。
 さらに、上司への報告をなくしてくれるのであれば、ここは潔く条件を受け、情報交換をし、共同で解決した方が手っ取り早い。

 は自分が持っている情報を、すべてに報告した。
 その間に、アベルが電動知性(コンピューター)の自閉(ブログ)を解除し、自動操縦(オートパイロット)から手動制御(マニュアル)へ変更された。
 席を立つと、隣にいると思われる女性に、なにやら相談を持ちかけている。そのことを、はケイトに報告した。


<その女性が誰なのか、分かりますか?>
「調べてみないと、何とも言えないわ。待って、今、フライトスタッフの名簿を調べてみるから」
<了解。こちらからも確認してみます。以上、通信終了(アウト)>


 一度、ケイトからの無線を切り、お互い、再び情報収集に入る。トリスタン号の機長、ならびスチュワーデスの名簿を検索し、そこから該当者を割り出す。

 スチュワーデスのほとんどが、すでにあのヴァンパイア吸血鬼にやられている。
 一体、何人の人間、いや、地球人」を苦しめれば気がすむのであろうか? 思わずそう、深く考え込んでしまいそうになった。


「……あった、彼女だ」


 そんなことを考えている間に、目的のスチュワーデスのデータを発見した。それに一通り目を通すと、イヤーカフスを軽く弾き、ケイトに話し掛けた。


「“アイアンメイデン”、応答して下さい」
<……さん、ですね。今ちょうど、データを手に入れたところです>
「じゃ、タイミング的に、ちょうどよかったわけね。……えっ!!?」
<どうかしましたか、さん?>
「……せっかく、いい舵取りが見つかったと思ったのに、これじゃ、ダメじゃない!!」
<ちょ、ちょっと、あの、さん? どうかしましたの?>
「ケイト、スチュワーデスのジェシカ・ランク……、飛行船設計家のキャサリン・ランク博士のご子族が、吸血鬼によって壁にぶつかって、支障を負ったわ!」
<何ですって!?>


 クロスケイグスに映し出されている機内カメラからの映像を見て、は素早くケイトに報告した。
 例のスチュワーデス――、ジェシカ・ランクの意識はまだあるらしいが、いつ途切れてもおかしくない。
 アベルは最初の一撃で、体が床に叩きつけられている。……まぁ、そんな簡単に倒れる彼じゃ、ないのだが。


「音声コード、解除。ならび、複制御室の映像を拡大」


 は手を動かしながら、独り言のように呟くと、クロスケイグスがいう通りに動き、中の声が聞こえるようにする。
 それと同時に、敵の手に握られている黒いディスク(円盤)が、操縦席の機械に投入されようとしていた。

『そ、それ……』
『コンピューター(電脳知性)のマスターコード(強制対話暗号)……ま、俺もよく知らねえんだけどよ。ただ、これをここに挿れて、ちょいちょいとボタンを叩けば……んあ?』
『だ、だめです……』

 床にへばり付いているアベルが、必死になって相手の足を掴んだ。
 説得するが、こめかみに蹴りを食らい、体が飛び上がる。


「ケイト、聞こえているわね」
<はい、さん。ちゃんと声は届いています>
「今からこちらで、トリスタン号の操縦プログラムをダウンロードして、こちらでバックアップを取るわ。……やばい!」
さん!?>
「ジェシカ・ランクが、鉄パイプで攻撃しようとしたら、それが抑えられ、逆にまた体が勢いよく壁にぶつかって、本当に気絶してしまったわ!!」
<そんな! だとしたら、操縦は誰が……!!>


 ケイトとの通信の間に、はすぐに、トリスタン号の常住プログラムをロードし、目の前にデータとなって現れた。
 とりあれず、今の高度を保ちながら、少しでも安定して飛ばさなければ意味がない。


「彼女が気づくまで、私がこっちで操縦するわ。ケイトはそのまま……、……ところで、そっちの任務は何なの?」
<ああ、そうでした。実は……>





最初、これを読んで思ったのが、
「ジェシカが気絶している間、一体誰が操縦しているんだ?」ということ。
なのでとりあえず、それを解消するような内容のものにしてみました。
とりあえず、夢主、自力で頑張ってます。
普段は、プログラム達に、こういうのは任せる人なんですけどね。
ま、ばれて殺されるよりもいいのかもしれません(笑)。




(ブラウザバック推奨)