「……何なの、これ?」
「新しく開発した武器だよ。試しに、君に使ってもらおうと思ってね」
準備段階を報告しに“教授”のラボに行くと、紅茶と一緒に、長さ10センチほどの棒状のものを手渡された。
どうせまた、役に立たない道具でも作ったのであろうと思い、いろんな視点で眺めていると、ある1つのボタンが目に入った。
「ウィル、これは何?」
「それは、押してみれば分かるよ。……おおっと、出来れば、その場に立って、ボタン部分を下にして押してごらん」
頭の中で「?」を浮かべたまま、とりあえず言う通りにその場に立ち上がり、ボタン部分を下にして押してみた。
すると先から、何やら長いものが伸びていき、外から入ってくる夕日に照らされ、光り始めたのだった。
それを見た瞬間、彼女は“教授”が何を企んでいるのかが分かり、相手の顔を不審な顔で見つめた。
「……あのね、ウィル。私は……」
「前回のブリュージュの件で、僕は君の力を押さえておくのが勿体ないと思った。
で、どうにかして、表に出してあげようと思って作ったのがそれだ」
「あの時も言ったけど、私が使うのは、『あれ』になった時だけよ。それ以外は……」
「それじゃ、使うたびに、『あれ』になるというのかい? そんな面倒なこと、するもんじゃないよ」
確かに、“教授”の意見には一理あった。
通常の攻撃だけでは間に合わない時、何かと不便になるのは目に見えている。
しかしそれは、他でカバーすれば何とかなる。
現に今まで、そうやってここまでやって来たのだから。
しかし……、ものは試しに、やってみてもいいかもしれない。
「……分かったわ。持っていくだけ、持っていって、使うかどうかは、現地で決めてもいいでしょ?」
「もちろんだとも」
はボダンを押して元に戻すと、
ケープの小型電脳情報機(サブクロスケイグス)が収められているのとは反対側のうちポケットにしまうと、
再び椅子に座り、出された紅茶を口に運んだ。
「……今日はカフェに行ってないのかい?」
「行ったわよ。ちょうど、レオンと物色したついでだったから、彼も一緒にいたけど」
「なるほど。……本当、最初から知っていたのだね、ヴァーツラフのこと」
“教授”の言葉に、は急に思い出し、その場に俯いてしまう。
それを見た“教授”が、少しアタフタながら、彼女へ弁解の言葉を述べる。
「わっ、すっ、すまない、君! 別に僕は、そんなつもりで言ったのでは……」
「いいのよ、ウィル。……ありがとう」
再び顔を上げ、焦った顔をしている“教授”を見つめる。
その顔には、もうすでに迷いはなかった。
「私は、もう大丈夫。あとは……、天に任せるだけよ」
「君……」
の顔には、もう不安の色は見えていなかった。
むしろ、新たなる希望に満ち溢れているようにも見受けられる。
「ヴァーツラフには、いろいろお礼、言わなきゃいけないもの。昔から、彼にはお世話になりっぱなしだから。
それは、ウィルも同じなんだけどね」
「僕は別に、何もしていないつもりだが?」
「でも、あなたがいなかったら……、私はあれを――“タクティクス”を作ろうとは思わなかった」
すべてのきっかけは、“教授”が与えたもの。
それがにとって、何よりも嬉しかったことであり、いい経験にもなった。
そしてその成果が、ついに明日、花を開こうとしている。
「メンテナンスは万全なのかね?」
「ええ、もちろん。レオンとも確認取れたしね」
「そうか。……君」
「ん?」
「今度、私の次回作の手伝いをしてくれないかね? 何、変な機械を作るんじゃない。今後、Axに必要な、大事なものなんだ」
「大事な、もの?」
「然り。今はまだ言えないが、決まり次第、早急に君に頼むことになるかもしれない。やってくれないかね?」
「Axにとって必要な大切な物」。
は少し疑問に思いながらも、すぐに頭を切り替える。
とりあえず、今回の任務を終えなくては意味がない。
「分かったわ。でも今は……」
「任務に集中したい、だね?」
「ええ。ウィルにはここに残って、メディチ猊下の監視、というか、異端審問局の様子を、
ほんのささえなことでもいいから随時報告して欲しいの。特に、例の噴進爆弾についてはね」
「分かったよ、君。僕も、出来る限りのことをやってみるさ」
「お願いね、ウィル」
が“教授”に優しく微笑むと、彼は少し驚き、でも安心したかのように自分の紅茶を一口飲んだ。
久方ぶりに見せる、の笑顔には、胸に引っかかっていたものを取り除いたかのようにも思えるほど、
その力は大きかった。
「……やっぱ、君の笑顔には救われるよ」
「え? 今、何か言った?」
「いや、何でも。ほら、君。しっかりこれを飲んで、乗り切りたまえ!」
「ええ、もちろん!」
笑顔で紅茶を飲むの姿を、“教授”はずっと、微笑ましく眺めているのだった。
“教授”夢は、ちょっとやんわりした雰囲気にしてみました。
焦って謝罪する姿が、「珍しい!」という人もいるかもしれませんがね。
「次回作の手伝い」については、RAM6で分かります。
ま、後編の設定を読んでいただければ、大体の内容は分かりますけどね。
つまり、「あやつ」の作成の手伝いをするのですよ、フッフッフッフッフッ(笑)。
ごうご期待!
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