「今回は、本当に世話になった、アベル神父」
翌日、帝国に戻るアストを見送りに、アベルとはヴェネツィア空港の出発ロビーにいた。
今度こそ、本当の帰還だ。
「最初はどうなることかと思ったが、無事に任務を終えることが出来た。汝には感謝している」
「いえ、そんな、私は大した事をしていません。アストさんに、何度も突っ込まれましたし」
「ま、アベルはアホ神父だからね。突っ込んでも突っ込み足らないわよ」
「な、何もそこまで言わなくてもいいじゃないですか、さん!!」
アベルとのやり取りを、アストは驚いたように、そして微笑ましく見つめていた。
……昔を思い出しているようだ。
「昔……、余もそうやって、言い合いをした者がおった」
「え?」
「今度……、会いにいかなくてはならないな」
アストが言っていることがいまいち分からないアベルと、すぐに見当がついたが、アストの顔を見つめている。
その2人の顔を見て、アストがクスッと笑った。
「ま、とにかく、そういうことだ」
「アストさん、一体、どういう意味です? 私、さっぱり分からないんですけど」
「アベルは分からなくてもいいのよ。これは、私とアストにしか分からない話だから。ね♪」
「そうじゃな」
「そんな〜! 私だけ、仲間外れですかぁ〜!?」
<アベル神父、そんな情けない声を上げるのは、やめて下さいまし!>
「ケ、ケイトさんまで、そんなぁ〜!」
<さて、オデッサ子爵、そろそろ乗船してください。出発いたします>
「ああ、分かった」
アストはケイトに言うと、の前に手を差し出した。
「汝には、またいろいろと迷惑をかけてしまった。すまなんだ」
「いいのよ、アスト。私は別に、気にしていないから。今度は休暇を利用して、ローマに来なさい。いろいろ案内するわ」
「ありがと」
差し出された手に、自分の手を合わせて握手をすると、お互いに見つめ合い、微笑みあった。
それはまるで、「友達」のように。
「……アベル神父も、いろいろ迷惑をかけた。すまなんだ。傷の方もよくなって、安心した」
「いえ、私の方こそ、いろいろご迷惑をおかけしてすみませんでした。今度は一緒に、観光でもしましょう」
「そうだな。汝となら……、楽しそうだな」
と同じように、アベルの前にも手を出すと、アベルはその手を取って握手をする……、ように見えた。
その手はぐいっと引っ張られ、アベルの腰が自然と曲がる。そして……、
アストの唇に、軽く触れた。
「はい、お礼。本当、助かったぞ、“相棒(トヴァラシュ)”」
「〜〜〜〜〜〜!!!!!」
その光景を真横で見たが、言葉にならない絶叫を発し、目を見開いている。
その様子を見たアストが、面白そうにに言った。
「そんな顔をするな、。これは単なるお礼じゃ。それ以上なことはない」
「ア〜ス〜ト〜〜!!」
「おっと、そろそろ出発せねばな。じゃ、、神父アベル、元気でな」
「あ、は、はい。アストさんも、お元気で〜……」
搭乗ゲートに向かって歩き出すアストを、少し焦っているアベルと、未だ驚きを隠せないでいるが見送った。
2人が見えないところで、笑いを堪えていることも知らずに。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さ〜ん、そんな顔しないで下さいよ〜」
空港を出てからも、の不機嫌な顔は収まることがなく、目の前にいるアベルが必死になって宥めている。
……そんな簡単にいくものではないのだが。
「ほら、さんの大好きなダージリンとフルーツタルトですよ? も〜、これ、メチャクチャおいしくて、私、目玉が飛び出そうになっちゃいますよ〜」
「あ〜、そ〜。そうよねぇ〜。ど〜せ私よりも、アストの方がスタイルいいし〜、色気あるし〜、かっこいいし〜」
「……さん……、完璧に妬いてますね」
「妬いているわよ〜。いけない?」
の鋭い目が、アベルの視界を捉えて離そうとしない。
これではまるで、カテリーナである。
「何か今日は、やけに素直じゃないですか」
「たまには素直になるのも、悪くないかなぁなんて思ってね」
「じゃ、いつもは素直じゃないってことですよね!? やっぱり、そうだったんですね!?」
「そういうアベルだって、いつも自分でぜーんぶ抱えて、苦しんで、自爆するじゃないのよ!」
こういう時になると、お互いに素直な気持ちが言えないでいる。
本当、どっちもどっちなのだが、こんな時は、ほとぼりが冷めるまで喋り通すのが一番だ。
「あ〜、もう、嫌! 絶対に嫌! どうして私、アベルの“フローリスト”なんかになっちゃったんだろう? 後悔の嵐よ」
「こっちだって、好きでなって欲しいなんて、言ってないんですけどねぇ」
「あ、そう! そう言うわけね! いいわよ、いいですよ! そんじゃもう、1人で勝手にすればいいじゃない!」
「あー、そう言うなら、こっちだって勝手にしますよ! 勝手にしま……」
最後まで言うはずだった言葉が、そこでプツリと途切れる。
そしてアベルの頭の中が、一気に真っ白になっていこうとしていった。
塞がれていた唇がゆっくり離れると、が安心したかのように、アベルの顔を見つめる。
何だか、満足してたようだ。
「あ〜、スッキリした。さ、食べよっと」
「さん?」
「うん、このフルーツタルト、おいしい〜! 本当、目玉が落ちそうなぐらい美味しいわ♪」
「あ、あの、聞いてます? もしもし? もしも〜し?」
「あれ、アベル、残しちゃうの? 勿体ないなぁ〜。食べていい?」
「……降参です。私の負けですよ、さん」
「フッフッフ〜♪」
勝ち誇ったような顔で見るを、アベルは少し呆れながらも、微笑ましく見ていた。
何やかんや言いつつも、やっぱり彼女の側にいる時が、自分にとって安らぎの時間を与えてくれる。
辛いことも、苦しいことも、忘れさせてくれる。彼女にはそんな力が、備わっている。
だから自分は、こんなにも彼女のことを、守りたいと思ってしまう。
「……さん」
「ん?」
「……ありがとう」
「……意味が分からないけど、『どういたしまして』って言うべき?」
「いいえ、ただ、お礼が言いたかっただけですよ。……ありがとう」
アベルの笑顔の理由が分かっているのか分かっていないのかは定かではないが、
はそんなアベルを見て、そっと、優しく、「天使」のように、微笑んだのだった。
当初、シリアスも考えたのですが、ギャグにしてしまいました(爆)。
何か、アベルに対するアストの印象がよかったので、つい遊んでしまいました。
ごめんね、アスト。でも、楽しかったからいいや(笑)。
そして、ついに書いてしまいました、それらしきことを(何だよ、それ)!
どれぐらい気づいてくれたでしょうか? いや、気づいているはず。
でも、その1つで満足したもです。
それでよかったのね、あなたって人は……(汗)。
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