<……異端審問局副局長のシスター・パウラです。
本日はアルフォンソ・デステ元大司教の異端審問に関する判断の朗読と卿の執行に参りました>


 強化歩兵用の戦闘補助システムである装甲戦闘服相を身にまとったシスター・パウラの変わらない穏やかな声に、
 は逆に警戒心を強めていく。
 冷静になればなるほど、彼女の持つ力は大きくなっていくのを知っているからだ。


<判決。元ケルン大司教アルフォンソ・デステは異端にして、改宗の余地なし。よって、これを即時死刑に処するもの也――以上。
これより、刑の執行に移ります>


 パウラがそう言うと、すぐに動きを転じ、アルフォンソに目掛けて動き出す。
 しかしアルフォンソを襲う前に、ハヴェルが彼女の前に踊り出て、峨嵋針をへし折っていた。

 しかし、パウラの武器はこれだけではない。
 背後から新しい武器――鴛鴦鉞(ムーンブレイド)を2つ取り出し、それぞれ左右に構えた。
 そんな彼女にハヴェルは必死になって抵抗する。

 がパウラと退行した時も、彼女が使用していたのはこの暗器だった。
 遠接攻撃を専門とすると、近接攻撃を専門とするパウラ。
 確実に有利だったのはパウラだったが、そこはも負けてはいられまいと、
 周りの道具をいろいろ使って、何とか彼女を捕らえたのだった。

(あれは、そう簡単にかわせるものじゃない。それが例え、ヴァーツラフであろうと変わらない)

 そう思っているうちにも、あとから仕掛けてきたパウラの鴛鴦鉞が、
 長く伸びたヴァーツラフの右腕をくびれに捉え、そのまま一気にへし折ってしまった。


「…………ぐうっ!」


 ハヴェルの叫び声を聞いたのと同時に、はすぐに回復プログラムを転送させようとしたが、
 相手が「人間」の場合は、プログラム「ヴォルファイ」も起動させなくてはいけなくなる。
 そんな時間は、今の彼女にはなかった。

(ごめん……、ヴァーツラフ)

 の心の中で、彼に対する謝罪の言葉が鳴る。
 彼の腕がありえない方向に捻じ曲がっているのを見るだけでも、彼女の心に悔しい気持ちが募るばかりだ。

 そんなハヴェルを見つつも、パウラは相変わらず冷静さを保っていた。
 そしてその彼に、最後の一撃を与えようとしたのを見て、はすぐにアベルに指示を出した。


「アベル! どんな手を使ってでもいいから、パウラを止めて!」
<もちろんです!!>


 どうやらすでにそのつもりだったのか、彼の手には旧式回転拳銃がしっかりと握られていて、ハヴェルとパウラの間を打ち抜いた。
 2人には当たらなかったにしろ、相手がヴァーツラフの命を奪わずにすんだため、は思わず安堵のため息をついた。


「フェリー、トレスの回復まで、あとどれぐらいかかりそうなの?」
『あと、30秒ほどはかかります。“ガンスリンガー”の中にある修整プログラムの力もあり、
通常の約3倍ほどの時間で修復中です』


 安心ばかりもしていられない。
 今1人の派遣執行官であるトレスが普及しない間は、アベル1人で2人を止めなくてはならない。
 いや、正確に言うのであれば、ハヴェルと共にパウラを止めなくてはならないのだ。

(お願い、トレス。――早く復旧して!)

 が心の中で念じると、それが通じたのか、トレスの右目が赤く光り出した。
 ……どうやら、修復が完了したらしい。


「トレス! 大丈夫!?」
<問題ない(ノー・プロブレム)。プログラム『フェリス』の力もあり、通常の倍以上の早さで修復した。
卿の協力、感謝する、シスター・
「私にお礼を言う前に、先にアベルを……!」


 床から立ち上がろうとするトレスに指示を出そうとした時、アベルの目の前には、すでにパウラの影があった。
 的を失った銃口が探している隙に、彼女が手にしている鴛鴦鉞を振り下ろそうとしたその時、
 トレスがタイミングよく横合いからM13の引き金を引いたのだった。


<――0.08遅い>
「よかった、間に合った……」


 トレスの素早い動きに、が再び安堵のため息を漏らすと、
 地下広間に軍服を来た兵士達がようやく到着をして、へたり込んだアルフォンソを救い出しに来たのだ。
 こうなってしまっては、さすがのパウラも乗り切るのは不可能だ。
 その上、アベルとトレスも、これ以上先に進むことは容易ではない。

 パウラが小さな円盤を投げ、大音響と共に破裂する。
 そこから吹き上がる煙幕に、盛んに咳き込む声が聞こえ、その場でうろたえ始めている。

 この間に、撤収するしかない。


「アベル、トレス! 作戦は失敗よ! すぐに撤収しなさい!!」
<了解。――撤収する、ナイトロード神父>


 トレスがそう言うも、アベルは床に拳銃を置き、降伏するかのように両腕を上げた。
 それを見たが何かを察したのか、彼にそっと言った。


「本当に……、それでいいのね?」
<ええ。……行って下さい、トレス君>


 アベルの視線が、目の前にいるハヴェルに向けられている。
 その視線は、まるで何かを望んでいるかのように真っ直ぐだった。


「……トレス。アベルをここに残して、あなたは撤収しなさい」
<……了解。作戦失敗。損失(ロスト)1名。――撤収する>



 トレスがその場から離れ、画面には立ちつくすアベルの姿だけが残る。
 その姿を、は何も言わず、訴えるような目で見つめているだけだった。







はい、長い長いシーンが無事に終わりました(大汗)。
ここまで来るのに、本当に時間がかかりました。
よかった、無事に終わって(泣)。

さて、次はちょっと原作から離れます。
ところどころは突っ込んでますが、ほぼオリジナルで進みます。
お楽しみに♪



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