さん、これとかどうですか?>

「う〜ん、赤は似合わないと思うけど……」




 “剣の館”にある執務室は、いつの間にかたくさんのドレスで埋もれていた。

 任務に使う変装用のドレスを、カテリーナの所有物から借りることになったからだ。




が似合う色と言ったら、白か黒ですものね。あとは薄い紫とか」

<たまには、他の色でもいいとは思うのですが、試しに袖を通してみます?>

「そうねえ。……でもそれ、何気に胸元が開いてない?」

「ドレスなんて、大体そんなものよ」

「そうかしら?」




 単にカテリーナがそういったものを好むからじゃないかと思ったのだが、

 相手に言ってしまったら貸してくれなくなりそうだったため、

 急いでその言葉を奥底に追いやった。

 こんなところで反発したら、後先が恐ろしい。




「とりあえず、袖に通してから考えてみたらどう? もしかしたら似合うかもしれませんし」

「……それもそうね。ここって、別室ってあったかしら?」

「そこの扉を抜ければ、一応着替え用の部屋があるわ。そこで着替えてみなさい」

「ありがとう、カテリーナ」




 赤のドレスの他に、いくつかドレスを持ち、部屋の奥にある扉の奥へと消えていく。

 ついでに、ハイヒールやらストールやらいろいろ手渡されたため、かなりの量にはなったが、

 何度か往復して、全てを個室の中に入れたのだった。

















「あれ、さんは?」

「今、ちょっとした野暮用で席を外しています」




 報告書を提出に来たアベルとは、が愛用しているティーセットがあるのに、

 持ち主が不在していることに疑問を持っていた。




「珍しいな、がお茶中に席を外すだなんて。……あのドレスは?」

「ああ、次の任務用のものです」

「次の任務? ……確か、あるパーティーに乗り込むヤツ、でしたっけ?」

「ええ。……そう言えば、あなた達も任務についてもらうことは言ったかしら?」

「聞いてますよ、ミラノ公。確か、ガルシアとイクスも一緒だとか」

「その通りです。……ちょうどいいタイミングで着替え終わったようですね」




 カテリーナの言葉に、アベルとは首を捻ったが、

 後ろの扉から姿を現したを見てすぐに把握した。




 赤いドレスの上に、赤のシースルーのストールをつけ、

 胸は大きく開いて、裾にスリットが入っている。

 その上、いつも通りに髪を高い位置で縛っているため、うなじがはっきりと見える。




「アベル! ! いつからここに!?」

「今さっき来たばっかだ。しかしお前……、そんなに男に飢えているのか?

「そんなわけないでしょう!!!」




 本当はどっ突きをしたいところだが、この格好でしたら下品になるため、

 は何とかして感情を押さえ込んだ。

 そしての横にいるアベルに目を向けると……。




(……駄目だ、完璧に固まってる)




 目のやり場に困る前に、予想外の格好に硬直してしまっているアベルに、

 思わず苦笑してしまうのは言うまでもない。

 ましてや、めったに身に付けることのない赤い服なため、かなりの衝撃を受けているらしい。




「よく似合っているけど、アベルが固まってしまったら任務にならないわね」

<ですわね。……大丈夫ですか、アベルさん?>

「……へっ、あっ、はい! 大丈夫ですよ、ケイトさん。私は大丈〜夫〜〜」

「本当かよ、それ……」




 慌てたように立ち直るアベルに、が呆れたようにため息をつく。

 ケイトは苦笑し、カテリーナが少し残念そうな、でも何だか楽しそうな顔をして、

 ある意味犠牲に合ったは半分諦めの表情を見せていた。




「とりえあえず、カテリーナ、着替えていいかしら?」

「あら、もう着替えてしまうの?」

当 た り 前 で す ! !  ……それに、他のも着てみたいし」

「分かりました。……ああ、出来れば、アベルが硬直しないものでお願いね」

「勿論よ。……ああ、2人とも、よかったら紅茶、好きに飲んでいいわよ。

茶葉は外してあるから、これ以上濃くなることないし」

「そうか? それじゃ、お言葉に甘えてご馳走になるか。なあ、ナイトロード?」

「えっ? あ、ええ、そうですね、はい……」




 相変わらず目のやり所に迷っているアベルを見て、は思わずため息が漏れてしまった。

 確かに、ここまで胸が開いていて、スリットまであるのだから、

 彼の行動は決して間違ってはいないのだが。




(とりあえず、着替えてこよう)




 くるりと向きを変え、スタスタと先ほどの部屋に戻っていく。

 そしてなぜか、覚悟を決めなくてはいけないと心に誓ったのだった。






 結局、一番露出の少ない――だが、それでも胸は開いているが――白いドレスで落ち着いたのは、

 それから数分後のことだった。



















幸里さんのところで出た案をもとに、こんなものを書いてみました。
別名「カテリーナ、で遊ぶ」(え)。

実は、こいつには後日談があるのですが、それはまたいつか。
内容が内容なだけに、今回はお蔵入りです。
時期を見て公開する予定です。
お楽しみに。

しかし、の一言、いいなあ〜(それかい)。





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