小高い丘から眺める景色は、まさに絶景だった。

 しかしの故郷より、華やかさが足らないようにも感じていた。




「そんなところにいたのね、




 背後からの声に、はゆっくり振り返る。

 そこに見えるのは、いつもと違う格好をしている同僚の姿だった。




「……明日は台風が来る、とかじゃないよな?」

そんなわけないでしょう! ミサが終わったばかりで、着替える暇がなかったの!」




 尼僧服を来ただけでそう言われるのには慣れているはずなのだが、

 ほとんどの同僚達にはすでに定着していることなので、

 久々に聞いた言葉に思わず反応してしまった。



 大人気ないと思いつつ、の横に腰掛ける。

 丘に吹き荒れる風が、とても心地いい。




「ここに来ると、本当、心が休まるわね」

「ああ。……けどやっぱ、あそこには敵わないな」

「知ってる」




 自分の祖国を訪れたことがあるだからこそ言えることだと、

 は心の中で思った。

 そしてそこにいる、彼女と共通の知人がいるからこそ、

 こういう話が出来るのだと。




「恋しくなったの?」

「さあな。恋しくなっても、もう俺はあそこには戻れないし。俺にとっては、もうここが故郷のようなもんだ」




 自分の存在は、祖国ではすでに抹消されている。

 友も、そして幼馴染みも、もう自分はこの世にいない存在へとなっている。

 だからもう、戻れないのだ。






「……もしかしたら、心のどこかでは戻りたいと思っているのかもしれない」




 それでもやはり、帰りたい。




「戻って、俺の存在がまだここにあることを伝えたいのかもしれない」




 それでもやはり、友に会いたい。




「戻って、あいつらの不安を取り除きたいのかもしれない」




 それでもやはり、幼馴染みに会いたい。






「でも、それが出来ないんだ」




 自分はここに、いなくてはいけないから。




「俺には、やらなくてはならないことがあるから」




 そう。やりとげなくてはならないことがある。




「約束を果たす義務があるから」




 その約束を破るわけにはいかない。




「そしてこれは、俺が選んだ道だから」




 だから、突き進まなくてはならない。




「もう、止められないんだ」




 誰にも、止めることなど出来ないのだ。






「そこまで言うなら、やり通しなさい」




 横から聞こえる柔らかな声に、がふと視線を向ける。

 そこに見えたのは、あの「天使」にも似た笑顔だった。




「私にはね、ある教訓があるの。『今自分がやれることを、やり通しなさい』っていうね。だから、

がそれを望むのであれば、自分が満足するまでやりなさい。私は止めたりなんてしないから」




 逆転であるはずの太陽の光が、の体を包み込んでいるように見える。

 だがそれは、決して眩しく感じなかった。

 むしろ温かく、優しかった。




「……言われなくても、そうするさ」




 素直にその気持ちを言えず、つい反抗的な答え方をしてしまう。

 それが分かっているからか、は何も言わず、かすかに笑うだけだった。




らしい答えで、安心したわ」




 その場に立ち上がり、さっき来た道を戻っていく。

 その姿を、は見ようとはしなかった。




「本当は、あまりにもミサの出席率が悪いから、忠告しに来たんだけど、今日だけは見逃してあげるわ」






 それだけ言い残し、を残し、丘を後にしたのだった。



















Hoobustanckの「Good Enough」をもとに書いた話でした。
このバンドの曲は全部いいので、作業中にBGMにしていました。

がこんな話が出来るのも、彼の大事な人をよく知るだから出来ることだと、
私は勝手に解釈しています(違ってたらごめんなさい、幸里さん/汗)。
そして、の中での名言がここにも登場。
この言葉があるから、自身も頑張れるのでしょう、たぶん(え)。

本当、、書きやすくて好きだわ(そんな理由って……/汗)。





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