「く〜っ、今日もいい天気〜!」 報告書の提出を終えたが、1つ伸びをして、長い仕事を終え、 ようやく迎えた休暇をどうやって過ごそうかと思いながら、中庭の前の通路を通っていた。 「あれ、あの人は……」 中庭の隅にあるテーブル席で、1人の女性が左肘を突き、掌にあごをのせ、 目の前にある電脳情報機とにらめっこしていた。 どこだで見たことあるのだが、はなかなか思い出せない。 「う〜ん、誰だったかなぁ〜……」 とりあえず、見えやすいところまで行こうと、彼女はそっと中庭に入り、 彼女の横にある木の影に隠れた。 茶色に黒メッシュの長いストレートヘアーの髪を高い位置で縛り、青と緑の瞳が輝いている。 身長も、ざっと170cmは超えている。 「きれいだなぁ〜……」 「ここで何をしている、シスター・」 「きゃっ!!」 突然、後ろから声が聞こえ、彼女は思わず叫んでしまう。 叫んだ相手の方へ振り向くと、そこにはいつもと変わらない表情のトレスが、 彼女の顔を上から見上げていた。 「ト、ト、トレス!!」 「卿はここで何をしている。入力を」 「えっと、その、あの……」 「誰かが覗いていると思ったら、あなた達だったのね」 が少し焦ったようにトレスを見つめていると、 今までテーブルに座っていた女性が、2人のもとにやって来る。 遠くから見てもきれいだったが、近くでもきれいだなぁと思いつつも、 心の中では何を言おうか悩んでいる。 「トレスがこーんなかわいい子と一緒にいるなんて、珍しいわね。どういう風の吹き回し? 明日は嵐かしら?」 「卿の発言意図が不明だ。再入力を、シスター・」 「それぐらい珍しいってことよ」 トレスの言葉を聞いて、が思い出したように、相手の女性の顔を見た。 Ax派遣執行官“フローリスト”、・キース。 「神のプログラム」と呼ばれるものを使いこなす、Ax一の電脳調律師だ。 それ以外にも、いろいろ隠された能力があるのだそうだが……。 「ところで、あなたは確か……、“ヴァルキリー”よね?」 「あ、はい! ・イシュトーといいます! 初めまして!!」 「こちらこそ、初めまして。コードネーム“フローリスト”、・キースよ。よろしく」 の笑みは、まるで天使のようで、は思わず見とれてしまう。 こんな人、今まで会ったことがない……。 「よかったら、一緒にお茶しない? 今朝、アルビオンから積み立てダージリンをもらったの。 1人で飲むのも勿体無いから、誰かを呼ぼうと思っていたのよ」 「え! 私なんかでいいんですか!? あ、でも今、お仕事中じゃ……」 「ああ、あれは趣味。というか癖」 「癖?」 「そ。だから、気にしないで。トレスもよかったら、一緒にどう?」 「俺は今、哨戒中だ。卿らと一緒にいる時間はない。それに、俺は機械(マシン)だ。消化器官などない」 「そう、それは残念」 「俺は哨戒に戻る。シスター・。怪しい行動は慎むことを推奨する」 「分かっているってば!」 相変わらず緊張の糸がほぐれないを背に、トレスはそのまま中庭を出て行き、 彼女はと2人きりになった。 心臓の鼓動が、なかなか止まらない。 「そんなに緊張しないで……、って言っても、無理っぽいわね。とりあえず、お茶にしましょ。 話している間に、緊張もほぐれるわ」 「あ、は、はい!」 そしてとの、不思議なお茶会が始まったのであった。 テーブルに招待されたは、少し固まったようにチョコンと座ると、 は彼女の前に、1つのティーセットを置いた。 「わ、すごくきれいなティーセット……」 「昔、“教授”がくれたのよ。アルビオンは、紅茶が有名だからね」 「そう言えば、さん、紅茶、好きなんですか?」 「紅茶集めが趣味なのよ。私って、紅茶がないと、どうもダメでね。時間を見つけては、 こいつを動かしながら作業しているのよ」 「そうなんですね」 柔らかに微笑むに、は思わず見とれてしまう。 きっと、彼氏とかもいるんだろうなぁと思いながら、が淹れた紅茶を口に運ぶ。 「……すごく、おいしい」 「でしょ?」 「はい。何かこう、緊張がほぐれるというのか……、すごく温かいです」 「紅茶はね、安らぎを与えてくれるのに丁度いいのよ。疲れている時にはミルクティー、シャキっとしたい時 にはストレートティーって飲み返るといいのよ」 「そうなんですね。あ、でも、アベルだったら、砂糖大量に入れるから、意味ないですよね」 「そうなのよ。本当、低血糖な人は困るわ。昔っからあーなんだから」 が呆れたように言うと、はそんな彼女を見て、思わず笑ってしまった。 「……ようやく笑ってくれた」 「え?」 「会ってからずっと笑ってなかったから、笑ってくれて安心したのよ」 「あ、そう言えば……」 照れたような顔をするを見て、が思わず笑ってしまう。 そして知らない間に、2人とも一緒になって笑い始めたのだった。 少し気が緩んだのか、その後、2人の会話は弾んでいった。 は電脳情報機の電源を入れっぱなしなのを忘れそうになって、急いで電源を切ったのだが、 それからもずっと、2人の会話は耐えることがなかった。 「おや、さんとさんじゃないですか」 会話の声を聞きつけてか、遠くからアベルが声をかけてきた。 「あら、アベル。確か、仕事があったんじゃなかったの?」 「昨日、戻ってきたんです。今、カテリーナ様に報告書を提出してきた帰りでして」 「そうだったんだ。お疲れ様♪」 ここに立っているのもあれだから、ということで、が自分との間の席を奨めた。 アベルがそこに腰掛けると、目の前にある紅茶が気になったようで、に聞いてみる。 「新しい紅茶でも手に入れたのですか?」 「うん。今朝、到着したばかりなのよ。どうして分かったの?」 「さんが新しい紅茶を手に入れたときは、決まってそのティーセットですからね。分かりますよ」 「え? そうなんですか?」 「特に気をつけたわけじゃないんだけど、自然とそうなっちゃったのよね。やっぱ、新しい紅茶には、 高貴なティーセットで、って思っちゃって」 アルビオンのティーセットは高価で、すぐに手に入るような代物ではない。 以前から欲しいと言っていたのために、 “教授”が彼女の誕生日にプレゼントしたものなので、 なおさら大切なものでもある。 「さん、私にも少しもらえないでしょうか?」 「ダメよ。この紅茶はね、ストレートで味わう紅茶なの。砂糖13杯も入れたら、味が消えちゃうわよ」 「え〜! そんな、私だけ、仲間外れですか!!?」 「アベルだけのために、ミルクティー用の紅茶を淹れるわけにもいかないわ。諦めなさい」 「そんなぁ〜!!」 アベルとの会話を、はすごく驚いたように見ていた。 仲がいいというか、お互いを知りつくしているというか、 そんな雰囲気を感じたからだ。 「じゃ、さん。今度のアップル・アニバーサリーには、ミルクティーにして下さいね」 「仕方ない、そうしますか」 「え? アップル・アニバーサリー?」 「年に1回やっている、イベント、みたいなものです。主催者はさんとケイトさんで、 毎回、さんがアップルパイを焼くんですよ」 「え〜! そんなのがあったんですか!?」 「そう言えば、は仕事で、あまり会うことがなかったのよね。今年はタイミングが合えばいいんだけど」 アップルパイは、の十八番ケーキだ。 そのケーキを振舞うのが、この「アップル・アニバーサリー」なのだ。 「よし、今年は仕事入れないようにしなくては!」 「すべては、猊化次第ね」 「そうですよ。カテリーナさん、容赦なく入れる方ですから。手強いですよ」 「大丈夫! その日は仮病してでも入れないから!!」 「バレないように気をつけてね、」 が作るアップルパイのために仕事を入れないようにしようと頑張るを、 はほほえましく見つめているのだった。 |
幸里さんの三次版権BBSに初出ししたものを加筆・修正したものです。
当時のものは見せられません。
見るに耐えないので(汗)。
実はこの作品、サイトがオープンしたばかりのころに書いた作品で、
今後、ちゃん夢を書くきっかけにもなったものです。
さらに言うと、これ自体の話が浮かんだのは、
過去編(下書き)を書き終えた後だと思います(爆)。
今の私なら絶対出来ないことをしてしまったことに、頭があがらなくなりそうでした。
(自分でやったんだろう)
(ブラウザバック推奨)