さん。もし自分と同じ人がもう1人いたら、どうしますか?」




 からの突然の質問に、は紅茶を注ぐ手を止めてしまった。

 一体、どうしてそんなことを思ったのだろうか。




「何かあったの、?」

「あ、いいえ、別に何があるとかじゃないんですけど、何となくそう思って……」




 思い当たる節はあった。

 だがは、それを言おうとはしなかった。




 自分はの発言から何かを得たいのではない。

 ただ単に、純粋に聞いてみたかっただけなのだ。

 なら、理由なんて言う必要なんてない。

 そう思ったからだ。




「そうねえ、もしもう1人いたら……、……祖国に帰らせるわね」

「祖国って、さんのですか?」

「そう。で、私が向こうでやりかけたことを代わりにやってもらうわ」




 そう言えば、の祖国のことは聞いたことがなかった。

 彼女が一度もその話をしたことがなかったからというのもある。

 確か毎年、年初めになると、日帰りで帰っているという話を、ケイトから聞いた覚えがある。




「ああ、あとはそうね、私の代わりに任務に行ってもらおうかしら。そうすれば、私はここで

ゆっくりお茶を楽しめるしね」

「何だか、さんらしいですね」

「でしょ?」




 の笑顔を見ると、どうしてこんなに安心するのだろう。

 いつもは、そう思い続けていた。

 今もなぜか、不思議と肩の力が抜けている。




「……でもね、。いくらもう1人いても、全く同じ人なんていないと思うの」




 差し出された紅茶を口に運ぶ手が、自然と止まってしまう。

 そして、春の風に吹かれた髪をそっと払うへと視線を向ける。




「私には、もう1人の『私』が知らないことをたくさん知っている。に対する想い、

Axに対する想い、そして、愛する人に対する想い。どれをとっても、私にとって大切なものであって、

もう1人の『私』にはない感情なの」

「それじゃ、その、もう1人の『さん』しか持ってない感情があってもいいってことですか?」

「もちろんよ。だから、外見が同じでも、この想いだけは私のものなのだから、同じ人なんていないのよ」




 外見が同じでも、この場にいるは1人しかいない。

 こうやって優しい笑みを向けるは、ここに1人しかいない。

 の言葉1つ1つを、自分の心に刻んでいく。




「もし……、もし私と同じ人が現れたら、さん、どう思いますか?」

「だから、同じ人はいないって、言ったでしょ? ここにいるは『1人』しかいない。だから私は、

きっと別人と思って接すると思うわ」

「本当、ですか?」

「ええ、勿論。私の知っているは、あなたしかいないんだから。ね?」




 再び向けられた微笑みが、の心をそっと包み込む。

 まるで、自分の中にある不安を忘れさせてくれるようだ。






「……ありがとうございました、さん」

「お礼言われるようなことした覚えないけど、どういたしまして、と言った方がいいのかしら?」






 の淹れてくれた紅茶の味と微笑みの温かさが重なり、

 は自分の心に春の訪れのようなものを感じていた。

















「もし同じ人が2人いたら」という話になって、浮かんだ作品です。
半分ぐらい、自分の意見も混じっているんですけどね。

ちなみに私の場合、もう1人を本業に出勤させ、
私はひたすら作業に没頭することでしょう(笑)。
もう1人がしっかり仕事しすぎるのも困りますけどね。
ほどほどでお願いね(滝汗)。





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