「さん? これって、一体どういうことですか?」 「それは、中に入ってからのお楽しみ。みんな、準備も万端だしね」
薄紫色のカクテルドレス、今までつけたことのないようなアクセサリーに、 少しヒールが高い靴を履いたが、 同じように白のカクテルドレスに身を包んだに疑問をぶつける。 しかしはそれに答えず、長官執務室のドアを開けた。
「みんな、が来たわよ!」 「お、来た来た。……Happy Birthday、!」 「「「「「Happy Birthday!!!」」」」」
中に入ると、レオンの声とともに、 ドレスアップしているアベル、トレス、ケイト、“教授”、そしてカテリーナが、 に向かってクラッカーの紐をひいた。 その光景を、は唖然として見つめていた。
「こ、これって……」 「あら、自分の誕生日を忘れてしまったの、?」 「近頃、いろいろバタバタしていて忙しかったですから、そうなってもおかしくないですよ」
とアベルの言葉に、は思い出したかのように、 執務室の中にいる全員の顔を見つめた。
……確かに、今日はの誕生日だった。 毎年、しっかり覚えているのに、今年はすっかりと忘れてしまっていたのが不思議なぐらいだ。 他人に指摘されたことに、少し恥ずかしさを感じる。
「……ごめん、すっかり忘れてた」 「そうだと思っていたよ。さ、君、ここに座って」 「あ、は、はい……」
“教授”に奨められたソファに座ると、それを囲むように他の者達が腰を下ろす。 目の前にはホール型の誕生日ケーキが用意され、上にたくさんのフルーツが盛られている。
「全員、シャンパンは行き渡りましたか?」 「はい、大丈夫です」 「トレスは形だけでいいから、参加してね」 「了解した」
全員がシャンパンを持ち(はジュースだが)、“教授”の音頭で乾杯の合図をする。
目の前にあるケーキの火を消して、周りから歓声が上がると、 が少し照れ恥ずかしそうに笑っていた。
「それでは、君へのプレゼント贈呈に行こうかね。まず最初は猊下から」
“教授”に言われ、少し離れた位置にいた赤いドレスを着たカテリーナが その場に立ち上がり、の横に立つ。 上司だからということもあってか、はすぐにその場に立ち上がったが、 それを止めるように、彼女の肩に手を置いた。
「今日はあなたが主人公よ、。私に気を使う必要はありません」 「でも、カテリーナ様……」 「今日の私は、あなたを引き立てるのが役目。あなたはここに座っていなさい」
カテリーナが優しく微笑むと、誕生日を祝うように額にそっとキスをして、 が少し、顔を赤らめた。
「私の誕生日プレゼントは、そのドレスですよ、」 「え! こ、これですか!?」 「そ。少し大人びたかと思ったのですが、予想以上に似合っていて安心したわ」 「いえ、こんなにいいもの……、私なんかがもらっていいんですか?」 「勿論ですよ、。そして、誕生日おめでとう。これからも大変なことがたくさんあるけど、 体に気をつけて、任務についてくださいね」 「はい。……本当に、ありがとうございます!」
椅子に座りながら頭を深々と下げると、カテリーナは優しく微笑み、 自分の席へと戻った。
「次は……、そうだな、アベル君だね」 「はい。……さん、お誕生日、おめでとうございます」 「ありがとう、アベル」
カテリーナ同様、の横まで来て、額にそっとキスをするアベルの姿は、 彼にしては珍しい白のスーツ姿だ。
「私からのプレゼントは、今、さんが穿いてらっしゃる靴です。ちょうど、 お給料が出たばかりでしたから、いいものが買えてよかったです」 「で、でも、本当によかったの? 大丈夫なの??」 「心配することないぜ、。こいつはそんなに簡単に死ぬようなヤツじゃねえし」 「それもそうね」
少し心配そうな顔をしたを、レオンとがカバーする。 事実、アベルの代わりにお金を払ったは、いつそのお金が返ってくるのかが気がかりなところだが、 今回はの誕生日ということもあって、大目に見ることにしていたのだった。
「と、いうことで、何も心配することはないですよ」 「……本当?」 「ええ」 「……ありがとう、アベル。少し歩きにくいけど、大人になった気分で嬉しい」 「そう言っていただけて、私も嬉しいですよ」
アベルがに優しく微笑むと、もそれを返すように微笑み返す。 それを確認したアベルが席に戻ると、体に似合わないグレイのスーツ姿のレオンが立ち上がった。
「さて、俺からのプレゼントは……、今、の髪にささっている髪飾りだ。 ま、これは俺からと言うより、ファナからなんだがな」 「ファナちゃんから? 私に?」 「ああ。どうしてもお前にプレゼントしたくて、婦長さんと一緒に作ったそうだ。 で、今回は俺が代理で渡すことになったわけだ」 「そうなんだ。すごいな、ファナちゃん……」
髪飾りのビーズで細工されているところに触れて、はその細かさに驚かされる。 今度会ったら、何かお礼をしなくちゃいけない……。
「レオン、ありがとう。こんなプレゼント、生まれて初めてもらったよ」 「お礼なら、今度ファナに会った時に言ってやってくれや。俺自身は何もしてないわけだし」 「でも、これを届けてくれたレオンにもお礼がいいたい。……ありがとう」
の笑顔に、レオンがヘアスタイルが崩れない程度に髪をクシャクシャッとして、 スタスタと元の席に戻っていく。 そしてそれと同時に、ケイトがの側へやって来た。
<さん、お誕生日、おめでとうございます> 「ありがとう、ケイト」
の額触れるようにキスをすると、ケイトはにそっと微笑む。
<私の誕生日プレゼントは、そのブレスレットです。さん、 星とかすごく好きだとおっしゃっていましたので> 「うん! 私、このブレスレット、すぐに気に入ったもん! すごくかわいい♪」 <ありがとうございます。さん、これからはあまり無理をしないで下さいましね。 あたくし達が、いつでもそばにいますから」 「ケイト……、……ありがとう」
ケイトがその場から離れ、次に動いたのはだ。 お約束のように額にそっとキスをすると、 は彼女の耳についているイヤリングを見つめた。
「イヤリング、重くない? 大丈夫?」 「いえ、全然問題ないです! もしかして、これがさんの?」 「そ。普段、あまりイヤリングとかつけてないから、ちょっと心配だったのよね」
羽の形をしたシルバーイヤリングは、頭を動かすたびに小さく揺れている。 薄紫のカクテルドレスにもピッタリ合っている。
「でも、よく似合っているわ。私、アクセサリーとか選ぶの、得意なのよ」 「そうなんですね。私、こういうの、ちょっと疎くて。よかったら、いろいろ教えてくれませんか?」 「もちろんよ、。喜んで。そして、誕生日おめでとう。今度また、一緒にお茶会しましょうね」 「はい!」
はに優しく微笑んで自分の席に戻ると、 アルビオン紳士らしいタキシード姿の“教授”が立ち上がり、の額にキスをしてから、 手にしていたピンクの薔薇の花束を彼女に渡した。
「この薔薇の花束は、ローマ大学内にある薔薇園に咲いている薔薇でね。管理している人の許可を貰って、 積んだものなんだ」 「そうなんですか!? すごく、かわいい〜!!」
の喜ぶ顔を見て、“教授”がの頭を撫で、そして言った。
「その薔薇を好む人は多いが、その中にヴァーツラフもいてね。彼は昔、 よくこの薔薇に水を上げるだけのために大学へ顔を出したことがあった」 「え! 師匠が!?」 「そう。だからどうしても、君に見せたくてね」
ハヴェルが愛したこの薔薇を、はそっと包み込む。 きっと昔、この香りを嗜みながら、彼は神に祈りを捧げていたのかもしれない。
「ウィリアムおじ様……、ありがとうございます。私も今度、その薔薇を見に行ってもいいですか?」 「勿論だとも。君だったら、大歓迎だよ」
“教授”がに約束を交わすと、 カテリーナの横にいたトレスが動き、の横に立った。 黒のジャケットスーツ姿がよく似合っている。
「シスター・。俺からのプレゼントは、卿が今しているペンダントだ」 「えっ!? このペンダント!?」 「肯定。物はシスター・がいくつか用意したが、決めたのは俺自身だ」
小さなピンクの石に羽がついているペンダントを見ると、は驚いたようにトレスを見つめた。 事実、彼女の一番のお気に入りは、まさにこのペンダントだったからだ。
「本当、すごく嬉しいよ。あまりトレスからプレゼントとかってもらったことないから、 なおさら嬉しい。……ありがとう」 「無用。今日は卿が生まれた日。祝うのは当然とことだ」
トレスがそう言うと、他のメンバー同様、額にキスをするのかと思った。 しかし、トレスは額を通り越し、の頬にそっとキスしたのだ。 そのことに、の顔が赤くなっていくのがよく分かった。
「ト、ト、トレス!?」 「俺はシスター・の指示通りに実行しただけだ」 「さん!!」 「いいじゃないの、。今日は誕生日なんだから」
まさか本当にやるとは思っていなかったが冷汗をかきながら言うと、 横にいたアベルへ、誰にも聞こえないように話し始めた。
(……本当に指示通りやる人なのね、トレスって) (だから、言ったじゃないですか。ま、結果的によかったのかもしれませんがね) (まぁね)
「ささ、全員のプレゼントが行き渡ったようだし、君からも一言もらおうか」
まだ少し顔を赤らめているを見ながら、“教授”が指揮を取るように言う。 は少し慌てたようにその場に立つと、大きく深呼吸をして、 前にいる者達に話し始めた。
「皆さん、今日は本当にありがとうございました。こんなに大勢の人にお祝いされたことが なかったからちょっとビックリしたけど、でも、とても嬉しかったです。本当、ここにいて……、 よかったと思いました」
知らない間に、の頬に涙がつたっていく。 止めようと思っても止まらなくて、どんどん流れていく。
「ごめんなさい。本当はちゃんと、話したいのに……、ただただ嬉しくて嬉しくて、 それしか言葉が出てこないんです。本当に、本当に、ありがとうございました。 これからも不束者ですが、よろしくお願いします!!」
が深々と頭を下げると、周りから拍手が沸き起こる。 ゆっくりと頭を上げて、自分を祝ってくれる人達の顔が見え、 は自然と笑顔になっていった。
最高の日を与えてくれて、ありがとう。 は心の中で、そう呟いた。 |
幸里さんのお誕生日の時に、
三次版権用BBSに更新したものを加筆・修正したものです。
でも、当時とそんなに変えてないので、ちょっと新鮮、かも?
この話は「KNOW FAITH」の後にあった話なので、
ヴァーツラフがいません。
ユーグもいませんが、彼はまだ入院中です。
頑張って治せ、ユーグ(笑)。
ちなみにこれには、ちょっとしたこぼれ話があるのですが、
それは今年の誕生日にでも書こうかと思います。
ギャグになりそうですが(笑)。
(ブラウザバック推奨)