AM11:00。との約束のため、

スフォルツァ城の玄関ロビーに設置してあるソファに座って待っていた。



 この日、はいつもの僧衣ではなく私服だった。

が「その堅苦しい格好を解いて来なさい」と言われたため、常備してあったもの、

それも以前、が彼女にプレゼントしたものを着込んできたのだった。



 数分後、誰かが階段を下りる音がして、はすぐにその方向へ視線を向けた。

そしてそこから現れたの姿に、思わず声を上げてしまった。




さん、きれい……」




 紺のニットの上にベージュのジャケット、淡いクリーム色のレーススカートに、

黒が混じったシルバーのパンプスといった出で立ちのに、

は見とれてしまいそうになった。

普段は縛っている髪も、今日は両側に細い三つ編を編み、

それを後ろで1つにまとめている。




「来てたのね、。待ったかしら?」

「いいえ、大丈夫です! さん、昼食の準備もしていたんですし、仕方ありません」




 ピクニックに行こうと言い出したのはだった。

先日のスフォルツァ城での事件のこともあり、疲れきっている体を解き解そうと呼びかけたのだ。

本当はミラノに来ているアベルとレオン、トレスも呼ぼうと思っていたのだが、

アベルとレオンはファナの見舞いへ行き、

トレスはいつも通り哨戒をしなくてはならないということで、だけになったのだった。




「あら、私がプレゼントした服を着てきてくれたのね? よく似合っているわ」

「ありがとうございます。ただ、ネクタイとかつけたことがないから、うまく縛れているかちょっと心配で」

「私も、ネクタイは嫌いなのよ。ほら、前着ていた軍服がネクタイだったでしょ? 毎回面倒臭くて、

何度つけるのやめようかと思ったわよ」




 白のシャツに、十字架が描かれたネクタイをつけ、

その上に紋章らしきものが胸についている黒ジャケットを羽織り、

黒のハーフパンツに、白と黒のゼブラ模様のハイソックスに黒の革靴を履いたを、

は満足したように見つめていた。

どうやら、彼女の想像通りの姿らしい。




さんもとてもきれいです。やっぱりスカート、お似合いですね」

「普段はパンツの方が多いけど、たまにはいいかなって思ってね。だって、

スカート似合うと思うわよ。赤チェックのギャザースカートとか似合いそうなのに」

「そ、そんなことありません! 私なんかより、さんの方が――」

<お互いの褒め合い合戦してどうするのですか、お2人とも>




 突然聞こえた声と共に姿を現したのは、

彼女達と同様、ミラノに滞在していたケイトだった。

彼女は主不在のスフォルツァ城の留守を預かっているため、

の誘いをやむなく断っていた。




「ケイト、本当に1人で大丈夫?」

<あたくしのことは心配する必要ありませんから、今日はゆっくり羽を伸ばしてきてくださいまし。

さんも先日のことがあるのですから、ゆっくりして来て下さいね>

「ありがとう、ケイト! 行って来ます!」

<行ってらっしゃいませ、さん>




 元気よく玄関へ走っていくを見て、ケイトもも安心していた。

先日の事件のことで、2人とものことが心配で仕方なかったのだった。

一足先にローマへ戻ったカテリーナからも、

彼女をゆっくり休ませるように言い伝えられていたため、

この計画を立てたと言ってもおかしくないぐらいだ。




「じゃ、あとはお願いね、ケイト」

<はい。さんも、さんのこと、お願いしますわね>

「了解。行って来ます」

<行ってらっしゃいませ>






 元気よく外へ飛び出すを追いかけるようには玄関へ向かう。

 そんな彼女達の姿を、ケイトが後ろから手を振りながら見送ったのだった。

















 車窓から見える景色に目を奪われながら、

が運転する車の中でリラックスしているようだった。

そんな彼女を横目に、は少し微笑みながら車を運転していた。



 目的地であるセンビオーネ公園は、スフォルツァ城のほぼ隣に立地されている公園だった。

しかし、あまり観光地を回ったことがないというのために、

ミラノ駅周辺と、その近くにあるドゥオーモ周辺をドライブしてから向かうことになっていた。




「少し、上を開けましょうか」

「上?」




 不思議そうな顔をしただったが、天上から風が入って来たことですぐに理解した。

車内の天上が窓ガラスに変わり、その窓が少し開いたのだった。




「すごーい! きれーい!」

「春や夏に、ここが開けれたら気持ちいいだろうなぁと思って、昔改造したの」

「それじゃまるでレオンみたいですね」

「よく言われるわ。でも、やり出すと止まらないのよ。ローマで乗っている自動二輪車(モーター・サイクル)も、

すごく改造しているもの」




 天窓から太陽の光が車内に注がれ、自然と温かくなっていく。

優しい春風が、2人をそっと包み込む。

日頃の疲れなど、どこかに消えてしまいそうだ。




「ミラノはよく来ているんですけど、こんな風景があるだなんて、知りませんでした」

「私も、普段はカテリーナの運転手だから、あまりじっくり景色とか見たことがなかったのよ」

「そうなんですか……って、えっ?」




 の発言に、の動きがぴたりと止まった。

いつもなら「猊下」と呼ぶ上司を名指ししたのだから当たり前だ。




さん、今、カテリーナ様のことを……」

「ああ、そう言えば、は知らなかったわね。私、昔から彼女のことをそう呼んでいたのよ」

「そ、そうだったんですか!?」

「ええ。でも、一応普段は上司と部下だから区別してたわけ。……でも、もうやめようと思って」

「やめる? どうしてですか?」

「さあ。……どうしてなのかしらね」




 理由になってない理由に、は首を傾げる。

一体2人の間に、何があったのだろうか。

でもそれを、自分は聞き出してもいいのだろうか。




「……そろそろ」

「え?」

「そろそろ、腹を割って話してもいいんじゃないかって、そう思ったのよ」




 不思議そうに眺めるの顔を察知したのか、

はちゃんとした理由をに述べた。




「普段も結構言っていたんだけど、遠まわしで言うことが多かったからね。だから、

そういう堅苦しいことなんてやめて、正々堂々と話そうと思ったからなのよ」

「そうなんですね。……アベルとか、驚いたんじゃないですか?」

「ケイトとアベルは昔から知っていたし、トレスとレオンもカテリーナの護衛官をしていたことなら

知っていたから、あまり抵抗なかったみたい。――まあ、レオンは少し驚いていたけど。……さ、着いたわよ」




 いろいろ話している間に、車は目的地であるセンビオーネ公園へ到着すると、

は車を降りて、トランクから昼食が入っている籠鞄と、

紅茶が入っている水筒を敷物を取り出した。




「私、水筒持ちます!」

「ありがとう」




 の肩にかかっていた水筒を受け取ると、

はいい場所があるかと公園の中をウロウロと見回し始めた。

春先ということもあって、平日なのにたくさんの人が日向ぼっこをしていて、

なかなか望ましい場所が見つからない。




「どこがいいかな……」




 公園の隅から隅まで見回しているの横を、

はすっと通り抜け、どこかへ向かって歩き出す。

どうやら、もう目的地が見つかっているようだ。




「こっちに、なかなかな場所があるの。行きましょう」

「あ、はい!」




 の後を追うように、が急ぎ足で歩き出す。

そんなの歩幅にあわせるかのように、はゆっくりと歩き始めた。




「そんなセカセカ歩いたら、目的地に到着するまでに疲れちゃうわよ」




 優しく微笑んで、肩を軽く叩く。

その笑顔が、不思議とを安心させた。

彼女の笑顔には、本当に助けられてばかりである。



 公園内の広間から少し抜ければ、

そこは人気が全くと言ってもいいほどなく、心地よい風が吹いていた。

まるで、ここだけ別世界のように見える。




「うわー! すごいー!!」

「最近、暇つぶしに散策してたらここにたどり着いてね。……あったあった。あそこよ、




 が指差した方向を見ると、そこはピンクの花がきれいに咲き乱れた1本の木だった。

風が吹くと、ひらひらと落ちる花弁が、その場の風情をより高めていた。




「……きれい……」




 思わず口から出た言葉に、は満足げに微笑み、

木の近くに籠バックを下ろして、大きく背伸びをした。

真下から見るのも、またきれいで見とれてしまう。




「さ、敷物引いて、お昼にしましょう」

「はい!」




 が敷物を広げようとすると、もそれを手伝い、一緒にその場へ広げる。

靴を脱いで、その上に座ると、は早速籠バックの中に入っているサンドイッチを取り出し始めた。

いくつものサンドイッチが並べられていく光景を見ていたの目が思わず輝いてしまう。




「すごい! 美味しそう!!」

「へへ〜、いろいろ作ってみたのよ。ちなみに、パンも手作り」

「パンもですか!? すごーい!!」




 目を輝かすを見ながら、は彼女から受け取った水筒を開け、

籠の中に入っていた2つのマグカップの中に注ぎいれた。

今回は、以前から貰ったウェッジウッドのファインストロベリーだ。




「はい、。これ」

「ありがとうございます。……この紅茶、私が以前プレゼントしたのですよね?」

「そう。今じゃ、すっかりお気に入りよ」




 口に運べば、香ばしい紅茶の香りと甘いイチゴの味が広がっていき、

思わずため息が漏れてしまいそうになる。

一気に力が抜けるようだ。




「さ、早速食べましょう。遠慮しないで、たくさん食べてね」

「はい! 頂きます!!」




 満弁の笑顔で1つのサンドイッチを手にすると、それを口の中に頬張る。

ハムとレタス、ポテトサラダをプレーンベーグルに挟んだものだ。




「美味しい! これ、すごく美味しいです!」

「そう言ってくれると嬉しいわ。ありがとう」




 がほっとしたように笑顔を見せると、

ローストチキンとレタスを食パンで挟んだサンドイッチを1つ取り、それを口に運んだ。

お菓子ほどではないが、料理に自信があっただけに、

の感想がとても嬉しかったのは言うまでもなかった。



 一通り食べ終わり、デザートの苺タルトを用意すると、

の目がキラキラ輝いているのがよく分かり、は思わず笑ってしまいそうになった。

鮮やかな色に食べるのを惜しんでいたが、口の中に広がる優しい味にうっとりしてしまう。




「やっぱ、さんが作るケーキ、大好きです!」

「そう? 私はが作るフィナンシェの方が好きよ」

「そんな、私のなんて、さんのに比べたら……」




 褒められたのが恥ずかしいのか、の頬が赤くなり、それを見たがかすかに笑う。

この顔が、は笑顔と同じぐらい好きだった。



 春の訪れを知らせる風が、2人の体をそっと包み込んでいく。

自然と力が抜け、日頃の疲れが嘘のようになくなっていきそうだった。




「気持ちいいわね」

「本当、気持ちいいですね」




 後ろの木に寄りかかり、上で咲き乱れる花を見る。

時々風に吹かれ、静かに花弁が舞い散り、敷物の上にもたくさん落ちてきた。




「こうやっていると、先日のスフォルツァ城での事件が嘘みたいね」

「…………そうですね」




 の言葉に、は何かを思い出したかのように、花から視線を外した。

そしてそのまま俯き、敷物の上の花弁を見つめていた。

によって癒されたはずの右わき腹が、なぜかひりひりと痛み出しそうだった。

だがそれを察知されたくなかったため、は逆にへ質問することにした。




さん、お体の方、大丈夫ですか?」

「何とかね。そういうこそ、右わき腹の怪我はどう?」

さんのお蔭で、無事に治りました」




 あの時、気絶していたところをレオンに助けられたばかりだと言うのに、

の右わき腹に負った傷を「力」で塞いでくれた。

そのお蔭で大事にいたることなく、こうやって動けるようになった。



 だが今のには、それとはまた別の痛みが広がっていた。

それは、あの暗い地下水路で言った、カテリーナの言葉。






『私にとって、人の命は平等じゃないわ』






「……どうしたの、?」




 急に黙り込んでしまったに、が不安になって声をかける。




「もしかして、傷口が痛むの? そうだったら、すぐに治すけど」

「い、いいえ、大丈夫です。ちょっと、考え事をしていて……」




 「大丈夫」という言葉とは裏腹に、の表情は未だ曇ったままだった。

それを心配しないほど、は冷たい人間ではないが、自分から事情を聞くわけにもいかず、

彼女はが話し出すのを待つことにした。

もちろん、話さなかったら話さないで、それでもいいと思っていた。



 そして数分後、が静かに口を開いた。




さんにとって……、一番大事な人って誰ですか?」




 小さく、でもの耳に入るぐらいの大きさの声で、に問い掛ける。




「一番大事な人、ね……」

「はい。で、もしその人が殺されそうになって、でもその人を殺そうとしている人も大事な人だったり、

今まで慕っている人だったりしたら、その人に銃を向けることが出来ますか?」

「う〜ん、かなり複雑な構成ね……」




 の言いたいことはよく分かる。

しかしは、わざと複雑な顔をして考える振りをした。

それは彼女が何を言いたいのか、何となく分かったからである。




「私にとって、一番大事な人は1人しかいなくて、もしその人が、

仮にに殺されようとしたら……、……私は命をかけて助けるわね」




 にとって、一番大事な人。

それは彼女と最も深い繋がりを持ち、一生を共にすると誓い合った相手――アベル以外考えられなかった。

だから、自分の命を無駄にしてまで、彼を助けたいと思うのは当然のことだった。



 だがには、それ以外のこともしっかりと考えていた。




「でも私はその人を助けるのと同時に、あなたも助けると思う」




 はっとしたように顔を上げたを、が見逃さないわけはなかった。

視線は彼女から離れていても、しっかりとその状況は目に入っていた。




「どうして、ですか?」

「そんな、答えなんて簡単よ」




 空になったコップに水筒の紅茶を淹れる。

のコップも空になっていたので、ついでにその中にもそっと注ぐと、

水筒を置いて、自分のコップを口に運ぶ。



 そして、静かに言葉を紡いだ。




「私にとって、も大事な人だから」

「え?」

「私にとって、も大事な人で、トレスもレオンも、ユーグもケイトもウィルも、

もちろんカテリーナも、みんな大事な人だから。だから何があろうと、絶対に助け出すわ」

「もし……、もし私がさんに剣を向けたら、どうするんですか?」

「そうなったら、あなたが納得するまで相手するわ。……この命に変えてでも、ね」




 の答えに、は驚かないわけがなかった。

いつ暴走するか分からない自分のためだったら命を捧げてもいいと言う、

彼女の言葉が信じられなかった。




「どんな姿になろうと、であることには変わりない。護らない理由なんてないもの。

だから、あなたを殺すようなこともないし、殺されるようなこともさせないわ」

さん……」




 何か音がすると思えば、涙がの頬をつたり、ぽたぽたと敷物の上に落ちていく。

止めようと思っても止まることなく、逆に酷くないっていくのが分かる。



 そんなを見て、はそっと彼女を自分の方へ寄せる。

そして安心させるかのように、下ろしている髪をそっと撫でる。




「……カテリーナ様にとって……、私は大事な人じゃないんじゃないかって、そう思ったんです」




 予想通りの言葉に、は心の中でため息を漏らした。

そして以前から思っていたことが脳裏に浮上していった。



 アベルと自分に対する執着心が、あまりにも強すぎるということに。




「カテリーナ様にとって、一番大事なのはアベルやさんであって、それ以外である私は、

いつかあのヴィスコンティー大尉のように銃を向けられるんじゃないかって……」

「もし彼女がそうしたら……」




 の言葉を横切るかのように、が口を開く。

その声は、どことなく鋭さを帯びているようにも感じる。




「もし彼女がそうしたら、私はを護るわ」

「え?」




 突然の発言に、の目が白黒しているのがよく分かる。

それはにも、十分すぎるぐらい伝わっていた。




「カテリーナは、私にとっても大事な人なの。だから彼女の過ちを正すためなら、

私は相手に銃を向けるわ」

「でも、それで一番傷つくのはカテリーナ様じゃ……」

「あなたは悪い結果ばかりを想像しすぎよ、。時にそれが、いい結果を生むこともあるの。

むしろカテリーナなら、そうなる確率の方が高いと思うのよね」

「そう、でしょうか?」

「私はそう願っているわ」




 の笑顔は、先ほどの鋭さがすっかり取り払われ、温かさを帯びていた。

そしてその目には、何かを確信したかのように輝いて見える。



 は、自分を護ってくれるのは嬉しかった。

嬉しくないわけがなかった。

けどそんな自分に疑問を持っているのも事実だった。



 護られてばかりいる自分が、嫌いだったからだ。




「私は……、いつも護られてばかりで、何の役にも立ててません。いつもみんなに迷惑掛けて、

心配ばかりかけて」

「そんなこと言ったら、私だってそうよ。この前だって、ケイトに怒られたばかりだし」

さんが、ですか?」

「そう。……あ、もしかして、私が怒られたことがないと思ってたでしょ? こう見えても、

人並みに怒られてるのよ」



 意外なことを知ったかのように、の目が点になっているのが分かる。

そしてがケイトに怒られている姿を想像して、思わず笑ってしまいそうになった。




「ケイト、怒ったら止まらなさそう」

「全くよ。毎回、どうやって切り抜けようか悩むもの」



 知らない間に、2人はくすくすと笑い始めた。

その該当に当たっている人物が、今クシャミをしているかは不明だが、

もしそうだったらと思うと、なかなか笑いが止まらなかった。




「……人はね、いつも誰かに助けられながら生活しているの」




 笑いがひと段落すると、はコップに入っている紅茶を口に運んで、に話し始めた。




「人は1人で生きていける生き物なんかじゃない。誰かに助けられ、護られながら生きている。

それはだけじゃなくて、私も同じことなの。だから私も、にすごく護られているし、

助けられているのよ」

「本当、ですか?」

「勿論。きっとみんな、そう思っているはずよ。だから、自分が役に立ってないなんて、

もう言わないで。ね?」

さん……」




 大したことを言っていないのに、なぜか力が抜け、

それが表情として現れていることに、は気づいていただろうか。

だがに寄りかかったところから、ちゃんと自覚していることは一目同然だった。




「ありがとうございます、さん」

「そんな、私はお礼を言われるようなこと、何1つしてないわよ」

「でも、すごく嬉しかったです。……本当に、ありがとうございます」




 笑顔を見せるが、まるで自分の妹のように見え、は思わず顔を綻んでしまった。

そして優しくを抱きしめ、再び髪をそっと撫でた。



 しばらくして、遠くから見慣れた背格好の男が3人近寄ってきて、

はその方向に手を軽く上げた。

それに気づいたもその方向へ顔を向け、驚いたように声を上げた。




「アベルにレオン! それに、トレスも!」

「こんにちは、さん、さん。お花、きれいですね〜」

「お前は花より、が持って来たサンドイッチの方が気になるんじゃねえのか?」

「えっ! いや、そんなわけないじゃないですか、レオンさん! 侵害だな〜」

「あら、だったらあなたの分だけ、なしでいいってことね?」

「そんなこと、言わないで下さいよ、さん〜! 食べたいに決まっているじゃないですか! 

このために、朝食をいつもよりも減らして来たのですから!」

「やっぱり、サンドイッチ目的じゃねえか、全く」

「トレスはどうしてここに?」

「シスター・に、哨戒終了後に合流するように命じられていた。さらに付け加えれば、

本日の予定はすべて終了している」

「それじゃ、あとはゆっくり出来るわね」




 どうやら、もとからここで待ち合わせしていたようで、

は驚きながらも、この騒がしさがとても嬉しかった。

何だか不思議と、温かさを感じていたのだった。




「あ、トレス、例のものは買ってきてくれたかしら?」

肯定(ポジティブ)。卿の指示通り、この公園内にある露店で購入した」




 そう言ってトレスが差し出したのは、1つの紙袋だった。

中には、発泡スチロールのような筒状の容器に入ったものが4つ入っている。




「? 何ですか、これ?」

「見てのお楽しみよ」




 が嬉しそうに取り出し、4つのうちの1つの蓋を開ける。

するとそこから湯気と一緒に、とても温かそうなスープが顔を出した。




「これは、ミネストローネ!」

「そ。前から気になっていたのよね〜」




 は以前から気になっていたように言うが、

本当はがミネストローネのようなトマト料理を食べて、元気を取り戻していることを知っていた。

それで、トレスにお願いして、買ってきてもらったのだ。




「う〜ん、美味しそうな匂いですね〜。トレス君の奢りですか?」

否定(ネガティブ)。あとで各自に請求する」

「ええ〜! そんな、私に払えと仰るのですか!?」

「そうだ。もし払わないのであれば、卿の分はないぞ、ナイトロード神父」

「まあまあ、これは私が払うから、それで勘弁してあげて、トレス」

「おお、さん、ありがとうございます〜!!」




 苦笑しながらが言うと、アベルが遠慮なくミネストローネと、

差し出されたサンドイッチを頬張り始める。

その横で、呆れたような顔をしているレオンと無表情のトレスが座り、

一瞬にしてその場が小さなパーティー会場へと変わった。



 笑い声が木霊する中で、は横にいるをちらっと見つめる。

そして満弁な笑みを零している彼女に、は心の中でポツリと呟いた。






(ありがとうございます、さん)






 今度は自分が、何かお礼をしなくては。

 はそう、心に誓ったのだった。









幸里さんサイトの「BIRD CAGE」があまりにも可愛そうだったので、
に代わりに慰めてもらおうと思って書いた作品。
終始、のお姉さんぶりが発揮された話でもありました。

そして最後は、みんなでピクニックにしてみました。
アベル、食い意地張り過ぎだよ(笑)





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