今日は綺麗な満月だ。 夜空に輝く2つの月のうちの1つを見つめながら、 は中庭へ続く道を進んでいた。 中庭に用があるわけではない。 目的地に行くには、ここを通る以外の手段がなかったからだ。
道の先に見えてきた中庭を見ながら、は空に輝く月を眺めていた。 その光があまりにも光り輝いて見えるため、 思わず足を止めて見入ってしまう。
まるで、何かを発見したかのように光を放つその月は、 いつもより大きく見えるのは気のせいだろうか。
「……あら?」
月から目を離すと、は中庭に設置されているテーブル席に視線を向けた。 そこに座っているのは、いつもは黒の僧衣を身に纏っている同僚の姿だった。 白の尼僧服なのは、先ほどまでカテリーナの護衛役を務めていたからだ。
近づいていくと、彼女は足を組んで、不思議な配色をしている目を閉じていた。 一瞬、眠っているようにも見えるのだが、そうではない。 もっと違う「何か」が見え隠れしていた。
それはまるで、月の力を吸収しているように映し出されたからだ。
「……ボーッとしないで、そこに座ったらどう、?」
どうして分かったのだろうか。 不思議にそう思いながら、は相手の顔を見ると、 そこには先ほどまで瞼で隠れて見えなかったアースカラーの瞳が彼女に注がれた。
「こんばんは、。綺麗な満月ね」 「そうね、シスター・。……ここで何をしてるの?」 「月光浴、といったところかしら。ま、ただ単に、紅茶が飲みたくなっただけなんだけど」
斜め向かい側の席を進められ、一瞬断ろうとしたが、それを止めた。 今すぐに目的地へ向かう必要もないと思ったからだ。
席につくと、月光浴をしていた尼僧――は、 電源が入りっぱなしになっていた電脳情報機に映し出されているプログラム達に、 ティーセットとお茶菓子を転送するように指示を出した。 用意されたティーセットに紅茶が注がれ、手際よくの前に用意されていく。
「今日はケイトが、新しいハーブティのレシピを考案したものだから、それを試飲していたの」 「そうだったのね。……これは、バタークッキー?」 「ええ、昼間に焼いたのよ。猊下のお茶の時間用だったんだけど、少し多めに作ったからね」
は多めに作った理由が分かっていたが、それを口にするのをやめた。 その理由が、あまりにも単純すぎるものだからだ。
「……本当、彼想いなのね、あなたは」 「何?」 「いいえ、こっちの話だから気にしないで」
時々、純粋に1人の男性を愛する彼女が羨ましいと思う時がある。 そして彼も、彼女のことを心の底から信頼している。 深く、繋がりあっている。
「繋がり合う」とは、一体どういう意味なのだろうか。 それによって、人は安心することが出来るのだろうか。 それによって、人は幸せに、なれるのだろうか。 ふと浮かんだ疑問は、少しずつだが大きくなっていく。
「……あなたは今、幸せだと感じてる、シスター・?」 「急に変なことを聞き始めるわね」 「何となくそう思っただけよ」
突然の質問に、は驚いたようにの顔を見入ってしまう。 しかし、どんな答えが返ってくるのか、待ち望むかのように見つめられ、 彼女は軽くため息をつき、再び月へ視線を向けた。
「……『幸せ』なんて、私には無縁な言葉よ」
口から毀れた言葉は、予想外な答えだった。 最愛な人がいて、誰もが認めるほど幸福に満ち溢れているはずなのに、 それでも相手は、この言葉に縁がないと言う。
「私は『幸せ』になってはいけない。許されないのよ」 「それは、どうして?」 「さあ、どうしてなんでしょうね。……とにかく、昔からそういった言葉に縁遠いのよ」
ハーブティを口に運び、ゆっくりと目を閉じる。 まるで、誰かを強く想うかのように見えるの姿に、 は知らない間に自分のことを考え始めていた。
自分にも、「幸せ」という言葉には縁がないのかもしれない。 いや、幸せになれる自信がなかった。 自分が一方的に想っても、それが相手に通じる保証など、どこにもなかったから。 自分が一方的に想っても、相手は特に何も感じないことを知っているから。
「……あなたは、十分すぎるぐらい幸せよ、シスター・」
の言葉に、は目を開いて彼女を見つめる。 今まで自分が思ったこともないことを、彼女が口にしたからだ。
「あなたには、大切な人がいて、その人に愛されている。それだけでも、十分幸せだと思うわ」 「そう……かしら、ね」 「ええ。少なからず……、私よりも幸せなはずよ」
どんなに想っても、どんなに好きになっても、 きっと相手は気づいてくれないだろう。 気づいていたとしても、相手はどうも感じていないであろう。
それが分かっているけど、自分は相手を愛し続ける。 それほど苦しく、辛いものなどない。 けど、この想いに、嘘はつけない。
そう、これ以上の不安は、どこにもない。
「さ、私はそろそろ退散するわ。今日中に明日の視察用の資料をまとめないといけないから」
ハーブティを飲み干し、はその場に立ち上がる。 テーブルに置いた資料を手にし、その場から離れようとしたが、 背後から聞こえる声に、思わず足が止まってしまった。
「あなたには、幸せになる資格があるわ」
その声は、どこか悲しく、でもとても温かかった。
「あなたには、幸せになる資格がある。いいえ、幸せになって欲しいのよ」 「……どうして?」 「あなたは私の……、大事な『同僚』だから」
はっとして振り返り、の顔を見つめる。 自然と胸が熱くなるのは、気のせいだろうか。
「だから、ちゃんと自分の幸せを掴みなさいよ、」
そう言って見せた笑顔が、月に照らされ、より一層に大きく見えた。 そしてその笑顔を、は忘れることなど出来なかった。 |
初共演夢でした。
彼女は最初のうちはAxにいたこともあり、こんな話にしてみました。
との関係は、メッセなどでいろいろ話しましたが、
そのことについても、いずれ短編か何かの形で書いてみたいと思います。
としては、ある意味裏切られた意識があるようですので。
頑張って書いてみます。
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