目の前に木製の天上を見て、さっきの場所とは違うところにいることは分かった。 しかしこの場所の検討がつかず、四方を見回してみる。 どれも見覚えのないものばかりで、頭痛がより一層痛くなるぐらい混乱していた。
そんな中、突然扉が開かれ、は身を固くする。 しかし部屋に入ってきた人物を見た瞬間、その動きもすぐに止まった。
「よかった、目が覚めたようね」
僧衣を来ている姿に一瞬戸惑ったが、教皇庁に入ったことをアストから聞いていたため、 すぐに状況を理解し、上半身を起こそうとする。 しかし予想以上に頭痛が激しく、思わず顔をしかめてしまう。
「無理に起き上がっちゃ駄目よ! まだ熱が下がってないんだから」
すぐに手をかけられ、横に寝かされる。 枕元に落ちていたタオルを広い、ベッドの横にある水が入った洗面器に濡らして固く絞り、 寝かされたの額に置いた。 が、知らない間に掴まれた手によって、それはすぐに阻止されてしまった。
「……悪い……」
雨の中、助けてくれたからじゃない。 頭痛で苦しむ自分の看病をしてくれたからじゃない。 それとはまた別の意味の謝罪が、の口から毀れた。
「俺はレンを……、守れなかった……」
涙が自然と流れ、枕を濡らしていく。 止めようと思っても、あの時の情景を思い出してしまい、なかなか止まろうとしない。
「お前の大事な相棒を……、助けられなかった……」
謝りたかった。 側にいたのにも関わらず、守ることが出来なかったことを、ただ謝りたかった。 それだけのために“外”に出てきた。 それだけのために、雨の中待っていた。
「本当に悪い、……」 「……馬鹿ね、。どうして私に謝ろうとするの?」
いつの間にか、掴んでいた手が離されていた。 そして上半身だけ起こし、優しく、そして強く彼を抱きしめる。 まるで、何かを訴えるかのように。
「それは、お前がレンの相棒だから……」 「確かに、私は彼女の相棒よ。けど殺されたのはあなたのせいでも、アストのせいでもない。 だから、そんなに謝らないで」 「だが……!」 「誰よりも辛いのは……、あなたでしょう、」
の言葉に、ハッとしたように離れる。 どことなく悲しそうで、辛そうに見える顔が、の心を突き刺した。
「目の前で大事な幼馴染が殺されて、一番傷ついているのはあなたのはず。そして私は、 そんなあなたを慰める立場にいる。なのにどうして、逆にあなたに慰められなきゃいけないの?」
どうしてこんなに、温かい言葉をかけてくれるのであろうか。 どうしてこんなに、優しい言葉をかけてくれるのであろうか。 いくつもの疑問が横切りながら、相手の顔を見つめる。
「私は、あなたを責める権利なんてない。責めたりなんてしない。そんなことをしている暇があったら、 先にあなたの風邪が治るように努力するわよ」 「……」 「第一あの雨の中、1人でボーッと突っ立っている方がおかしいのよ。あの時、私が買い物に言ってなかったら、 もっと酷くなっていたわよ」 「……どうしても、謝りたかった」
ポツリと呟き、自分の手に視線を落とすかのように俯く。 目の前に、再びあの時のレンの体が浮かび上がり、思わず強く握り締めてしまう。
「レンが殺されたあの日から、俺はずっと、に謝りたくて仕方なかった。アストからいろいろ 聞いていたけど、それでもこの気持ちだけは変わることがなかった。だから……」 「それだけのために“外”に出てきたっていうの? ……本当、馬鹿なんだから、あなたは」
少し呆れたように言うに、一瞬反論しようとした。 しかし彼女の目を見た瞬間、なぜか動きが止まってしまう。
「いいこと、。いくら“外”に出られるようになったからとはいえ、 私にとってあなたはあの時と何の変わりもないのよ。ただでさえアストに殺されると思っていたのに、 私に謝るだけのために“外”に出て風邪引いたなんて言ったら、余計殺されるわ」 「……確かに、そうかもしれんが……」
目の前に、火花を散らして怒鳴り散らしているアストの顔が浮かび上がり、 思わず口から吹き出してしまいそうになる。 必死になって押さえようとしても、すぐに止まることなんてなかった。
「……やばい、怒り狂うアストの顔が離れなくなった……」 「私は逆に、頭が痛くなったけどね」
そうとは言いつつも、につられるように笑い始め、 まるでさっきまでの暗い雰囲気を一風するかのように、 2人の笑い声が部屋中にこだましていく。 止めようと思っても、なかなか止めることが出来なく、 だんだんお腹が痛くなりそうだった。
「そうそう。さっき、リゾット作ったの、忘れていたわ。持ってくるわね」 「作ってくれたのは嬉しいが、頭痛くて食えそうもない」 「大食いのらしくない発言ね。明日は台風かしら?」 「お前、病人に向かってそんな言い方ないだろうに……」 「こんな時だけ病人ずらするのは止めなさい。それに、こういう時こそしっかり食べてもらわなきゃ困るわ」 「……分かったよ、。食えばいいんだろ?」 「よろしい。それじゃ、持ってくるわね」
いつもの調子に戻って安心したのか、の顔から笑顔が毀れる。 その顔に、なぜか胸が弾ける音がしたのを感じ、思わず顔が赤くなりそうだった。
鼓動が激しくなり、体が熱くなっていく。 熱のせいなんかじゃない。頭痛のせいではない。 他の、別の理由があるはずだ。
もしかして、のことが……、気になるのか?
「まさか……、そんなこと、あるわけないか」
一瞬頭を横切った発言を撤回するように頭を左右に振ると、 それを隠すかのように、再び布団の中へ潜り込み、寝たふりをし始めたのだった。 |
初との共演夢でした。
当時、何故かアベルよりも書きやすいと思ったのは気のせいだったでしょうか(汗)。
今はアベルも書きやすいですけどね。
レンとが相棒同士で、とレンとの関係もあるため、
こんな話があってもおかしくないと思って書いた短編でもありました。
だがそれ以上に、こんなに密着していいのかと思いましたけどね。
近くにアベルがいたら、絶対に妬くことでしょう。
いや、これ以外の共演夢もそうだけど(汗)。
(ブラウザバック推奨)