「本当、ごめんなさい、ヴァーツラフ」

「何、これぐらいは大丈夫ですよ。キリエも、私となら安心ですしね」

「ワン!」

 




 

 結局、万丈一致で、クレアと同じぐらい懐いているヴァーツラフに預けることで事を解決させ、

クレアは少し心配しながらも、ヴァーツラフにキリエを渡した。

キリエがヴァーツラフの胸元で嬉しそうに懐いている姿に、

クレアは安心しつつも、ちょっとだけ嫉妬してしまいそうになる。

 




 

「何か、私よりも懐いてない?」

「嫉妬ですか、クレア?」

「えっ、あっ、そういう意味じゃないんだけど、何となくねえ〜……」

 




 

 少し焦りながら言うクレアを、ヴァーツラフが微笑ましく見つめる。

その間も、当のキリエは安心したように、ウトウトと眠ってしまいそうになっていた。

 




 

「おやおや、もう眠くなったみたいですね」

「先にご飯だけは上げてきたからね。お腹一杯になっているのよ」

「なるほど。それでは、クレアもすぐにトランディスの元へ行って下さい。

アベル1人では、きっと大変でしょう」

「そうね。それじゃ、お願いするわ。キリエ、ヴァーツラフに迷惑かけちゃ駄目よ」

 




 

 今にも寝てしまいそうなキリエの頭にそっと唇を当てると、

クレアはヴァーツラフに別れを告げ、自分の家へ向かって戻り始めた。

それを見送ると、ヴァーツラフは部屋のドアを閉め、中へ入っていった。

 




 

「しばらく、ここにいて下さいね、キリエ」

「クーン」

「大丈夫ですよ。すぐに戻ってきますからね」

 




 

 よほど居心地がよかったのであろう。

キリエはヴァーツラフの胸元から離れるのが恋しそうではあったが、

彼の優しい微笑みを見たからか、大人しくソファの上で待つことにした。

 



 部屋は、ソファとローテーブル、机とたくさんの本が収納されている本棚といった、

非常にシンプルなものだった。

きっと、別室に寝室があったりキッチンがあったりするのだろう。

 




 

「お待たせしました、キリエ。こっちに来て下さい」

 




 

 別室から現れたヴァーツラフが持ってきたのは、

ちょうどキリエの体がすっぽりと収まりそうなぐらいの大きさの籠だった。

淵にはかわいらしいリボンが飾られ、籠の中には布団代わりの小さなタオルケットが何枚も引かれてあった。

見るからに温かそうなその籠の中に、キリエは何の躊躇いもなく入っていくと、

くるりとその中で丸くなり、嬉しそうに尻尾をパタパタと振っていた。

 




 

「どうやら、お気に召したようですね。万が一と思って用意して正解だったようです」

 




 

 実は、クレアとアベルが任務で家を外した時に、いつでもキリエを預けられるように、

ヴァーツラフは彼女用にベッド代わりであるこの籠を随分前から用意していたのだ。

それがこんな形で役に立ってくれてよかったと、思わず胸を撫で下ろしたのだった。

 



 しばらくして、疲れたのか、それとも安心したからなのか、

キリエはゆっくりと目を閉じ、寝息を立てて眠り始めた。

そんな彼女に、ヴァーツラフが膝掛け用の小さな毛布をそっとかけると、

挨拶をするようにそっと頭に唇を当てた。

 






 

 

「おやすみなさい、キリエ。ゆっくり休んで下さいね」

 






 

 

 ヴァーツラフはそれだけ言うと、ゆっくりとその場に立ち上がり、

部屋の電気を消したのだった。

 









 









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