一方、トランディスの方はと言うと、クレアとアベルの家の中で、 アベルにじゃれて遊んでいた。 ……じゃれて、というよりも、アベルが遊ばされていると言った方が正しいのかもしれない。 「ワンワンワンワンワン!!」 「分かりました! 分かりましたから、もう少し大人しくしていて下さい!!」 さすが、帝国の犬。 夜になると元気になるのは同じようだ。 「お待たせ、トランディス〜。ベッド、出来たわよ〜」 リビングの片隅でベッド用にバスタオルなどを積み重ねて完成させたベッドをポンポンと叩きながら、 クレアはトランディスを呼び止めた。 「いいこと、トランディス。ここは帝国と違うんだから、夜になったらちゃんと寝てもらうわよ」 「ウー」 「唸っても駄目! 寝るものは寝るの! いいわね!!」 「ウー」 駄々を捏ねるかのように唸るトランディスに、クレアは半分呆れた顔を見せ、 遠く離れた異国にいる彼の飼い主はよくこの暴れ犬の面倒を見れるものだと、思わず感心してしまった。 しかし、ここは何としても彼には眠ってもらわなくてはならない。 「とりあえず、乗るだけ乗ってみなさいよ、トランディス。寝るかどうかは、 それから決めればいいことだし」 「…………」 無言のまま、とりあえず彼女の言う通りにベッドへ乗ってみると、 ちょうどいい弾力性に力が抜けていくような気分になっていった。 そしてその場にうずくまり、一応喜びを表現するように尻尾をぱたぱたと振って見せた。 「ふう〜、どうやら気に入ったようですね」 「みたいね。……さ、今日はこのまま寝なさい、トランディス。今夜、アストに連絡して、 迎えに来てもらうようにお願い……」 「ワンワンワンワンワンワン!!」 クレアの発言を中断するかのように吠える姿は、まるで拒否をするかのように感じ、クレアもアベルも、 思わず帝国で何があったのか、疑問に思い始めた。 が、犬だからと言えど、彼は帝国で飼われている犬だ。 あの痛く恐ろしい異端審問局に見つかってからでは事が遅すぎる。 「この際、どんなに抵抗しても効果はないわよ、トランディス」 「ワンワンワンワンワン!」 「……まあ、いいわ。今日はこのまま眠りなさい。おやすみね〜」 これ以上言っても霧がない。クレアはため息交じりで言うと、 リビングの電気をダウンライトにして、アベルと共に出ていった。 その姿を見ながら、トランディスは呆れたように鼻で息を一気に吐き、 拗ねるように顎をベッドの上に置いた。 それにしても、予想以上に居心地がよすぎる。 帝国でも、こんなにふかふかの布団で眠ったことがない。 というか、向こうでは外で寝ることの方が多いから、こんなに温かな場所で眠ったことがないのだ。 こうなったら、意地でもここに留まってやる。 トランディスはそう誓い、とりあえず言われた通りに眠ることにしたのだった。 |
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