「到着まで、あと2時間か……。アベル、大丈夫かしら?」
<今のところは大丈夫そうですが、今後、ちょっと心配ですね>


 ケルンの国際空港に向かう飛行船の中、は小型電脳情報機(サブクロスケイグス)からアベルの行方を見ながら、
 イヤーカフスでケイトと交信していた。

 彼女が率いる回収チームの到着予定は、ざっと計算でAM5:00。
 アベルはそれまでの安全を確保すべく、先にケルン入りをしていた。

 探知機なしで相手の居場所を探すことなど、にとっては朝飯前だ。
 今回も同じ手段で、彼女はとっくに居場所を突き止めていた。


「ところで、例のボルジア公子って、あのバレンシア公のご子息なんでしょ? 
彼がいるヒスパニアと言えば、先日、デステ大司教がパイプ役を繋ぐために接触したらしいじゃない」
<ええ。その時に、何らかの方法で公子の手に渡ったとされています>
「一体、どういう経緯で行ったのかしら? ただの公子の興味本位?」
<たぶん、何らか理由があるからだと思いますが……、どうなんでしょうか>
「ま、それもこれからゆっくり解けばいいわ」


 としては、アントニオ・ボルジア公子が何を考えているのか、何となくだが分かっていた。
 そのためだったら、どんなに頭を使ってでも、最善をつくすであろうことも。


「しかし……、これはまた厄介ね」
<どうなさいましたか?>
「新教皇庁(ノイエ・ヴァチカーン)以外の人物のサインが見えるの。おかしいわ、彼、狙われるようなことをした形跡はなかったはず」
<もしかしたら、裏では狙われるようなことをしているかもしれませんわね。第一、彼、
あちこちギャングなどの店も歩いていたようですから。そういったことの1つや2つ、あってもおかしくないと思ません?>
「確かに、ありえるかもね」


 は呆れながら、本日5杯目の紅茶を口に運び、1つため息をつく。
 飛行船を下りれば、すぐに任務に取り掛からなくてはならない。
 のんびり出来るのも、今のうちだ。


「……ん?」
<どうかしましたか、さん?>
「……ついに現れたわね」
<えっ?>


 ケイトは何のことを言っているのか分からないといった感じだが、には少なからず、
 何らかの勝算が見えているようにも感じられた。
 その証拠として、困っているケイトにこう付け加えた。



「真打の登場、ていうところよ。……タイミングがバッチリだわ」



 紅茶を飲みながら、ニヤリと笑うが何を思ってそう言ったのか。
 この時は誰も知る由がなかった。




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「よし、ここで止めて。すぐに準備を」


 ケルンに到着し、そこから歩いてすぐのところに、目的地である“黒い森(シュヴァルツバル)”がある。
 小型電脳情報機曰く、アベルとアントニオはここにいるらしい。


「いい? 中には、新教皇庁の連中もいる。公子とナイトロード神父を保護しつつ、相手の動きを止めて。
あ、あとついでだから、中にいる悪人さん達も逮捕しましょう。手間が省けていいわ」
「分かりました、シスター・


 周りにいる残りの神父達に指示を送ると、は銃を取り出し、店の中へと入っていった。

 店の中にいた者達が、自分達の姿を見て、慌てたように剣や銃を握ったが、
 その時にはすでに、によって弾かれてしまった後だった。


「これ以上動くと、もっと酷い目に会うわよ。もし会いたくないのなら、
ボルジア公子と、彼の側にいた神父様の居場所を教えなさい!」
「わ、わ、分かった! ボルジアと、一緒にいた神父は、地下のカジノの奥にあるオーナールームだ! 
何だかよく分からない刑事と一緒だった!!」
「『刑事』? ……ああ、そういうことね。助かったわ。本当、ご苦労――様!」


 に銃を向けられた男が居場所を白状すると、は銃で相手の首のつけてをぶつけ、気絶させてしまう。
 その他も、もうすでに半気絶状態である。

 他の神父達を連れ、地下のカジノへ向かう。客は悲鳴やどよめきが上がったが、そんなことを気にしている場合じゃない。
 ガードらしき男を2人とも、銃や体術で倒し、マジックミラーの扉を蹴破って乱入し、その場にいる全員に告げる。


「全員、そこを動かないで! 私は教皇庁国務分室派遣執行官、シスター・です。
新教皇庁の信徒全員、ならび、そこにいるヤバ目〜なお兄さん方、全員まとめて逮捕します!」


 新教皇庁のメンバー以外、特に何も調べていないため、その他の人間が簡単な扱いになってしまった。
 まあ、それでもいい。今はとりあえず、2人を見つけてリストを……。


(って、アベル、どこにいるのよ!?)


 必死になって周りを見回しても、肝心なアベルの姿が発見されない。
 となると、ボルジア公子でさえもいない確率が高い。
 でも、ここから逃げ出すと言うことはまずありえない。
 達が来るまで、ここは完璧にガードがついていた。
 その状況の中、どうやって外に出るというのであろうか?


「おのれ、教皇庁! くたばっちまえ!!」


 周りにいる信徒が、一気に攻撃を仕掛けてくる。
 を含めた神父達も負けずに攻撃を繰り返す。
 その間も、はアベルを探すのに余念がなかった。


「ナイトロード神父! どこにいるんですか!?」


 珍しく敬語なんかを使ってみたりもしたが、なかなか反応が返ってこない。

 ……まさか、やられたんじゃ!!?


さ〜ん! ここです〜!!」


 少し焦り出した時、どこからか聞き覚えのある声がして、はすぐに声が聞こえた方を見た。
 しかし、そこにはアベルの姿は見当たらない……、と、思っていた。

 しかし……。


「……ア、アベル!? 何なのよ、その格好は!!?」




 そこには、白のスーツに柄物のシャツを着て、後ろにいる1人の男性に無理矢理前に出され、防御代わりにされているアベルだったのだった。








「MIDNIGHT RUN」です。
最初、電車で移動にしたのですが、ガイドブックで調べたら時間的に無理だと判断して、飛行船にしました(汗)。
どう考えても、短時間での到着は無理だ……。

今回は回収チームのリーダーです。
さん、リーダーシップが得意そうなので。
あとは、ちょっと遊んでみたり。
前回が暗かったので、今回は楽しませてもらいました。
いい気分転換ですね、フフッ(笑)。



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