しばらく走らせると、大型装甲車とトラックを発見し、装甲車の中からトレスとレオンによって、アベルが救出されたところだった。
「アベル! あなた、大丈夫なの!?」
「や、やあ、さん……。またご迷惑、おかけしましたね」
「そんなことはいいから、じっとしてて」
はアベルの前に手を沿えると、そこから両手にオーラを集め、アベルの体を包み込むように流し始めた。
傷は少しずつなくなり、徐々にだが、顔色も戻って来ていた。
「さん、もう大丈夫です。これぐらいだったら、何とかなります」
「でも!」
「お願いします、さん」
アベルの顔を見て、は彼が何を言いたいのか、すぐに察知した。
そして、分かったように頷き、オーラの流れを止めた。
「さて、これからどうするの?」
「法王宮に急行する。ナイトロード神父とガルシア神父、シスター・は方柱(オベリスク)を破壊しろ。俺はミラノ公に合流する」
「よっしゃ、急ぐか!」
レオンは護送車から飛び降りて、陽気な口笛を吹きながらトラックに向かおうとしたが、途中でその足が止まった。
「どうしました、レオンさん?」
「動くな(アルト)!」
「え……!?」
レオンがアベルの肩を恐ろしい力で掴むと、そのままトラックから離れるように後ろに下がった。
それと同時に、目の前のトラックが夜空に舞い上がり、地面に叩きつけられた。
「わぷっ! な、何が……」
「……見つかったのかも、ね」
の言葉通り、目の前には帰還拳銃で武装した征服の群れ――特務警察と2人の異端審問官がはばかったのだった。
こうなると、すぐに突破するのは難しすぎる。
「異端審問官2人に特警1個中隊……、どうやら余計な時間を食っちまうことになりそうだな」
「否――、ここで足止めされるのは好ましくない。彼らは俺が制圧する。卿らは先行しろ」
「ちょ、ちょっと待って下さい、トレス君! いくら君でも、異端審問官を2人も相手どって……」
「そうよ、トレス! ここは、私も残って……」
「問題ない(ノー・プロブレム)」
トレスはいたって冷静に、いつも通り無表情で同僚に指示を出す。
「制圧が完了し次第、俺も合流する。それまでは、ナイトロード神父とシスター・、卿らでミラノ公のガードにあたれ。
ガルシア神父は例の方柱の破壊を」
「……分かったわ。行くわよ、アベル!」
「あ、はい!」
はアベルに一声かけると、護送車のおかげで助かった自動二輪車に乗り、エンジンをかける。
エンジンをふかす音が、いつも以上に大きく聞こえる。
「ところで、さん。これ、どうやって飛び越えるんですか?」
「私を誰だと思っているの、アベル? これぐらい、ちょろいもんよ。しっかり捕まってなさい!」
「あ、はい……って、うわっ!」
急に走り出したため、アベルが少しもだえたが、しっかりとバイクの後ろを掴み、体勢を整える。
はそれを確認すると、前方の集団から少し離れた位置まで走り、折り返して、喘息疾走で走り出した。
時速がどこまで出ているのかは分からないが、かなりのスピードなのには変わりない。
そのまま、目の前の集団に向かって、突進するかのようにも見えた。
しかし集団の1歩手前あたりで、自動二輪車の前輪が宙に浮き、その後すぐに後輪も宙に舞った。
大きな物体が、集団の真上を華麗に飛んでいき、集団の後ろで無事に着地する。
その姿はまるで、スローモーションのようにゆっくりと見えて、誰もが見ても迫力のあるアクションだった。
「……本当、ありゃあ見事なもんだな。俺でもあんなこと出来ねえよ」
「無駄口の暇があるなら、速やかに動け、“ダンディライオン”」
惚れ惚れとしたように言うレオンを一喝すると、トレスは2挺の戦闘拳銃が抜き放たれ、銃口を掲げた特警に向けられたのだった。
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猛スピードで走り続ける自動二輪車の後ろで、アベルが少し怯えながらも、にしっかり捕まっている。
普通だったら、逆にならなくてはいけないのだが。
「さ〜ん! このスピード、やばくないですか!?」
「いいから、黙ってなさい! こっちは急いでいるんだから!」
「急いでいるのは分かりますが、交通規則はしっかりと……、うわおっ!!」
突然の左折に、アベルが慌ててにしがみ付くと、そのままの勢いで急ブレーキをかけた。
「スクルーが言っていた場所はここね。……大丈夫?」
「すでに天国行きそうですよ、もう……」
アベルが少しへたりながらも自動二輪車から降りると、はそのままエンジンを止めることなく、
両手につけていた手袋の裾を引っ張り、高々にエンジンをふかした。
「あれ? 行かないのですか?」
「アベル、私が何も理解してないと思っているわけ?」
「何を、です?」
「使うんでしょ……、“あれ”」
の言葉に、アベルはハッとしたように彼女を見て、そして苦笑しながら言う。
「……やっぱり、バレましたか」
「傷を治す時、半分しか完治してない状態でやめろって言うんだもの。すぐに分かったわ」
「でも、それとさんが行かないのと、どういう関係があるんです?」
「今行ったら……、きっと私も、使ってしまうから」
「……え?」
「こんな大掛かりなことを仕掛けた本人に向かって、使ってしまいそうだから」
バルセロナでノエルを殺し、アルフォンソの手を借りて、ローマに大きな爆弾を仕込んだ相手を、
アベルと同じぐらい許せない気持ちでいっぱいになっていた。
しかしアベルの「あれ」と一緒に起動させてしまったら、一気に廃墟になる可能性が高い。
そうなってしまったら、カテリーナですら助けるのが困難になってしまう。
「だからね、ここはすべて、アベルに託そうと思って。私が出てもいいけど、そうなると、余計ややっこしくなりそうだからね。
その代わり、ちゃんと戻って来なさいよ」
「さん……、ありがとう」
「私はこのまま、レオンの方に行く。トレスの方は、本当に1人でもやっちゃいそうだから、ほっといても大丈夫だし。
それにもしもの場合のために、優秀なプログラマーがついてなきゃね」
「……そうですね」
アベルの腕をそっと掴み、そのまま自分の方に引き寄せ、優しく抱きしめる。
アベルも、に握られていない方の腕を彼女の背中に回すと、強く抱きしめた。
「これだけ力があれば、大丈夫ね」
「さんが、半分ですけど治してくれましたから。それに今も、こうしている間に、力が戻っていくようで安心します」
「そう……、よかった」
そっとアベルを離し、優しく微笑むその顔は、久し振りに見る「天使」の笑顔だった。
近頃、この笑顔を見ていなかったような気がする。
「……ありがとう、さん」
「どういたしまして。さ、カテリーナが厄介なことになる前に、早く行って!」
「あ、はい! ……さん」
「ん?」
「やっぱりあなたは……、白の方が似合ってますよ」
「……へ?」
「じゃ、行ってきます!」
驚いた顔をしているを無視して、アベルは彼女に背を向け、地下墳墓(クリプタ)へと入っていった。
アベルが言った言葉がよく分からず、一瞬困ったような顔をしただったが、
しばらくして、すぐにその意味を理解し、自分の身の回りを見回して、少し苦笑した。
「全く、あなたには……、敵わないわ」
ポツリと呟き、再びエンジンをふかす。
そして次の目的地に向かって、再び走り出したのだった。
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「神父レオン、私の声が聞こえますか?」
『バッチリだぜ、。……何か、ザーザー言ってないか?』
「自動二輪車を運転しながらだから、仕方ないのよ」
『ってことは……、まだ着いていないのか!?』
「ううん、アベルは無事に着いたわ。けどレオン1人じゃ大変だろうと思って、私だけ抜けて来たの」
『そりゃ、助かるな。……おっとてめぇ! 危ねえじゃねえか!』
「……そこに何かいるの?」
『ああ。何かよく分からんが、口のでかいミミズみたいなのが、地面を這いつくばっていてよ。なかなか方柱まで進めねえんだ。……ぬおっ! 本当に、ムカつくぜ』
どうやら、あの“魔導師”は何かを仕掛けたらしい。
の頭に、ヴェネツィアで見た顔が頭を遮った。
イザーク・フェルナルド・フォン・ケンプファー。
今、一番彼女が敵視している人物だ。
もし同じ者がノエルを殺し、今回の騒動を引き起こした人物なのであれば……、アベル1人で行かせるのは、間違いだったのかもしれない。
しかし、ここで振り返ってはいけない。
とりあえず、早くレオンの元へ行き、あの方柱を破壊しなくては。
レオンとの通信を終わらせ、ギアを入れ替え、スピードを上げていく。
目的地までは目と鼻の先だ。
サン・ピエトロ広場に到着すると、自動二輪車を乗り捨て、
目の前で無数の巨大ミミズ――“地精(グノーム)”を相手に奮闘するレオンの姿を目撃した。
「レオン! 大丈夫!?」
「大丈夫と言えば大丈夫だが、かなり面倒だぜ、こりゃ」
「このままじゃ、破壊どころの話じゃないわね。……こうなったら、私がこいつらの相手をするから、
レオンは急いで“サイレント・ノイズ”を破壊して!」
「分かった。あまり無茶はするなよ!」
「分かっている!」
はレオンとハイタッチをして交換すると、両側に備えてある銃を取り出し、フルロードモードに切り替え、
地面に亀裂を作りながら移動する“地精”に向かって撃ち始めた。
あまりにも巨大なため、1発では死なないのだが、中に仕込んである強装弾のおかげで、何とか倒し続けていった。
その間、レオンは制服から取り出した粘土の塊を、が来る前に仕掛けた信管と違うところに埋め込むと、
方柱へ慎重に爆薬を仕込んで、スイッチを入れた。
爆破まで、あと5分だ。
「! こっちはバッチリだ!」
「分かったわ。あとはこいつらを……!」
“地精”を避けてながら話している時、の胸元が、急に激痛が襲いかかった。
あまりの痛さのため、その場にしゃがみ込んでしまうと、目の前から“地精”が襲い掛かろうとした。
「! ヤバイ、、逃げろ!」
「―――!!!」
胸の痛みは、そうすぐに動けるものではない。そんな時に襲われたら、いくら彼女でさえも、ひとたまりもなくなってしまう。
どうすればいいのかと、悩んでいた時―――。
腕時計式リストバンドの円盤が勝手に動き、「1」で止まる。ボタンが自動で押され、
基盤の針が彼女の手首に軽く刺さり、そこから大きなバリアが発生した。
それに向かって突進してきた“地精”がバリアに当たった。
相手はそれを破ろうとしたが、バリアから出てきた熱により、相手に発火し、そのまま燃え死んでいったのだった。
『……ご無事ですか、わが主よ?』
「な、何と、か……。ありがと、フェリー……、助かっ……、うっ!」
『無理しないで下さい、わが主よ。今から、鎮痛剤を打ちます』
「お、お願い……、はぁっ!」
基盤の針の真ん中から出てきた針が手首に深く刺さり、そこから流れる鎮痛剤がの体に流れ出す。
それにより、少しずつだが、呼吸も正常になってきている。
「ありがと、フェリー。本当、助かったわ」
『構いません、わが主よ』
鎮痛剤の効果もあり、彼女は何とか立ち上がると、あと2匹まで減った“地精”に向かって、攻撃を再開させた。
さっきほど身軽には行かないが、もがき苦しんで殺されるよりもまだいい。
(アベル……、大丈夫なのかしら?)
あの激痛があったと言うことは、アベルに何かが起こったことのサイン。
下手したら、暴走している確率も高い。
そうなってしまった時、止めることが出来るのは他でもないだけだ。
そのがここにいるとなると、かなり厄介なことになる。
(早く終わらせて、アベルのところまで行かなくては……!)
残り1匹というところまで来て、は大きく身を翻した。近くにある壁を蹴り、相手の方に向かって飛んでいくと、
相手の口元を狙って銃を構える。
そしてそのまま、口腔におもいっきり打ち込んでいった。
「最後は俺に譲れ、!」
方柱から離れたレオンが、の方へ走っていくと、手首につけていた戦輪を投げ出し、
それが見事“地精”の首元を直撃し、頭部が地面にずり落ちていった。
そのまま頭から下も倒れこんだ時―――。
方柱に設置された小型爆弾が、静かに爆発したのだった。
「……、お前、大丈夫だったのか?」
「何とかね。原因は分かっているから、特に問題はないんだけど」
再び静寂が訪れた中、レオンが心配げにの顔を覗き込んだが、彼女の顔にはすでに元に戻っていて、いつもの彼女の笑顔があった。
「しかし……、こいつはすごいな。爆発したのにも関らず、まだ原型を留めやがる」
「本当ね。しぶといのにも、ほどがあるわ」
方柱が崩壊されたと言うのに、“サイレント・ノイズ”だと思われる部品は、焼け焦げているがしっかりと形が残っている。
その生命力に、2人は半分呆れたように見つめていた。
「さて、ミラノ公のところへ行くとするか」
「そうね。……って、ちょっと、レオン。あなた、それ、持っていくんじゃないでしょうね?」
「え、ああ、だってよ、ちゃんとしとめたのを見せないとさ」
「……それ持って、私の愛車に乗られたら困るわ。一人で歩いていってくれないかしら?」
「あのなぁ、ここからそんなに距離はねえんだから、走っていくぞ、走って!」
「えっ! そんな、走っていくだなんて!! こう見えても、一応病人……」
「そんな元気な病人、どこ探してもいねえよ。ほら、行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、レオン! 待ってってば!!」
を置いて、先ほどの“地精”の頭部と“サイレント・ノイズ”を両脇で抱えて走っていくレオンの後ろを、
が少し慌てたように走り出した。
彼女が来る前にもたくさんの“地精”を倒したはずなのに、まだあんな体力があるのには驚かされるぐらいだ。
(これって、やっぱあのステーキ効果なのかしら?)
ふとそんなことが頭を横切ったのだが、相手に口にすることなく、そのまま彼の後ろを追いかけるようにして走り続けたのだった。
その間に聞こえた朝課の鐘が、朝のローマに、静かに響き渡った。
“クルースニク”と“フローリスト”が狭い場所に一緒にいるとかなり危険です。
どちらかだけが変わるのであればいいのですが、両方変わったら破壊しちゃうので(爆死)。
今のだと、10パーセントでは収まらないと思いますしね。
アベルが80パーセント出した状態で、が40パーセントになっちゃうとやばいです。
2人して、破壊神になってしまったら、それこそ「トリブラ」じゃなくなるよ(汗)。
で、結局、レオンの方につけましたが……。
書いていて、意外と難しかったです(爆)。
第一、本文では爆発音とかが特になかったので、一瞬解体したのかと思ったのですが、
レオンがケンプファーの前に到着した時には焼け焦げている、ということなので考えました。
とりあえず、こんな感じでは仕上げたのですが、すんごく心配です。
大丈夫だったでしょうか??? ハラハラドキドキ←古っ!
(ブラウザバック推奨)